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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第五章 雪降る夏休み

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第五十八話 厄災キリカ 後編

 俺は目に神経を集中させる。


 人混みの中からでも、少女の居場所を特定する、俺に備わったセンサー。


 それは膨大な魔力に満ちる肉の海も、飲み込まれたテレア・ミカゴ(クソババア)も視界から除外して、確かに胸部の奥に、綺麗なキリカ・ベクスタちゃんの姿を見た。


「見つけた!キリカちゃんは肉の中!胸部に閉じ込められている!何とかして肉を削り取るか、キリカちゃんだけ引き抜けば、助けられるかもしれない!」


「でかしたぞプラティエ!まずは肉を削り取る!【金剛斬水(ヌラッセ)】!」


 まずは、クルピアちゃんが「(ヌラッセ)」を応用したであろう魔術で肉を切り取る。


 まるでダイヤモンドカッターのような水流が、厄災キリカの両腕と両足を切り落とした。


「ギェェェェェェ……!」


「【妖怪変化(へんしん)喰散牙狼(フルウルフ)】!ガブッ!」


 ベルリナちゃんは「喰散牙狼(フルウルフ)」に変身し、そのまま脇腹を噛み千切る。


「ギギギ、ギギァ……!」


「喰らえ!【(モエーロ)】!」


 そして俺はそのまま傷口に炎を飛ばし、再生しないよう焼き尽くした。


「ギャァァ、ァァ……」


「あと一息だ!耐えろよキリカちゃん……!」


「さらに肉を削ぐぞ!プラティエ、飛び込め!」


「了解!」


「【金剛斬水(ヌラッセ)】!」


「【氷の礫(アイスシャード)】!」


 二人がさらに肉を抉るタイミングで、俺は箒から厄災キリカの胸部へと潜り込む。


「突入ゥーッ!!!そらそらそらそらァーッ!【魔力攻撃(マジェルク)】ゥゥゥゥッ!」


 俺は魔術で胸部の肉を抉りながら、やがてそれは骨とも呼べぬ石へ到達。


「プラティエーッ!大丈夫かー!?」


「魔力が切れた」


 しかしここで、充電切れである。


「エーーーッ!!?」


「プラティエ!一度戻るのじゃ!今からでも遅くはない!魔箒に乗れ!」


「いいや!まだまだいけるねッ!」


「危険じゃ!何が其方をここまで突き動かす!戻れ、プラティエ!」


「女の子が一人、この奥にいるからッ!!!」


「……くそっ、馬鹿な弟子じゃ……!」


 それでも俺は、そのまま手で肉を掘り進んでいった。


 手で掘り切れない分は噛み千切り、噛み千切れない分は腕輪で抉る。


 全てを尽くして、伏せた状態で奥へ、奥へ。


「はぁ、はぁ……いた!」


「……ぁ、ぅ」


 すると、そこには確かにいた。


 水色の髪を肉の海に飲み込まれ、綺麗だった肌もボロボロに引き裂かれた、しかし確かに、キリカ・ベクスタと呼ばれる少女が。


「行くよ、キリカちゃん!ここを出るんだ!」


「こ、こ、を……?」


「ああ!今すぐにだ!」


「う、うん……!」


 俺は力任せに、キリカちゃんを引っ張る。


 しかし、びくともしない。


 髪に引っかかった肉を剥がそうとするが、それにさえ、俺の力は歯が立たなかった。


「クルピアちゃん!ベルリナちゃん!聞こえる!?」


「聞こえるぞ!どうしたんじゃ、プラティエ!」


「キリカちゃんにまでは到達した!でも、全然引き抜けない!」


「ええい、今、外から肉を削り取っておる!じゃが……!」


「こっちにも限界があるみてーだ!骨から先が思うように削げねー!」


「あー!そうかぁ……そうだよなぁ……!なら俺が何とかするしかないかぁ……!」


 俺はどこから魔力を絞り出そうものかと考える。


 しかし、無いものは無い。


 ここまで来て、キリカちゃんを助けられないとは。


 いいや。


 そういう訳にはいかない。


 ここまで来たのだ。


 何とかする方法、何とかする方法……!


 そうだ。


「プラティエ!何をする気じゃ!」


 キリカちゃんを覆う肉には、確かに魔力が満ちていた。


「これだぁぁぁぁぁぁっ!ガブゥッ!」


 俺は肉の壁を食べ、よく噛み、飲み込む。


 すると、絶望的なまでの痛みが食道と胃袋に走った。


 しかし、それと引き換えに、自分の身体に収まり切らない程の魔力が溢れ出してくる。


「プラティエ!何をやっておる!?まさか其方、食ったのか!?」


「ま、マジかー!?だ、大丈夫なのか!?」


「主に食道と胃袋がクッソ痛い!けど……これならやれるッ!」


 俺は腕輪を構え直し、放つ。


「【魔力攻撃(マジェルク)】!」


 キリカちゃんの首、すぐその左横を狙って放った「魔力攻撃(マジェルク)」は、彼女にしがみついていた肉片を少しだけ吹き飛ばした。


「ぁぁ、ぁ……!」


「今ならいける!うぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は後退しながら、全力でキリカちゃんを引っ張る。


 すると、先ほどまで肉片が絡んでいたことが嘘のように、焦げた肉がペリペリと取れていき、キリカちゃんの身体は、俺が開けた穴の中へ。


 そして、肉の穴から抜け出した俺は箒へ乗り込み、キリカちゃんを引っ張って脱出する。


「プラティエ!無事だったんだなー!」


「肉の塊が崩壊しそうじゃ!離れろ、二人とも!」


「了解!」


「分かった!」


 それから、俺はキリカちゃんを抱きかかえたまま、地上へ降り立つ。


 クルピアちゃんとベルリナちゃんも後から合流し、村の中心にある噴水前に立つ俺達は、轟音を立てて崩れ去る、厄災の肉塊をただ、見つめていたのであった。

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