第五十二話 ベルリナちゃんの実家へ行こう
俺達は急いで酒場を出て、ベルリナちゃんの実家へ向かう。
ベルリナちゃんが見た、見慣れない靴。
それは、このタイミングで知らない人間が訪れているということを意味する。
そして、テレア・ミカゴは魔王を誕生させようとしている。
誰が魔王になる想定で動いているのかは知らないが、その人が新たなる魔王の担い手である可能性も無くはない。
さらに、魔術師テレアに、学院から嫌疑がかかっていることがバレていないとも限らない。
とにかく懸念事項が多過ぎて、居ても立っても居られないのだ。
「ベルリナよ。もしかすると、事によっては其方の実家が荒れるかも知れぬが、良いか?」
「ああ。仕方ねーよな」
「すまん。事が事じゃからな」
イロハちゃんは走りながら、深く頭を下げた。
インターホンを鳴らす。
ベルリナちゃんの実家は目の前。
しかし、家の中から誰かが姿を現すことは無かった。
ベルリナちゃんが合鍵で扉を開けると、家の中は真っ暗、人の声一つもしない。
「失礼しまーす」
「邪魔するぞ」
「ただいま……って、誰もいねーのか?」
「え?靴はあるのに?」
「あ、ホントじゃねーか。何でこんな真っ暗なんだ?」
しかし、両親と知らない人のものだろうか。
合わせて三足の靴は玄関に並べられており、玄関口の様相は異様そのものであった。
二足はおそらくテレア・ミカゴとその夫のもの。
そしてもう一足は、見知らぬ子どものもののようだ。
玄関口で靴を脱ぎ、念のため脱いだ自分のそれを回収。
上着の代わりに持ってきたパルグレフ魔術学院のローブ、その内側にある大きなポケットに片方ずつ靴を入れて、恐る恐る、家の奥へ足を進めていく。
ベルリナちゃんが片っ端から電気を点けていき、家中を探索してみるが、やはり中には誰の姿も確認できない。
「……どういうことじゃ」
「靴の予備を持っていて、実は全員出かけてるとか?」
一人一足しか靴を持ってはいけないという決まりは無い。
「あり得るのう」
「いや。アタシの両親は靴にこだわりがあってな。心に決めた一足しか使わねーって縛りを設けてんだ」
「何じゃその縛り」
「雪が降る地域じゃ、靴は相棒みてーなモンだからなー。安いスニーカーで出歩ける程、この辺りの雪は甘くねーんだぜ」
「なるほど」
靴が三足ある問題は、振り出しに戻ってしまった。
家の中には誰もいない。
そして俺達以外の靴が三足ある。
ここにきて、調査は行き詰まってしまった。
「どうするかのう」
「また酒場に戻る?」
「二軒目、行くか?」
「それも良いですね」
「……なあ、二人とも」
俺とイロハちゃんが帰ろうかと玄関口へ向かっていると、ベルリナちゃんが置き物を手に取り、そこに隠されていたスイッチを押した。
すると、「ゴゴゴゴゴゴ」という轟音と共に、リビングの端に階段が姿を現したのだった。
「何じゃこれは!仕掛けか!?」
「ああ。この家には地下室があんだけどよ、そこ入るには、仕掛けをいじらねーといけねーんだよ」
「忍者屋敷みたい」
「定期的にスイッチが変わるから、何か気になるモンがあったら触ってみてくれって言おうとしてたんだけどなー、まさか最初に触った物がアタリとは思わなかったぜー」
「ベルリナちゃんは入ったことあるんだ」
「いや。アタシは入らせてもらえなかったから、階段から先のことはよく分かんねー」
ここにきて、怪しさがさらに倍増した。
何かを隠すには、隠されるものが必要だ。
仕掛けを知らなければ開かない地下室の存在は、つまり《《そういう》》ことである。
人の目に触れるべきでは無いものを、地下に隠していると、そう考えるのは当然のことだろう。
「ベルリナ。ここから危険がつきまとうじゃろう。其方は……ここで待っておることを勧めるぞ」
「嫌だ。アタシも行く」
「……本当に、大丈夫じゃな?」
「ここまで来たんだ。二人が行くってのに、アタシが行かないのは違うと思う。それに、これはアタシの家の問題でもある。……放って置けるかよ」
「……そうか。では行くぞ、プラティエ、ベルリナ」
「うん」
「ああ!あのクソババアが何を企んでやがるのか、暴いてやるぜっ!」
俺とイロハちゃん、そしてベルリナちゃんは戦闘態勢に入り、これまた恐る恐る、階段の先へと足を進めるのであった。




