第六十五話 魔の聖人・ヴァレンティヌス
「もはや手加減は無用と見ました。喰らいなさい、我が魔術!【光銃無千】!」
現れたのは、光で生成された何十丁もの銃。
狭い廊下の中をビッシリと埋めるその銃は、確実にこちらを撃ち殺さんと、こちらに狙いを定めていた。
そして、光の弾丸が連射される。
「【衝撃音波】!」
「【マリオネットコンビネーション】!」
俺は爆音の「音」で弾丸を弾き飛ばし、アリスちゃんは二体の人形を呼び出して、あろうことか、ラッシュでそれを全て捌き切った。
「アリスちゃんヤバ……」
「最高位魔術師だもの!これくらい、どうって事無いわ!」
「【魔力の聖剣】!」
「受け流して!マリオネット!」
「隙アリですッ!【スネークバインド】ッ!」
しかしアリスちゃんは、魔力の聖剣を受け流すために人形へ注意を向けた隙を突かれ、拘束されてしまった。
「あっ!……や、やられてしまったわ……!」
「貴方もです!【スネーク……!」
「【火の鳥】!」
俺は「スネークバインド」を発動するまでの間に、早口で詠唱を済ませて「火の鳥」を放った。
「フンッ!……ふぅ、防火マントを着ていて良かったです。喰らいなさい!【魔力の聖剣】!」
しかし、一応は俺の必殺技になっている「火の鳥」が通じることはなく、そのまま反撃する隙を与えてしまった。
「ぐあっ!」
左腕と右腿に深めの傷。
ドクドクと溢れる血は、俺の膝を突かせるには十分であった。
「さあ、終わりです。大人しく、クイナさんを返して頂きましょうか」
「くっ……!不甲斐ないわ、最高位魔術師なのに……!」
「いいや、まだ終わってませんよ。アリスちゃん」
「そんな、もう無理よ!血がこんなに出てるじゃない!」
「いや。まだ無理はしてません。だからこそ、無理をします」
俺は残りの魔力を全て使い、自身に「強化」をかける。
「もう無理よ!騎士サマ……!」
「うゥゥォあァァァァぁぁぁぁ!」
強化した脚力で、捨て身の突進を仕掛けた。
「今更、何をしようと言うのです?貴方は所詮、一年生。いてもいなくても変わらないので、逃がしてあげようとも思っていたのですがね」
「ここでアリスちゃんまで拐われる訳にはいかねぇんだよ……!」
「これで散りなさい。【魔力の聖剣】」
飛んでくる六本の聖剣の内、二本は両腕で弾き飛ばす。
しかし二本は、俺の首元と腹部を掠め、そして回避に失敗した残りの二本は、左胸部と左腿を貫いた。
「うぐあっ!」
魔力で強化していたとはいえ、肉と神経を貫かれては、入るハズの力も入らない。
それでも俺は一歩ずつ、前へ前へと進み続けた。
「あれをまともに受けて、まだ立っていられるとは……。残念です。余計なことに首を突っ込まなければ、貴方は魔術師として大成していたでしょうに……」
「しっしししし……効かねえ、なぁ……!」
「痩せ我慢は身体に毒ですよ。早く意識を手放して、楽になってしまいなさい」
「嫌だね……!うぉぉぁッ!」
俺は最後の力を振り絞り、傷口から吹き出す血を無視して、前へ飛び出す。
ヴァレンティヌスとの距離は、あと三歩まで近付いた。
「終わりです。未来ある若者の命を奪うのは、私の望むところではありませんが……。無駄に苦しませるのも、私の趣味ではありませんので。喰らいなさい。【魔力の……」
「うぉぉぉ……!」
魔力の聖剣。
これを至近距離で受ければ、俺の命は無いだろう。
しかし俺は退かずに、一歩、二歩、歩みを進める。
ヴァレンティヌスの光は聖剣の形をとり、こちらへ突っ込んでこようと、狙いを定めた。
それでも下がらず、俺はさらに一歩、足を進める。
「さようなら。若き魔術師よ」
そして、聖剣が発射されようとした、その瞬間。
「オラァァァァッ!」
俺は流血が止まらない右脚に全神経を集中させて、ヴァレンティヌスの股間を思い切り蹴り上げた。
「はぐあっ!?」
光の聖剣は暴発。
辺りの壁を破壊し、しかしそれが俺やアリスちゃんに命中することは無かった。
「お前は……魔術に頼り過ぎなんだよ……!」
「き、貴様ァ……!」
「フンッ!」
俺も限界を迎えたのか、重心が崩れて、前へ倒れ込む。
しかしその勢いを利用して、右手で股間にパンチを叩き込んだ。
「ひぎゃぁぁぁぁっ!」
「タダではやられねぇぞ……!」
そのまま金玉を掴み、強化された右腕で、思い切り引っ張る。
「や、やめ……!」
「うォォォらァァァァァァァ!」
そして、「ブチブチッ」という音と共に、ヴァレンティヌスの股間から、ナニかが引き抜かれた。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
もう、起き上がれない。
俺の身体は、おそらく全ての力を使い果たしたのだろう。
しかし、その右手に握られた金玉は、確かに俺の勝利を宣言していた。
股間から大量に血を流しているヴァレンティヌスは、そのまま白目を剥きながら倒れ込む。
「……ヘヘッ。やった……ぞ……!」
「騎士サマ!騎士サマぁぁぁ!」
薄れゆく意識の中、アリスちゃんの声だけが、俺の耳に入ってきた。
もう返事をする力も残っていない。
あの可愛らしい声をもう少し聞いていたかったが、それは叶わず、俺はそのまま、意識を手放すのであった。




