第五十七話 厄災キリカ 前編
「で、でけぇ……!」
まるで山のような魔物となったキリカに、おそらく意図されたような、人々へテレパシーを授ける様は見られない。
それはただ、身に余る力を与えられ、暴走しているだけの、哀れな魔力と肉の塊であった。
「行くぞ、プラティエ!【浮遊】!」
クルピアちゃんは箒と杖を取り出し、空中浮遊を開始する。
「耐えろよ、キリカちゃん……絶対助けるから!【浮遊】!」
俺も腕輪を露出させ、持ってきた箒に乗って、クルピアちゃんの後を追った。
「アタシも飛ぶぜ!【妖怪変化・空斬鴉】!」
「気をつけて、ベルリナちゃん!」
「ああ!空をモノにしたアタシの実力、見せてやるぜ!」
そしてベルリナちゃんも「空斬鴉」に変身して空中へ飛び上がり、俺達よりも遥か上空、厄災キリカの頭上へと向かう。
俺達は端末の通話を繋ぎ……俺のはクルピアちゃんに繋げてもらった形になるが、とにかく三人で通信をしながら、戦いを始めるのだった。
「キャォォォォォォォ!」
厄災キリカは大口を開け、ベルリナちゃんを撃ち落とさんとして魔力のビームを放つ。
「甘い甘い!攻撃が単調だぜ、キリカ!【氷の礫】!」
ベルリナちゃんは、それをクルリと回転して回避し、そのまま鋭い氷の礫を飛ばす。
「ギャァァ、ァァ……!」
そのまま大口に刺さった氷の礫は、厄災キリカの口に出来た水泡のようなモノに食い込み、そのまま破裂させた。
「痛ぇだろうが辛抱しろよー!あと、そのビーム撃つのやめろーっ!」
「ガガァ……!ギャァァ!」
「イロハ!プラティエ!口ん中に水泡みてーなのがあった!アレを壊したら苦しみだしたから、弱点か何かなのかも知れねーぜ!」
「分かった!ありがとう!」
「どれ。最高位魔術師の戦いを、ベルリナにもとくと見せてやろうぞ!」
「ちょ、クルピアちゃーん!?」
クルピアちゃんが一気に速度を上げる。
そして、身体中に現れた水疱を次々と破壊し始めた。
俺も撃ち漏らしを壊そうと思ったが、クルピアちゃんの腕を前に、そんなものは存在しない。
俺は別方向へ飛び、一つずつ「炎」で水疱を焼き壊していった。
全身の水泡を壊し尽くし、壊された水疱の跡からは、緑色の液体が放出されていく。
液体が抜けた影響か、少しずつ小さくなる厄災キリカを見て、これで事態は落ち着くかと、そう思われた。
しかし、小さくなったことで力が全身に回りやすくなったのか。
一回り小さくなった厄災キリカは飛び上がり、あろうことか巨体に似合わぬ速度で右腕を伸ばし、クルピアちゃんを掴んで拘束した。
「ぐぬぅ!……クソッ!何じゃ、この馬鹿力は……!」
「クルピアちゃん!」
「妾なら大丈夫じゃ!今のうちに、肉を削れっ!」
「了解!」
流石のクルピアちゃんでも、潰されないように腕を抑えるので精一杯のようだ。
このままでは、最高戦力が立ち往生してしまう。
俺はクルピアちゃんを掴んでいる右腕を狙い、純粋な破壊力を叩き込むべく、魔力を何にも変換せず、そのままぶつけることにした。
「プラティエー!注意はアタシが引きつける!安心して魔術に集中しろー!」
「ありがとう、ベルリナちゃん!喰らえ……!【魔力攻撃】!」
これは、バルディオが試験会場で見せた「魔力光線」を参考に、その大元を想像して生み出した魔術。
あえて魔術名以外の詠唱を行わないことで、純粋な魔力の塊をビームではなく弾丸としてぶつけることを、「魔力」という詠唱と紐づけた、謂わば簡単なエネルギー弾である。
魔力消費量の割に効率が悪く、応用も利かないが、これなら現代魔杖と同じくらい早く、そして強いパワーを出せる。
単純。
故に似たような魔術……どころか、全く同じ魔術はあるのだろうが、これは俺の中で一から作り上げた魔術である。
哲学を習っていない人が自力で昔の哲学者と同じ考えに辿り着く状況を、俺は今まさに味わっているようなものなのだろう。
「ギェェ、ギャァ」
ゴリゴリと音を立てながら、厄災キリカの肉が削れていく。
厄災キリカは悶えながら、こちらに攻撃しようと左手を伸ばした。
「アンタの相手はアタシだ!【妖怪変化・戦狐】!ガブッ!」
しかし、「戦狐」に変身したベルリナちゃんが左腕を噛み千切り、そした新しく現れた水疱二つを尻尾で砕き潰したことで、俺からは厄災キリカの視線が外される。
「キャキャキャ、キィ……!」
「【魔力攻撃】!」
そこにもう一撃、「魔力攻撃」を叩き込み、クルピアちゃんを掴んでいる右腕に大穴を開けた。
「ギャェェェェェ……!」
「ふぅ。助かったぞ、プラティエ、ベルリナ」
「無事で良かった!」
「いいってことよー!」
ぼとりと落ちた右腕から抜け出したクルピアちゃんは、再び滞空を開始。
それとほぼ同時に、もう一回り、厄災キリカが小さくなる。
しかし、動きはさらに素早くなり、低めのマンション程の大きさとなった厄災キリカは、口から放つビームで村の建造物を破壊しながら、走って俺の方へ向かってきた。
「これくらい、肉が薄くなれば大丈夫かな」
「む、何をする気じゃ?」
「まあ見ててください」
「な、何してんだー?」
俺はここで、前世からの特技を使う。
幼い頃から思っていた。
きっと大人になっても、今の俺と同じくらいの歳の子を好きになるのだろう、と。
俺は幼い時代から、既に「少女」という存在に、性癖を破壊されていた。
故に大学生、世間的には「大人」に分類される年齢になっても、俺には人混みの中から、可愛い少女を選別するセンサーが備わっていたのだ。
ただ気持ち悪いだけだけの特技だが、今はその特技が役に立つだろう。
肉の海から、キリカちゃんの本体を探すのだ。




