第七十話 戦士バルデル
「二人とも、準備はできておるな?」
「はい!」
「おう!」
「用意……始めっ!」
クルピアちゃんの号令と共に、俺は腕輪を、魔術師バルデルは杖を構える。
「【雷電】ォ!」
魔術師バルデルの杖から、瞬時に雷が放たれた。
現代魔杖。
やはり詠唱が魔術名の詠唱だけで済むのは、絶対的なアドバンテージである。
「あばばばばばばば」
俺は防ぐ間も無く、全身に電流を浴びてしまった。
今の俺は、慣れた魔術なら、魔術名を詠唱している間に調整が完了するため、長い魔術名を唱える必要は、精度にこだわらない限り必要なくなっている。
しかし、僅かに隙が生まれてしまう旧式の魔術で、現代魔杖から放たれる電流に対抗するのは至難の業。
魔術師バルデルと俺の相性は最悪であった。
「続けて行くぜェ!二つ目の魔術!【電磁砲】!」
体勢を立て直す間も無く、今度は電磁力を活かした高速で突っ込んでくる。
「【水】!」
「ビャァッ!?……やるじゃねェか!」
俺は咄嗟に「水」で水の壁を作り、電磁力を纏った魔術師バルデルを感電させた。
「【屈折迷彩】!【音】!」
彼が怯んでいる間に、俺は「屈折迷彩」で姿を隠す。
そして、「音」で四方八方へ足音を送り、また自身の足音を消すことで音の中に紛れた。
「おぉ……こんなこともできんのか……!やるじゃねェか、新入り!だが!【電磁指針】!」
しかし、俺の脳から発される微弱な電気信号を感じて、魔術師バルデルはこちらへ向く。
位置がバレてしまったようだ。
「げっ」
「バレバレだぜェ!【雷電】ォ!」
「あばーっ!」
そしてもう一撃、喰らってしまった。
「ゥし!軽くトドメといくかァ!四つ目の魔術!【雷電静狩】!」
「マズい……!」
魔術師バルデルの杖から、バチバチと電流が溢れ出す。
このままどうにも出来ずに負けてしまうのだろうか。
「プラティエ!」
「頑張って、騎士サマーっ!」
否。
そうであってはならない。
可愛い少女が二人も、俺を応援してくれているのだ。
たとえ模擬戦であっても、ここであっさり負けるようでは、最高位魔術師に推薦してくれたクルピアちゃんとアリスちゃんの面目も潰してしまいかねない。
これは試練だ。
二人の顔を立てるためにも、俺はここで負ける訳にはいかないのだ。
「【魔力攻撃】!」
俺は細かな調整を必要としない「魔力攻撃」で、魔術師バルデルの杖を狙う。
「うおッ!?マジかよ!?杖だけをピンポイントで……!?」
魔力が溜められていた彼の杖は、「魔力攻撃」の衝撃を受けて宙へ。
「【火の鳥】!」
そして、杖を拾いに行こうと走り出す魔術師バルデルに合わせて「火の鳥」を飛ばし、進路を妨害する。
「チッ!こいつは……!」
「終わりだッ!【強化】!」
一転攻勢。
俺は全身を強化し、そのまま杖を奪い去って遠くへ投げ飛ばした。
「何ッ!?」
「オラァッ!」
「ゲフッ!」
そして、杖を拾い損ねた魔術師バルデルの顔面に飛び蹴りを喰らわせる。
「杖を使ってる人の弱点。それは手から杖を話した瞬間に魔術を使えなくなることです。俺みたいに腕輪を着けていたら、手を塞ぐこともなく、外れることもそうありません」
「くッ……!」
「さあ、これで終わりです!炎よ、不死鳥の姿を以て……」
俺が呪文を唱え、完璧に精度を合わせた「火の鳥」を繰り出そうとしたところで、
「あー……!参った!降参だ、降参!」
バルデルの口から、「降参」の言葉が飛び出た。
「勝者はプラティエ、じゃな」
「やったわね、騎士サマ!」
「も、もう、終わりました、かぁ……?」
「ふぅ。対戦ありがとうございました」
俺は腕輪に込めた魔力を空間へ解き放ち、右腕を下ろす。
「ありがとな!いやあ、まさかこの俺が、杖を吹き飛ばされちまうとはなぁ。魔術の精度が一々半端ねぇ……まるで百歳超えのジジイと戦ってるみてぇだってのに、動きは若ぇんだから、参っちまうなァ」
「それは褒められてると受け取って良いんですよね……?」
「褒めてるに決まってんだろォ!基本がなってねぇと、あんな芸当は出来ねぇ。クルピアから魔術を教わったってのは、本当みてぇだなァ!」
「ええ。俺がここまで成長できなのは、クルピアちゃんのおかげです」
「フン、当然じゃな。じゃが、よくやったぞ。プラティエ」
「もっと褒めてくれても良いんですよ?」
「アーハイハイ、ようやったようやった」
「ひどい」
折角勝ったのに。
そう露骨に面倒くさがらないで頂きたい。
俺は若干拗ねつつも、魔術師バルデルと握手を交わし、バーを後にする。
それからは各々解散し、しかし互いに連絡はいつでも取れるよう、いつもの通信端末の他に、緊急信号を送信できるトランシーバーのようなものを持ち歩くことにした。
これは「テレパシストーン」の原理を応用した魔導具のようで、使用者として登録した人間が危機であると察した際に、自動で電波を発信し、同じチャンネルに設定してある半径五キロメートル以内のトランシーバーに連絡が伝わると、そういうものである。
つまり初期設定だけしてしまえば、後は持ち歩くだけであり、魔導具音痴の俺でも簡単に使える、そんな救難信号専用のツールという訳だ。
俺は自室の扉を開き、カーテンを閉めて眠りにつく。
しかしそんな夜。
「なぁ、プラティエ。……入って良いか?」
ベルリナちゃんが一人、俺の部屋を訪れたのだった。




