51 攻防
同じく慌ただしくしていた、ラドフォード侯爵家のアイロスとクリスタが訪ねてきたのはその後すぐのことだった。
あらかたの報告は聞いていたが、彼らは領地の方にいた当事者であるし、顔を見て話をしたいとも思っていたのでちょうど良い。
オリヴァーと対応すると、二人は以前と違って婚約者らしく少し距離が近くなっていて微笑ましい。
「兄上からの王族と争うと言う決断を受けて、父はラドフォード側から警戒し、自分たちはエヴァーツ伯爵家のマナーハウスで待機していたわけです。そこにちょうど昼頃、見慣れぬ騎士団が王命を受けたことを理由に領地に進入しようとしていると報告を受けました」
「そうなんですっ! 王命と言うこともあり急ぎで入ろうとしてくるところにすぐに向かったんですっ、すごくびっくりしましたよね」
「人数も多かったですし、なにより自分たちが出てきたことによってあちら側も困惑している様子でして」
二人は、若干興奮している様子で身振り手振りを加えて話をする。
「でも! オリヴァー様が託してくださったエヴァーツ伯爵の一時的な権利の委任状があって、まだ成人していないよその貴族である私たちの話を一時的には聞いてくださいました」
「ただ、相手は焦っている様子で、それでも王命だからと強引に押しきられそうになっているとき……ロメーヌの泉の方から、体色が灰色で赤いリボンをつけている白鳥が仲間を引き連れて飛んできたのです」
それはまさしく、シュネーのことであり、その日の朝方に、シュネーに言い含めていたことだった。
可能ならば領地を守ってほしいと、伝えてあったのだ。
もし強引な手段に出られたとしても、領地の安全を守れるように、ラドフォード侯爵家にもオリヴァーを介して連絡をし、万全を期していた。
父が騎士を送ったという話を聞いて顔を真っ青にしていたのは、アイロスとクリスタそしてシュネーを心配してのことだったのである。
「魔獣化した白鳥の集団が自分たちを守るように立ちはだかり、騎士団からは恐れ逃げ出す人さえいました。自分はあんな神秘的な光景初めて見ました」
「私もですっ! すごかったんです! 本当に、特に、シュネーと言うんでしたっけ? あの白鳥は先頭に立って威嚇して! かっこよかったんです!」
「そうして騎士団たちは撤退していき、その後連絡が来てすぐに引き返して行きました。戦闘が起こるかもしれない状況で、緊張していたのですが役目を無事に終えられてとても安心しています」
アイロスは、かみしめるようにそう言って、自分の胸に手を当てた。隣に居るクリスタは元気に笑みを浮かべて「私もですっ!」とえへへと笑う。
クリスタの肯定にアイロスはこくりと頷いて、眼鏡を押し上げて、ヘルガとオリヴァーの方を見やる。
「ヘルガさん、兄上、自分たちを信頼して任せてくださりありがとうございました。……あなた方から見て、自分たちはエヴァーツ伯爵家の守り手としてうまくやれたでしょうか」
問いかけられるとすぐにオリヴァーは前のめりになって「もちろん!」としっかりと言葉にした。
割と任せるまでは、不安がっていてくよくよしていた部分もあったが、ヘルガと話し合って決めたのだ。
結果もきちんと出ている。任せて良かったと心から思えているだろう。
「とても今回のことで、頼りになった。領民に一人の犠牲も出さず、荒らされることもなかった」
「白鳥のおかげもありますが……」
「それを鑑みても、俺は、君を信じて良かったと思ってるんだ。アイロス……クリスタも、弟のそばにいてくれてありがとう」
「いえ! 好きでそばに居るので、大丈夫です!」
クリスタの言葉で、彼らの間にはきちんとした信頼関係があるのだと思うと胸が熱くなる。
「……自分もクリスタがそばにいてくれることをとても嬉しく思っています。とても大切な人です」
アイロスは元気に答えたクリスタの方を向いて、改めて気持ちを伝える。
しかしそれを聞いてクリスタは、目をみひらいて少し硬直してから、ボンと効果音がつきそうなくらい急に赤くなった。
「あ、」
アイロスが、しまったというような声を上げる。
オリヴァーとヘルガはあらまぁとその様子を見ていた。
「も、申し訳ありません。クリスタ、つい気持ちが高まって……ヘルガさん、兄上これは特殊な病気などではなく、クリスタは少し恥ずかしがり屋で。自分が褒めるようなことを言うとこうなってしまうんです。希にこうして間違えてしまいまして」
「……」
「大丈夫ですか、クリスタ。二人の前ですみません。こんなに赤くなって、体を支えましょうか? 体が熱いですね、辛くはないですか?」
アイロスはかいがいしく心配しているように手を取ってのぞき込むが、途端にクリスタはふにゃふにゃになって、顔を隠して「そのぉ……あのぉ……」としどろもどろだ。
しかし、オリヴァーもヘルガもまったくもって、心配する気持ちはなかった。
クリスタはよほどアイロスが好きなのだろう。そしてアイロスも、クリスタへの気持ちがある。
しかしそのアイロスの気持ちに彼女はまだ向き合えていないだろう。それに相手はあのアイロスである。
乙女の恋心というのを理解するのはまだまだ先になるだろうし、クリスタはそれを説明できるほど成熟してはいないのだ。
いわば若い故のすれ違い、そう思うと微笑ましくてじれったくてなんだかつつきたくなる。そんな心地だった。
これはなんとも形容しがたいが、素敵な恋模様である。
是非ともこれからも見守りたい二人なのだった。




