最終話 救われたのは…
転生してから2年近く経った。
最初は「地獄の釜」のように見えてた満員電車のぷんぷんゲージは、今の夏夫は気にしない。
何より、売場の見方が変わった。
「店長が怒る前にやっておこう」「あのお客様、急いでるな」「あの方は探し物をしてイライラし始めている」
能力で分かる前、火がつく前に、夏夫がそっと動く。それだけで、売り場の空気が整う。
夕闇が差し込む売り場で、神子が夏夫をじっと見つめていた。
「……何だよ神子?何か言いたげだな。」
「…四波さん、今のあなた、働いてる時すごくいい顔してますよ」
夏夫はハッとして、自分の顔をサービスカウンターの鏡で見た。
そこには、かつての「やる気のないおじさん」ではなく、自分の仕事に自信を持って働いている、一人のプロの顔があった。
「……まあ、今日が平和なら、仕事終わりのビールも美味いからな…。」
視線を逸らすと、笑顔から少し寂しそうな表情になった神子が静かに話はじめた。
「…私がいなくなっても…。もう世界(売場)もあなたも大丈夫そうですね。」
神子の体が、淡い光に包まれる。
「えっ、ちょっと、神子?!」
「さようなら、四波さん。……あ、最後に一つ。冷蔵庫の奥に私のプリンあるから、食べていいですよ」
「おい!神子…!」
光が強くなり、夏夫が目を細めた瞬間、彼女の姿は消えていた。
「…明日からのシフトどうすんだよ…。」
神子が突然消えた。
それと同時に視界からぷんぷんゲージも、センサーの光も売場から消えていた。
その後、誰も神子のことは口にしない。能力も見えなくなって神子が今までいたのかどうかも分からなくなった。
休憩室に行った時、冷蔵庫を開けるとそこには平仮名で「じんこ」と書かれたプリンがあった。
確かに神子はここにいたんだと感じられた。
神子が消えてから数日。
夏夫は能力がなくなってからも売場をスムーズに周せている。
ただ、神子がいない売場に少し寂しさを感じていた…。
「…で。なんでいるんだ?神子。」
いつもの眼鏡をかけ、いつものエプロンをした神子が、惣菜コーナーの品出しをしていた。
「おはようございます四波さん。数日希望休出してたんです。パートですから」
「…自分がいなくても大丈夫とか言って消えたろうが。」
「神無月だったので、久しぶりに出雲に行ってました。お土産のお饅頭、休憩室に置いときましたよ。」
「…。」
夏夫は感情がかき回されすぎて言葉が出なかった。
言葉が出ない夏夫の顔を見ながら、神子が食えないパートの笑顔と無邪気な女神の声で言った。
「クスクスクス。神はいつでも、あなたのそば(の売り場)にいるのです!」




