第六十話 最高位魔術師誘拐事件
夏休み明けから二ヶ月後。
俺達はすっかり元の学校生活に戻っていた。
そんなある日のこと。
クルピアちゃんとアリスちゃんから、通信端末に「緊急事態発生」と、メッセージが送られてきた。
文字を打ち込むにも一苦労な俺は、そのままクルピアちゃんに電話をかけることで、事態の確認を急ごうとした。
しかし、通信端末はやはり動かしにくく、電話をかけるまで十分弱の時間を要しても、電話をかける画面に辿り着けない。
すると、クルピアちゃんの方から電話がかかってきた。
「もしもし!クルピアちゃん!?」
「プラティエ!今すぐ、アリスと初めて会った会員制バーに来い!」
「何があったんですか!?」
「拐われたんじゃ!クイナ・トドメキが!」
「こないだ殺されそうになってた人じゃないですか!マジですか!今から行きます!」
「頼む!アリスとコレディッカも呼んでおる!」
「……わ、分かりました!とりあえず行きます!」
クルピアちゃんがここまで焦っているのは珍しい。
今回はアリスちゃんの時とは違い、作戦でも何でもなく最高位魔術師が拐われたということなのだろう。
俺は急いで、クルピアちゃんの元へ向かうことにした。
箒に乗って繁華街へ向かい、会員制バーへ向かう。
すると、見慣れたメンバーが顔を合わせていた。
「あっ!騎士サマ!久しぶりね!」
「アリスちゃん!久しぶり!」
「おお、来たか。どれ、早速本題に入るとするかの」
「えェ。お願いしますよォ~」
俺、クルピアちゃん、アリスちゃん、コレディッカ先生の四人で四角いテーブルを囲み、話が始まる。
事の発端から話そうとしていたようだが、特に何も無かったそうだ。
どこから話そうか難しそうにしていたのは、クイナ・トドメキが何の前触れも無く姿を消してしまったからのようで。
それでは何故、誰かに拐われたと明確に言えるのか。
それは彼女の研究室、その扉に刺さっていたカードに、「クイナ・トドメキは頂いた」と書かれていたからだそうである。
「怪盗か何かみたいですね」
「うむ。予告状が届いていないことを除けば、まるで怪盗の手口そのものじゃ。そこで……容疑者として、挙げられた団体があるのじゃ。アリス、コレディッカ。続きを頼む」
「はーい!えっとね、最近、反魔術を掲げる団体が話題になってるの。『魔術社会は、魔術を使えない人への差別に繋がってる』って言って、政界にも挑戦してる人達なんだけど……そこの過激な人が、クイナ・トドメキ誘拐事件の主犯格かなって話になってるのよ」
「そうですねェ。怪盗じみた手口、魔術師を狙った犯行……『ヴィリア王国反魔術党』内の過激派勢力、『リオス怪盗団』によるものと一致しますゥ」
「そこで!ここにいる四人で、リオス怪盗団討伐部隊を結成しようと思ったの!最高位魔術師のアリスとクルぴー、クイナちゃん直属のコレディッカちゃん、そしてアリスの騎士サマでクルぴーに魔術を教えてもらったプラティエちゃん!良い人選でしょっ!」
「……ということじゃ。コレディッカ、プラティエ。協力してくれるな?」
「プラティエ君がクルピア先生とアリス先生の関係者だったことは驚きましたがァ、まァ納得でェす。ワタクシの上司を取り戻すためですからァ、喜んで協力させて頂きまァす」
「俺も賛成です。せっかく守った最高位魔術師ですから、ここで拐われて、反魔術に利用されるなんてごめんですよ」
「うむ。二人の返事、確かに受け取った。礼を言うぞら二人とも」
「いいんですよ、クルピアちゃんとアリスちゃんの頼みですし。大体何ですか。魔術を使えない人への差別なんて、昔はともかく今はもう無いでしょ?現代魔杖以外にも、魔術を使えない人でも十分に使える道具なんていっぱいあるのに」
存在しない差別を生み出すのが得意な連中は、どこの世界にでもいるようである。
そんなことをしている暇があるなら、俺の魔導具音痴に寄り添った現代魔杖の開発でもしていて頂きたいところだ。
「とりあえず、その団体の拠点に突撃して、事実確認をするとこから始めましょうか」
「いや、それはもうやっておる。妾とコレディッカで行ったのじゃが、『魔術師は帰れ』の一点張りでのう。魔術師差別が得意な連中のようじゃ。全員ブチ殺してやろうかと思うたが、コレディッカに止められて、仕方ないから帰ってやったわい」
「ヒィヤヒヤしましたよォ」
「お疲れ様です、コレディッカ先生。……じゃあ、直接突撃するのは無理として……奴らに尻尾を出させる方法、何かありませんかねえ」
「そうじゃなあ。正義の怪盗団を自称する奴らのことじゃ。釣られやすいエサを用意してやれば良いのではないか?」
「それなら、アリスに考えがあるわ!」
そう言うと、アリスちゃんは魔術で箱のようなものを転送させてきた。
「アリスちゃん、こんな魔術も使えたんですね。スゲー便利そう」
「転移魔術の応用よ!クルぴーでも使えないくらい、すっごく難しいんだから!」
「クルピアちゃん、ワープ苦手なんですか?」
「恥ずかしながらな」
「へー。今度教えてください」
「いいわよ!騎士サマだったら使えそうだし!……それで、クルぴーが言ってたエサ!これでどう?」
そう言うと、アリスちゃんは箱の中から、青色の宝石が埋め込まれた指輪を取り出した。
「指輪?これが何でエサになるんです?」
「これは魔術師にしか装着できない指輪なの!『エブレンの輪』っていってね、ある程度、身体の中の魔力を操ることに慣れてないと、指輪がスルリと抜けちゃうのよ。反魔術党の過激派なら、『こんな綺麗な指輪を付けさせないなんて、非魔術師差別だ』なんて、言い出しそうじゃない?」
「確かに~」
「これを流行らせて、皆んなが知ってるくらいのアイテムになったところで、アリスの知り合いがやってる宝飾店に仕入れてもらったら……」
「奴らが盗みに来ると」
「そういうこと!」
「なるほど、妙案じゃな」
「デカデカと指輪を強調した広告も出しましょォう」
「さんせーい!」
こうして、俺はクルピアちゃん、アリスちゃん、コレディッカ先生と共に、「魔術師の指輪作戦」を実行に移すべく、準備を始めた。
アリスちゃんの知り合いが開いているという、旧市街の「フェルディア宝飾店」へ連絡し、アリスちゃんの知り合いから指輪を卸してもらう。
そして、魔術的なセキュリティシステムを用意し、指輪が置かれている場所から動いた瞬間にセキュリティシステムが反応し、俺達の通信端末にメッセージが送られてくるように細工した。
二週間後。
動画や掲示板への書き込みも済ませ、エブレンの輪は、王都でも話題になる程の魔術師用アクセサリーになった。
そして、その日は訪れる。
リオス怪盗団と思しき侵入者の情報が、フェルディア宝飾店の警備システムから俺達の通信端末に送られてきたのだ。




