第五十八話 厄災キリカ 後編
俺は目に神経を集中させる。
人混みの中からでも、少女の居場所を特定する、俺に備わったセンサー。
それは膨大な魔力に満ちる肉の海も、飲み込まれたテレア・ミカゴも視界から除外して、確かに胸部の奥に、綺麗なキリカ・ベクスタちゃんの姿を見た。
「見つけた!キリカちゃんは肉の中!胸部に閉じ込められている!何とかして肉を削り取るか、キリカちゃんだけ引き抜けば、助けられるかもしれない!」
「でかしたぞプラティエ!まずは肉を削り取る!【金剛斬水】!」
まずは、クルピアちゃんが「水」を応用したであろう魔術で肉を切り取る。
まるでダイヤモンドカッターのような水流が、厄災キリカの両腕と両足を切り落とした。
「ギェェェェェェ……!」
「【妖怪変化・喰散牙狼】!ガブッ!」
ベルリナちゃんは「喰散牙狼」に変身し、そのまま脇腹を噛み千切る。
「ギギギ、ギギァ……!」
「喰らえ!【炎】!」
そして俺はそのまま傷口に炎を飛ばし、再生しないよう焼き尽くした。
「ギャァァ、ァァ……」
「あと一息だ!耐えろよキリカちゃん……!」
「さらに肉を削ぐぞ!プラティエ、飛び込め!」
「了解!」
「【金剛斬水】!」
「【氷の礫】!」
二人がさらに肉を抉るタイミングで、俺は箒から厄災キリカの胸部へと潜り込む。
「突入ゥーッ!!!そらそらそらそらァーッ!【魔力攻撃】ゥゥゥゥッ!」
俺は魔術で胸部の肉を抉りながら、やがてそれは骨とも呼べぬ石へ到達。
「プラティエーッ!大丈夫かー!?」
「魔力が切れた」
しかしここで、充電切れである。
「エーーーッ!!?」
「プラティエ!一度戻るのじゃ!今からでも遅くはない!魔箒に乗れ!」
「いいや!まだまだいけるねッ!」
「危険じゃ!何が其方をここまで突き動かす!戻れ、プラティエ!」
「女の子が一人、この奥にいるからッ!!!」
「……くそっ、馬鹿な弟子じゃ……!」
それでも俺は、そのまま手で肉を掘り進んでいった。
手で掘り切れない分は噛み千切り、噛み千切れない分は腕輪で抉る。
全てを尽くして、伏せた状態で奥へ、奥へ。
「はぁ、はぁ……いた!」
「……ぁ、ぅ」
すると、そこには確かにいた。
水色の髪を肉の海に飲み込まれ、綺麗だった肌もボロボロに引き裂かれた、しかし確かに、キリカ・ベクスタと呼ばれる少女が。
「行くよ、キリカちゃん!ここを出るんだ!」
「こ、こ、を……?」
「ああ!今すぐにだ!」
「う、うん……!」
俺は力任せに、キリカちゃんを引っ張る。
しかし、びくともしない。
髪に引っかかった肉を剥がそうとするが、それにさえ、俺の力は歯が立たなかった。
「クルピアちゃん!ベルリナちゃん!聞こえる!?」
「聞こえるぞ!どうしたんじゃ、プラティエ!」
「キリカちゃんにまでは到達した!でも、全然引き抜けない!」
「ええい、今、外から肉を削り取っておる!じゃが……!」
「こっちにも限界があるみてーだ!骨から先が思うように削げねー!」
「あー!そうかぁ……そうだよなぁ……!なら俺が何とかするしかないかぁ……!」
俺はどこから魔力を絞り出そうものかと考える。
しかし、無いものは無い。
ここまで来て、キリカちゃんを助けられないとは。
いいや。
そういう訳にはいかない。
ここまで来たのだ。
何とかする方法、何とかする方法……!
そうだ。
「プラティエ!何をする気じゃ!」
キリカちゃんを覆う肉には、確かに魔力が満ちていた。
「これだぁぁぁぁぁぁっ!ガブゥッ!」
俺は肉の壁を食べ、よく噛み、飲み込む。
すると、絶望的なまでの痛みが食道と胃袋に走った。
しかし、それと引き換えに、自分の身体に収まり切らない程の魔力が溢れ出してくる。
「プラティエ!何をやっておる!?まさか其方、食ったのか!?」
「ま、マジかー!?だ、大丈夫なのか!?」
「主に食道と胃袋がクッソ痛い!けど……これならやれるッ!」
俺は腕輪を構え直し、放つ。
「【魔力攻撃】!」
キリカちゃんの首、すぐその左横を狙って放った「魔力攻撃」は、彼女にしがみついていた肉片を少しだけ吹き飛ばした。
「ぁぁ、ぁ……!」
「今ならいける!うぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は後退しながら、全力でキリカちゃんを引っ張る。
すると、先ほどまで肉片が絡んでいたことが嘘のように、焦げた肉がペリペリと取れていき、キリカちゃんの身体は、俺が開けた穴の中へ。
そして、肉の穴から抜け出した俺は箒へ乗り込み、キリカちゃんを引っ張って脱出する。
「プラティエ!無事だったんだなー!」
「肉の塊が崩壊しそうじゃ!離れろ、二人とも!」
「了解!」
「分かった!」
それから、俺はキリカちゃんを抱きかかえたまま、地上へ降り立つ。
クルピアちゃんとベルリナちゃんも後から合流し、村の中心にある噴水前に立つ俺達は、轟音を立てて崩れ去る、厄災の肉塊をただ、見つめていたのであった。




