第六十八話 最高位魔術師の会議
「最高位魔術師プラティエ・ノルン」の誕生から、二ヶ月後のこと。
俺は以前と変わらずに、パルグレフ魔術学院の一年生として、日々、魔術の勉強に励んでいた。
戦闘に便利な魔術は色々と覚えたが、生活や探究に必要な魔術の知識は、他の一年生と大きくは変わらない。
そんな俺だからこそ、学生として魔術を勉強することが大切だと思ったのだ。
しかし、そんなある日のこと。
俺を含む最高位魔術師の元に、一通の手紙が送られてくるのであった。
差出人の名は、「ケイオス・フラッグ」。
それは最高位魔術師である「レイヴン・クロスハート」や「ハーキム・バドラム」をはじめとした数百もの魔術師が魔術学院の籍を捨てて敵対し、新たに「ケイオス・フラッグ」という魔術社会を作り上げるといった旨の、脅迫状ともとることができてしまうような内容だ。
俺は最高位魔術師のみが集められる会合へ呼ばれ、パルグレフ魔術学院の地下、迷ってしまうような迷宮の最奥へ、クルピアちゃん、アリスちゃんと共に向かうのであった。
禍々しい雰囲気を漂わせている魔石が並べられている廊下を抜けて、広間へ。
そこには、かつて読んだ本に載っていた魔術師や、見たこともない異形の姿をした魔術師が、円卓を囲んで座っていた。
明らかに用意された枠よりも人数が多いが、それもまた、最高位魔術師に関する情報を錯綜させるためなのだろう。
正直、面識があるクルピアちゃん、アリスちゃん、クイナさん以外の魔術師と、昔の本で見た何人か以外については、誰が誰だか分からない。
「皆、最高位魔術師なのか……」
「いや、そうではないぞ。最高位魔術師の中には、姿を見せぬ者もおる。そういう類の者は、代理人が出てきておるんじゃ」
「あー、そういえば最高位魔術師一覧にそんなことが書かれてあったような」
「あっ!クイナちゃんよ!クイナちゃーん!」
アリスちゃんは魔術師クイナを見つけ、走って近寄る。
「こ、こんにちは……。先日は、あ、ありがとう、ございますぅ……」
「いいのよ!それより!見て!アリスの騎士サマが、最高位魔術師になったの!」
「あ、あの時の、男の子……!お、おめでとう、ございますぅ……!」
「どうも、クイナさん。身体の方は大丈夫ですか?」
「お、おかげさまでぇ、大した怪我もせずに済みました、えへへ、えへ」
「それなら良かったです。……あ、そろそろ会議始まるっぽいですね」
「そ、そぅですねぇ……。じゃ、じゃあ、皆、座りましょうか、へへ……」
「そういや、俺の席ってどこなんでしょうね」
「のう、クイナよ。プラティエの席を知らぬか?」
「プ、プラティエ君、は、第捌席だと、聞いてます……!離反したハーキムさんと入れ替わり、だとか……」
「分かりました。ありがとうございます」
俺はクイナさんに指差された席に座り、間も無く始まる会議を待つ。
すると、恐ろしい存在感を放つ魔術師がマイクを手に取り、話を始めた。
「お集まり頂き、ありがとうございます。初めての方もいらっしゃると思うので、自己紹介をば。私は『ハンナ・ブルーミン』……その代理人、高位魔術師の『ルクリオ・ネルク』です。本日、ハンナとは通信が繋がっているため、私がリアルタイムでハンナの言葉を繋ぎます」
この存在感で本人じゃないってマジか。
「久しぶりだなァ、ルクリオ。そうだ、新入りもいるからな、俺も自己紹介するぜ。俺は『バルデル・アルペンハイム』だ。戦魔術師やって長ぇが、まだまだ知りてぇことは山ほどある。新入りだろうが何だろうが、知りてぇ魔術があったら聞きに行くから、その時はよろしく頼むぜぇ」
続いて発言したのは、第伍席の一人、バルデル・アルペンハイム。
筋肉モリモリマッチョマンの、いかにもな軍人らしい人のようだが、インテリ系な部分もあるのか、魔術への興味は尽きないといった様子であった。
「どれ、そろそろ新入りに自己紹介をさせてはどうじゃ。いつまでも喋らないというのは、逆に気まずいというものではないか?のう、プラティエ?」
ここで、クルピアちゃんが俺に自己紹介を促す。
俺は立ち上がって腕輪を見せながら、口を開いた。
「初めましての方は初めまして。この度、新しく最高位魔術師になりました。『プラティエ・ノルン』と申します。まだ一年生ですが、頑張っていきますので……よろしくお願いします!」
気の利いたジョークでも言った方が良かったのかもしれないが、威圧ともとれる圧倒的な魔術師達の雰囲気に押され、特に当たり障りの無い自己紹介をすることで精一杯だった。
「おお、フレッシュじゃねぇか。よろしくな!」
すると、バルデルさんがこちらに手を振ってくれる。
「よろしくお願いします。期待していますよ。……と、ハンナは言っております」
ハンナさん……の代理人も、こちらをにこやかに見て、しかしすぐに視線を通信端末へ戻した。
「面白そうな子ね。先客がいなければ、私の弟子にしてあげていたところよ。……と、ハーミアも言っております」
そう話すのは、ハーミア・レッグの代理人。
彼女は深淵に触れ、闇の真理をモノにしたという。
代理人も、どこか重い雰囲気を放つ人である。
「プラティエは妾の弟子じゃ。腕は妾が保証するぞ」
「それに、アリスの騎士サマなの!すっごくカッコイイんだから!」
「お褒めに預かりまして光栄です」
クルピアちゃんとアリスちゃんは慣れ切った仲ではあるが、この場ではこの言葉遣いが正しいのだろう。
「それでは、始めましょうか。今回、皆様にお集まり頂いたのは、他でもない。『ケイオス・フラッグ』についてです」
ハンナさんの代理人が、パソコンのような情報端末から、資料と思しきホログラムを円卓の中央に展開する。
先ほどまでの和気あいあいとしたムードとはうって変わって、ハンナさんの代理人であるルクリオさんの顔が、一気に強張っていたことが、事態の深刻さを物語っていた。




