第六十九話 ケイオス・フラッグの脅威
「プラティエよ。ここからは全員、本気モードじゃ。話は聞き逃さないことを勧めるぞ」
こっそり、クルピアちゃんが俺の情報端末にメッセージを送ってきてくれた。
俺はロック画面を開けずにそれを見て、再び視線を円卓の中央へ戻す。
ハンナ・ブルーミンの代理人、ルクリオさんは言う。
今回のような大規模離反は、今世紀始まって以来なのだという。
これまで魔術師が魔術界と敵対して離れることはあったが、数十名規模のもの、それも最高位魔術師が二人も絡んでいる事案は、魔術界の歴史を見てもそう多くないのだとか。
俺は生唾をゴクリと飲みながら、話を聞き続ける。
彼らが魔術界を裏切った理由は、「新たな魔術秩序の構築」を目論んでいるからであるとの情報が入っているらしい。
魔術界に不満があるのか、それとも何かよろしくないことを企んでいるのか、それは分かっていないそうだ。
ルクリオさんの口を借りた、ハンナさんは言う。
厄介な二人が離れたものだと。
離反した最高位魔術師の片方であるハーキム・バドラムは、全てを死へ追い遣る魔術を得意とするようだ。
死生魔術。
それは生命に関わる魔術であり、一部の稀有な才能を持つ者にしか使えない魔術の一種だそうである。
死因が寿命以外で、かつ死後三時間以内なら蘇生も可能であるという死生魔術だが、しかし魔術師ハーキムは、それを人殺しに使っているようだ。
そしてもう片方の魔術師、「レイヴン・クロスハート」も、死生魔術の使い手である。
しかし彼女はハーキムと違い、死生魔術のみではなく、特殊な魔術を使うのだという。
全身を「強化」で強化し、手にした鎌で相手の喉を切り裂く。
それに使う魔術は、彼女の完璧な精度から繰り出される、短時間の連続した「強化」による《《加速》》。
圧倒的なスピードを誇る彼女は、死生魔術を使わなくとも、一度に多くの魔術師を殺せるそうだ。
最高位魔術師の中でも、戦魔術師として活躍していた二人。
実際にケイオス・フラッグを潰しに行くのであれば、彼らとの戦闘は避けられないだろう。
「実際に、彼らは強大です。一部の魔導具も持って行かれてしまいました」
「マジですか」
「ええ、マジですよプラティエさん。それに、我々最高位魔術師は、全員が全員、戦いが得意という訳ではありません。……状況は、思っているよりも悪いと思ってください」
「……のう、ハンナよ。現状、誰が動けるのかを教えてはもらえぬか?」
「現在、戦闘員として動ける最高位魔術師は限られていますね」
実質的に動ける最高位魔術師は、以下の通りである。
異端者、クルピア・イロア。
不思議の魔女、アリス・スコット。
鬼の末裔、クイナ・トドメキ。
兆しの鼠、アギル・メーティッチ。
流浪の者、ペデロヴィッチ・マルケウス。
勇者の末裔、タウレス・アストラ。
深淵よりの者、ハーミア・レッグ。
不死なる者、フリート・スタルノフ。
戦場の悪魔、バルデル・アルペンハイム。
屍の王、シン・アルカルド。
射手、フレッド・マックスウィン。
そして。
白百合の騎士、プラティエ・ノルン。
以上、十二名。
動ける最高位魔術師の数は、単純計算でケイオス・フラッグ六倍。
負ける訳が無いと、数字だけを見れば思ってしまう。
しかし、向こうはテロリストだ。
こちらが相手の拠点を掴むまでは、必然的に攻撃を仕掛けるのは向こうということになる。
どうしても俺達、魔術界勢力は、後手に回らざるを得ないということだ。
俺達はケイオス・フラッグを倒さなければならないが、それはそうとして、各々最高位魔術師としての生活があることは事実。
常にまとまって動いている訳でも無い俺達を、向こうが一人ずつ狙って攻撃してくるとすれば、各個撃破で一人ずつ数を減らされてしまう可能性は十分にある。
とりあえず、しばらくは俺もクルピアちゃん、アリスちゃん、クイナさんとあまり離れないようにして……学校の方には、顔を出さない方が賢明かも知れない。
いつ、どこで襲撃を受けるかも分からない都合上、ベルリナちゃんやバルディオを巻き込む訳にもいかないからだ。
「とりあえず、妾達はまとまって動くとしよう。プラティエ、アリス、クイナ。それで良いな?」
「俺も同じこと考えてました」
「うん!もっと強くなった騎士サマがいるなら安心ね!」
「は、はいぃ……!怖いですもんねぇ、敵……!」
そして、対ケイオス・フラッグの会議は終わりを迎えた。
しばらく、落ち着いた生活はできそうに無い。
俺達は地下道を抜け、クルピアちゃん達と一緒に地上へ戻ろうとすると、背後から呼び止められた。
「プラティエよお!帰る前に一つ、手合わせを願えねぇか!」
バルデル・アルペンハイム。
戦場の悪魔と呼ばれた男だ。
そんな人が、俺に模擬戦を申し込んでくるとは。
「バルデルさん?どうしたんですか、突然」
「聞いたぜ。クルピアの弟子なんだってな。そして、真理の真理に触れたんだと」
「そうですけど……それがどうかしましたか?」
「そんなん聞いて、ワクワクしねぇでいられるかってんだ!味わわせてくれ!お前の魔術!」
これはまた……随分なバーサーカーに絡まれてしまったらしい。
「良いですけど……場所が悪いですね。クルピアちゃん、例の地下闘技場に案内してくれませんか?」
「やれやれ。まあ、良いぞ。行くか」
「頑張ってね、騎士サマ!」
「ひ、ひぃぃ……」
こうして、俺達は会員制バーの隠された地下闘技場に向かう。
今までは俺の方から勝負を挑むことが多かったが、ここに来て最高位魔術師から挑戦を受けることになるとは。
あのギラギラした目。
おそらく、お互いに手加減を視野に入れた戦いにはならないだろう。
俺は「戦場の悪魔」と呼ばれる男を前に、覚悟を決めるのであった。




