第五十六話 隠し事
前回の「なりそこない」とは違う、明らかに強力な力を発していた魔王キリカ。
否、「厄災キリカ」というべきだろうか。
それの肥大化によって崩壊するアピルラタ山がたてた轟音は、村の皆の目線を引きつけるに不足無かった。
まるで世界の終わりかのように慌て、戸惑う村民達。
俺達はベルリナちゃんの家、その二階から様子を見ながら、何とか事態を収束させようと、作戦を話し合っていた。
「ど、どうすりゃあいいんだ、ありゃあ……」
「慌てても仕方なかろう。あの規模の魔物は、妾も長い人生で数える程しか見ておらぬ……勝てるかどうかは分からぬな」
「俺も出来る限りの支援はします。でも、最前線はお願いしたいです。現状この辺りで最も強力な魔術師は、イロハちゃんですから」
「やれやれ、仕方ないのう。キリカの無事は……保証できんぞ」
「……分かりました。でも、助けられそうなら、出来るだけキリカちゃんは助ける方針でお願いします」
「うむ、分かった」
「なあ、一つ聞きてぇんだけど……」
ここで、ベルリナちゃんが訝しむような表情で口を挟む。
「何?ベルリナちゃん」
「どうした、ベルリナよ?」
「イロハって、そんなに強いのかー?」
「む?まあ、強い自覚はあるぞ」
「あと、長い人生って何のことだ?アタシ達、そんな長く生きてねーだろ」
「妾には長く感じるんじゃ」
「それに、さっきからプラティエが敬語になってるのもおかしくねーかー?」
「へ?いや、これは、その」
「はぁ~……。いずれこうなるとは思っておったが……どの道、あのキリカを何とかする上で隠しておくことはできぬか」
「……そうですね」
いつまでも、隠し通せるとは思っていなかった。
しかし、こんなにも早くバレてしまうとは。
「ベルリナよ。すまぬ。妾達は今まで、隠し事をしていた」
「やっぱり何か隠してたのかよー!おかしいと思ったぜー!」
「『イロハ・テレジア』なんて人間は実在しない。それは妾が学院に潜入するため、偽造した身分に過ぎぬ」
「ぎ、偽造!?そんなことまでしてたのかよー!?」
「みんなには内緒だよ」
「ええ……うん……まあ……イロハが学院からいなくなるとは嫌だしなー、黙っておくぜ……」
「そして、妾の正体は……【変身】!」
そう言って、イロハちゃんは「変身」を使い、返信を解除する。
「な、な……っ!本で読んだことある顔……!でも、二百年以上前の本だぜ……!?なのに、何で!?」
「クルピア・イロア。部分的に『生命の真理』と接触して、歳を取らなくなった……最高位魔術師の一人じゃ」
「で、俺がその弟子ってワケ」、
ベルリナちゃんは目を丸くし、そのまま硬直したかと思うと、次の瞬間には飛び上がって、杖を落としてしまっていた。
「アタシ、知ってるぜー!本に書いてあった、期待の新人だよな!二百年前の!」
「うむ。厳密にはもうちょっと前じゃがな。あれから最高位魔術師になって、表向きには学院を追放されて……じゃが、久しぶりに戻ってきたという訳じゃ。イロハ・テレジアとしての身分を持っていることは、学院にも伝えとらんがの」
「す、すげぇ……!イロハ、めっちゃ強かったんだなー!」
「自慢じゃないがのう。ふんす」
可愛い。
「じゃあ……やれるのか!?クルピア先生!」
「先生はよせ。それに、クルピアと呼ぶ癖をつけられては困る。今まで通り、『イロハ』と呼べ」
「分かった!改めてよろしくな、イロハ!」
「うむ。……で、あの厄災キリカへの対処じゃが……現状、どうなっておるか分からんのでのう。正直、妾にも『力押し』以外の手段が思いつかんのじゃ」
「まあ……そうなりますよね」
「なら、通信繋げっぱなしにしてよ、アタシが『空斬鴉』で空から様子を見て、伝えれば良いんじゃねーか?キリカがどれだけデカく変身したのかは分からねーが、坑道を崩すくれーデカくなんならよ、あの鉱山から出てくるハズだろ?」
「それに合わせて、妾とプラティエが二人で攻撃する。どうじゃ?」
「異議なしでーす」
こうして俺達は作戦会議を終え、再びアピルラタ山の方へ目をやる。
するとそこには、巨大化し変わり果てたキリカちゃん、改め「厄災キリカ」が、山を削りながらこちらへ迫ろうと足をゆっくりと進めている、その姿が目に入るのであった。




