第六十三話 王都中央教会 中編
アリスちゃん曰く、魔術師ヴァレンティヌスがクイナ・トドメキ誘拐事件の主犯格であるという見立てには、二つの理由があるそうだ。
一つ目の理由は、生死が不明になる程、公の場から姿を消しているということ。
表舞台に姿を現さない最高位魔術師は珍しくないらしいが、生死の確認さえできない状態になることは、普通に過ごしていれば珍しいのだそうである。
多くの嘘で隠された、最高位魔術師一覧に書かれてある「生死不明」の言葉。
それが本当である場合、かなり訳アリな状態を示しているらしい。
そして最高位魔術師であるアリスちゃん曰く、魔術師ヴァレンティヌスの生死についての記述は、真実であるらしい。
そして二つ目の理由は、例の未熟な怪盗が戦闘中に発した言葉。
あの怪盗は確かに、「ワタシの服には魔力を弾く《《加護》》が使われている」と言っていた。
そういえばそうである。
加護とは、聖職者にのみ許された魔法の片割れ。
魔術とは違う道を歩んだ、不思議な力である。
故に、加護が使われている衣服を身に纏っているということは、教会関係者が絡んでいることを示す何よりの証拠なのだ。
この二つの点を繋げると、最高位魔術師であるクイナ・トドメキに警戒されずに近付ける魔術師であり、魔力を直接使う魔術を無効化できる加護を操ることができる教会関係者でもある人物ともなれば、自然と的は絞られてくるのだそうである。
「……で、何でヴァレンティヌスがここにいると思ったんですか?」
「魔術学院に顔を出していないってことは、教会にいるかなって思って」
「そこだけざっくりな推理なんですね」
「え、ええ……。でも、この教会にヴァレンティヌスがいるかどうかは、正直どうでも良いの。いたらいたで、話が早いんだけど……」
「へ?な、何でですか?」
「ヴァレンティヌスがいてもいなくても、ココには何か証拠になる資料があるかなと思って」
「ああ。それはそうですね」
この際、ヴァレンティヌスが居ようが居まいが、何なら主犯格がヴァレンティヌスであろうが無かろうが、教会の本部である王都中央教会には、きっと何か手がかりがあるハズである。
だからアリスちゃんは教会の関係者にしか入れない場所まで忍び込もうとしたと、そういうことなのだろう。
「という訳で~……【変身】!」
アリスちゃんは物陰で杖を取り出し、シスターに変身する。
「ぴ、屈折迷彩!」
慌てて俺も物陰に隠れて、「屈折迷彩」で自身の姿を隠した。
「ふふっ。びっくりした?」
黒と白の修道服に、アリスちゃんの金髪が似合っていて、非常に可愛らしい。
「びっくりしますよ、そりゃあ。可愛すぎて」
「むっ、むぅ……!騎士サマってば、一度アクセルかかると止まらないわよね……!嬉しいけど!……寂しがり屋なクルぴーが入れ込むワケだわ」
「だって可愛かったんだもん」
「んむーっ!ありがと!騎士サマ!もう、ドキドキしてる場合じゃないのに……!」
「可愛い」
「……じゃ、じゃあ早速、忍び込んじゃいましょ!」
「そうしましょう!」
こうして俺とアリスちゃんは人目を盗み、ウロチョロしている聖職者に紛れて、事務所の中へ。
アリスちゃんはシスター達に紛れて事務所から階段へ。
手探りで証拠になりそうなものを手に取っては戻していくアリスちゃん。
光で姿を隠している俺は何をすることもできず、ただ、アリスちゃんの後をついて回るしかなかった。
事務所を出て階段を下に降り、地下へ。
すると、やけに厳重な施錠が施された扉が現れた。
「どうしましょうアリスちゃん」
「任せて!【開錠】!」
しかし、最高位魔術師であるアリスちゃんの前には無力。
「あまりにもあっさり開いちゃった」
俺達はあまりにも普通に、何重にも鍵がかかった扉の奥に入っていく。
「さあ、行きましょ!あっ、鍵かけ直しておかないとバレちゃうわね!」
そして鍵をかけ直し、再び忍び歩きを始める。
「それより……アリスちゃん。アリスちゃんにも『屈折迷彩』かけましょうか?」
「ありがとう、騎士サマ!」
あの鍵のかかり方からして、流石にここからは、そんじょそこらのシスターが入る領域ではなくなるだろう。
修道服を着たアリスちゃんも非常に可愛かったが、それで違和感なく溶け込めるのも、そしてその姿を拝めるのも、どうやらここまでのようだ。
俺はアリスちゃんにも「屈折迷彩」を使い、ここから先は、二人で姿を消して歩くことに。
そして、俺達は発見した。
地下通路の奥の奥、さらに鍵がかけられていた扉を開いた、その先では。
「ひぃぃ……!と、扉が勝手にぃぃ……!」
「あれ……クイナちゃん!?」
クイナ・トドメキ。
最高位魔術師であり、この事件の被害者が、椅子に縛りつけられていたのであった。




