第六十四話 王都中央教会 後編
「こ、この人がクイナ・トドメキですか!?」
見るからに気弱そうな、妙齢の女性。
「は、はいぃ……わ、わたしが、クイナです……一応、最高位魔術師、やらせて、もらってます、はいぃ……」
俺達は一時期的に「屈折迷彩」を解き、アリスちゃんと俺の姿を見せておく。
この人が、何かと狙われがちな魔術師クイナのようだ。
まさか、こんなところに捕まっていたとは。
「あ、会えちゃった……わね」
「どうします?とりあえず連れ出しましょうか」
「そうね!クイナちゃん!魔術学院に帰りましょ!」
「は、はいぃ……。貴方達のことは、わ、分からない、ですけどぉ……そ、そうしてもらえると、た、助かり、ます……」
俺とアリスちゃんはクイナ・トドメキの拘束を解き、再び「屈折迷彩」をかけて来た道を戻る。
しかし廊下を出ようとしたところで、違和感を覚えた。
「アリスちゃん!閉めたハズの鍵が空いてる!」
「誰か来たってことかしら」
「それにしては道中で会っていない……妙ですよ」
「そ、それって何か、おかしいこと、なんですかぁ……?」
「アリス達は確かに鍵を内側から閉めたわ。なのに、何で……?」
アリスちゃんそこまで口にした時、ふと、上からの視線を感じた。
わざとドアノブに手をかけると、その視線はますます強くなる。
その視線には、アリスちゃんも気付いているようであった。
困惑する魔術師クイナを尻目に、俺は上空に右腕を向ける。
そして、
「【魔力攻撃】!」
俺が上空に「魔力攻撃」を放つと、「フンッ」という声と共に、男が宙返りをしながら着地した。
「やっぱり、待ち伏せしてたのね!ヴァレンティヌス!」
そこに立っていたのは、アリスちゃんにヴァレンティヌスと呼ばれた老人。
「ホッホッホ。バレてしまっては仕方ありませんな」
「この人が……!」
「ええ。私がヴァレンティヌス・アウクスレプスです。以後、お見知り置きを」
ヴァレンティヌスと名乗る男であった。
「ヴァレンティヌス!……貴方がここにいるってことは、《《そういうこと》》で良いのよねっ!」
「ええ、そうですよ。私はとある目的のため、クイナさんを誘拐させて頂きました。ですので、ここで連れて帰られる訳にはいかないのですよ」
「そうはいかないわ!貴方はここで止める!同じ最高位魔術師の過ちを正すのも、最高位魔術師の務めだもの!」
「おや。強気ですねぇ、アリスさん。私に勝てるとお思いで?」
「勿論よ!」
「あ、あの……私、今、杖を持ってなくて、魔術使えない、ので、戦力にならないですけど……大丈夫、ですか……?」
「大丈夫!そのための騎士サマだもの!」
「最高位魔術師同士の戦いに巻き込まれるってマジですか?俺、一応一年生ですけど、役に立てますかね」
「騎士サマなら大丈夫よ!」
「騎士サマ、ですか。貴方は一年生なのですね。この歳になって最高位魔術師をやっている私です、負けるつもりはありませんよ?それでも、挑むのですか?大人しく捕まっておいた方が楽だと思いますよ」
「ヴァレンティヌス先生。貴方の目的とやらは分かりませんし、クイナ先生がどうにかなろうと、俺はぶっちゃけ知ったこっちゃないッス」
「ひぇっ!?そ、そんな、じゃあ何で助けになんか、来たんですかぁ……?」
「俺はロリコンなんで。アリスちゃんに頼まれたから来ました。そして、ここでアリスちゃんが負けるのは望んでいない。ただ、そんだけです」
「小児性愛者ですか。その歳にしてその言い方をするとは、何か訳アリですかな?よろしければ、この戦いが終わった後、お話を聞かせて頂きたいですね」
「結構です。アリスちゃんに攻撃しようとしてる人と話したところで、俺がどう返すことになるか、未来は知れてますから」
「それは残念です。では早速、攻撃をさせて頂きます。【魔力の聖剣】!」
ヴァレンティヌスが杖を振ると、魔力で生成されたのであろう、黄金に輝く剣が六本、こちらに向かって突っ込んできた。
俺とアリスちゃんに三本ずつ、その剣先は牙を剥く。
「【火扇】!」
「【重力】!」
俺は火を扇状に展開して防ぎ、アリスちゃんは重力魔術で聖剣を砕く。
「ほほう、やりますな。では次……【神の怒り】です!」
続いて放たれたのは、輝く光の矢を放つ魔術。
バルディオの「ヘヴンズアロー・タイフーン」にも似ているが、放たれる矢は一本である代わりに、威力はそれと比べ物にならない程であった。
アリスちゃんは対抗できる魔術を持っていないようだったが、ここで俺は彼女の前に立ち塞がり、魔術を唱える。
「騎士サマ……!?」
「【魔力攻撃】!」
極限まで範囲を絞り、威力を集中させた「魔力攻撃」。
これなら、強力な光の矢にでも対抗できる。
俺が放ったら魔力の塊は光の矢とぶつかり合い、打ち消し合う。
「ほう、これも破られるとは……!これは……出し惜しみをしている場合ではありませんな」
「はぁ、はぁ……あんま舐めんなよ、ヴァレンティヌス先生!」
「流石よ、騎士サマ!アリスも頑張るわね!」
最高位魔術師に、俺の魔術が通用している。
シャルラ先生やアリスちゃんと模擬戦を行った時は、どこか手加減をしてしまっていたのだろうか。
俺は今、過去類を見ないほどに、調子が上がっているのだ。
クルピアちゃんに鍛えてもらった俺の本気は、俺が思っているより、ずっと強いのかも知れない。
俺は改めて腕輪を構え直すと、魔術師クイナを後ろに下げ、アリスちゃんと肩を並べ、詠唱を始めるのであった。




