第五十九話 厄災を経て
それから三日後。
俺達は警察にテレア・ミカゴとベルリナちゃんの父、そして孤児院の院長を差し出し、事情聴取を済ませた後、村の復興を手伝うことにした。
今回の厄災キリカによって壊された建物は実に十数を数え、また魔術界も、テレア・ミカゴによって為された儀式の危険性を、改めて再確認させられることとなった。
今回、お手柄として警察から表彰を受けたのは、俺ことプラティエ・ノルン、主犯の娘であるベルリナ・ミカゴ、そして二人を引率していた最高位魔術師、クルピア・イロア。
長年、歴史の闇に姿を眩ませていたクルピアちゃんが、久しぶりに表舞台で活躍し、魔術界を表向きには追放されながらも、人々のために日々頑張っていると、それが伝わる事件となった。
しかし、最高位魔術師としての立場から表彰式には出られないと言っていたクルピアちゃんの分を、代理人として俺が受け取っておくかたちになったことは、俺の心にモヤモヤとした煙を燻らせたのだった。
キリカちゃんは、北部のケルネレス魔術学院に引き取られることになったらしい。
規模はパルグレフ魔術学院よりも遥かに小さいらしいが、彼女が育つには十分だろう。
少ない子供に対して偉大な魔術師となることを望む村の連中を黙らせるには、こうするしか無かったそうな。
本人が望むか否かはともかく、とりあえず身を置く場としては、そこが一番ベストであるとのことだ……と、警察官が頭を抱えながら言っていた。
キリカちゃんには気の毒だが、干渉力の少なさはともかく、魔力量の多さは、必ず武器になるだろう。
俺は納得できなかったが、自身の出る幕ではないと悟り、警察官に「分かりました」と空返事を飛ばした。
そして、ベルリナちゃんの学費についてだが、両親が逮捕された今、村が出してくれることになったそうな。
村の期待を背負って、魔術師の卵として王都へ出された身であるが故に、その才能をみすみす捨てさせる訳にはいかないと考えたのだろう。
全く、どこまでもベルリナちゃん頼りの村である。
それから、村の人々に囲まれながら三日間が過ぎ、王都へ帰る日の朝は、あっという間に訪れる。
「さて、そろそろ帰る時間じゃ。トイレは済ませたかの」
「ああ!」
「俺も!」
イロハ・テレジアの姿で、クルピアちゃんは宿を出る前の最終確認を行う。
これで、長いようで短かったベルリナちゃんの里帰りも終わり。
彼女は再び、魔術師としての期待を受けながら、俺達と共に学院へ戻ることになる。
この村はやはり、ベルリナちゃんに期待をしている……もっと悪く言うのであれば、村の今後を一人の少女に背負わせようとしているらしい。
しかし、俺がどうこう口出しできる問題では無い。
少なくとも、今は。
この村では、全体的に納得できないことが多かった。
しかし、世間とはそういうものだとクルビアちゃんに言い聞かされ、それを言われて矛を収められない俺でも無いため、黙っておくしか無かったのである。
いつか、ベルリナちゃんが大成するか、自身の口から狩人になりたいと、その旨を伝えられれば、状況は変わるのだろうか。
否、そんなハズはないだろう。
人は変わらない。
厄災を退けたら、喜んで、それからもっとベルリナちゃんに期待をして、それで終わり。
かつて魔術で栄えた村の、もはや過去のものとなった栄光を手放すことも、魔術の才能がある少女に村中の期待を背負わせることも、省みることなく。
ただ、それで終わりなのだ。
「どうした、プラティエ?」
「……あ、何でもありませんよ。ただ、この村の住人は馬鹿だなと思っただけです」
「何を毒づいておるんじゃ」
「ベルリナちゃんのことが、どうしても気がかりで。テレア・ミカゴのような化け物を生んだ村です。ベルリナちゃんは、さぞ窮屈だっただろうなと思って」
「……そうじゃな」
「イロハちゃんもそう思うでしょ?」
「ああ。……じゃが、妾達にはどうすることもできまい。もどかしいがの」
「人が人であるが故に、ですか?」
「うむ。せめてベルリナが、自由を手にできることを祈るしかあるまい」
「……そうですね」
俺達を乗せ、バスが出発する。
ブロロロロと音を立てて走るバスの中、俺は、すっかり寝てしまったベルリナちゃんの頭を撫でる。
「すー、すー」
もし神様がいるなら、どうかこの子が、自由を手にできる未来が訪れるようにと祈っておこう。
目の前の少女が、楔から解き放たれ、心の底から自由を噛み締めることができる日を、俺は願っている。
何故なら俺は、少女のことが大好きな男。
ロリコン野郎なのだから。




