第五十五話 なりそこない 後編
怪物にされていた少女と、ベルリナちゃんの両親を連れ出し、俺達はミカゴ家へ戻る。
そしてテレア・ミカゴとベルリナちゃんの父親をリビングに放り投げ、俺達は少女が連れられてきたはしいら孤児院へと足を運んだ。
少女の名前は、「キリカ・ベクスタ」。
透き通る水色の髪と白い肌が美しい女の子である。
生まれつき魔力量が多く、しかし干渉力が少ないため、魔力を持て余しがちで、体調を崩してしまうことがよくあるのだそうだ。
孤児院の中へ入り、院長へキリカちゃんを引き渡して、事後処理はほぼ完了。
あとは、リビングに縛って転がしておいたベルリナちゃんの両親を、《《クルピア・イロア》》に連行してもらうだけだが、ここで問題が起きた。
「いない……!?」
全身血まみれで、ただでさえまともに動けないハズのベルリナちゃんの両親。
父親の方は相変わらず縛られたままだが、義母の姿が見えなくなっていのだ。
「どこに行った!あの怪我で抜け出しおったか!」
「クソッ!あのババア……!」
「ヘヘヘ……目を離すからこうなるんだぜ、クソガキ共が……げばっ」
俺はこめかみに踵落としを喰らわせて、ベルリナちゃんの父親を黙らせる。
「【妖怪変化・喰散牙狼】!」
そして、ベルリナちゃんが「喰散牙狼」に変身。
嗅覚が優れている狼の嗅覚を使って、テレア・ミカゴの居場所を探り始めた。
「どっち方面か分かった!?ベルリナちゃん!」
「こっちだ!さっきの坑道!」
「分かった!」
「手間をかけさせおって……!」
三人で坑道を進み、辿り着いたのは、つい数時間前に魔王のなりそこないが生まれた場所。
そこにいたのは、またしてもテレア・ミカゴとキリカちゃんであった。
「何でお前がキリカちゃんを連れているんだっ!」
確かに、孤児院へ帰したハズだ。
「園長が私とグルだからに決まってるじゃな~い。このおバカさん」
「ごめ、ん……助けて、くれたの、に……!」
テレア、ミカゴは、あの孤児院と繋がっていた。
俺達があの孤児院へキリカちゃんを帰したことに、意味など無かったということだ。
「気を取り直して、新たなる魔王の誕生を祝福しましょう!人と人とが心と心で直接分かり合える世界……その第一歩、全人類魔物化計画のスタートよ!」
テレア・ミカゴは、儀式により禍々しく変貌した、おそらくテレパシストーンであった石を、キリカちゃんの口に放り込み、飲み込ませた。
「ごほっ、がはっ、あ、あ、ああああああ!!!」
前回とは違う儀式。
おぞましい気配と溢れ出る魔力を撒き散らし、キリカちゃんの肉体は再び変容する。
「そう、そうよ!イイ、すごく良いわ!……え、あ、あ、あああ……そんな、助け……!」
頭には二本の角が生え、全身の肉は膨れ上がり、それはテレア・ミカゴを巻き込んで、周囲の石や坑道を構成していたであろう柱や柵などを取り込んでいく。
「一足遅かったか……!」
「このクソババアが……!」
「キリカちゃん!……クソッ!イロハちゃん、ベルリナちゃん、一旦退こう!」
このままでは、俺達も巻き込まれてしまう。
そう思った俺は、二人の手を引いて、ここに来るまでに通った道を引き返して、ひとまずはベルリナちゃんの実家へ戻ることにした。
キリカちゃんだったものを、そのままにしておくことは出来ないだろう。
しかし今すぐ戦うには、場所も相手も悪過ぎる。
クルピアちゃんはイロハちゃんとしての身分を明かす訳にはいかず、仮にクルピア・イロアとして全力で魔術を使うにしても、俺とベルリナちゃんを巻き込まないように気を遣わせては、そのパフォーマンスを十分に発揮できるとは思えない。
今はただ、逃げるだけに徹しよう。
崩れていく坑道を駆け抜け、俺達はベルリナちゃんの実家へ何とか滑り込む。
そして、ノビてしまったベルリナちゃんの父親を改めてキツく縛りつけておき、俺達は崩れゆくアピルラタ鉱山跡を遠目に見ながら、これからどうするか、如何にしてキリカちゃんを助けるか、その作戦会議を開始するのであった。




