第五十一話 夜の酒場にて
その晩のこと。
俺はベルリナちゃんと、遅れて来たイロハちゃんと合流し、夕食を食べるため、昔懐かしい酒場へ向かった。
中身が二百歳を超えているクルピアちゃんはともかく、俺とベルリナちゃんは未成年であり、またイロハちゃんも未成年という設定であるため、酒は飲めないが、寒い地域の酒場はご飯が美味しいと相場が決まっているのだ。
行かない手は無いだろう。
「いや~!待たせたのう!乱気流でしばらく動けなかったんじゃ……」
イロハちゃんなら、それくらいどうということは無さそうだが……安全を優先したのだろうか。
「そんなに酷かったのかー?」
「うむ。箒の操縦には自信があるのじゃがなあ。霰が降っては、流石に痛いからのう」
前言撤回。
確かに、どれだけ操縦が上手くても、霰は痛いものだ。
それに、現代魔杖の亜種である箒型のソレならともかく、昔ながらの魔箒では、安全確保のための防壁も自分で張らなければならないため、面倒だったのだろう。
「ところでプラティエ、ベルリナ。妾がここに来た理由、分かるか?」
「へ?いやあ、俺達と一緒に遊びたかったから?」
「……そうでありたかったんじゃかのう」
ここでイロハちゃんは、文字がビッシリと書かれた紙を取り出す。
「何だよ、これ?」
「《《とある最高位魔術師》》からの依頼じゃ」
「さ、最高位魔術師ー!?」
するとベルリナちゃんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、必死に両手で声を抑えながら叫んだ。
「ま、ちょっとコネがあってのう」
大方、アリスちゃんから何か仕事を引き受けたのだろう。
「また凄いタイミングで被ったね」
「いや。元々は妾ではなく、他の魔術師がやる予定だったらしいのじゃが……妾の友人に、アピルラタ村の者がいると話したら、こうなってしまってのう」
「ああ……そういう」
アリスちゃんに「アピルラタ村に行くなら、二人と一緒に行けば良いんじゃないかしら!」というようなことを言われたに違いない。
「そこで、どうせなら一緒に行こうと思ったのじゃ。一足遅かったようじゃがのう」
「それで、仕事ってのは何なんだー?」
「それが……『テレア・ミカゴの調査』とされておるようなのじゃ」
「アタシの母ちゃんじゃねーか!」
「そうなのじゃ。その最高位魔術師にベルリナの話をしたら、やけに食いついてのう」
「だから頼まれたのかあ」
「うむ。じゃが、このテレアとやら……血縁上はベルリナと血が繋がっていないらしいな?」
「ああ。義母なんだぜー」
「義母かあ……」
今までベルリナちゃんに詳しいことを聞いていなかったため、家族構成についてはよく分かっていなかったが、ベルリナちゃんと戸籍上の母親は血が繋がっていないようだ。
俺は、ベルリナちゃんが実家に良い思い出を持っておらず、彼女が戦魔術師を目指そうとしているのも、狩人としての夢を否定され、魔術師であることを強制されたからであるという話を思い出す。
これはどうやら……胸糞が悪くなって参りました。
「今回の仕事は、其方の家族に関わることじゃ、ベルリナ。仕事はあくまでも、『テレア・ミカゴの調査』なのじゃが……非常に言いにくいのじゃがのぅ、其方の母親には、とある嫌疑がかかっておるのじゃ」
「ああ、気にすんな。アタシ、家族のこと嫌いだからよ。好きに喋ってくれて良いぜ」
「……分かった。簡単に言うとじゃな。其方の義母は、《《魔王の復活を目論んでおる》》ようなのじゃ」
「魔王……!?本当にいたんだ」
「うむ。歴史の海に埋もれて久しいがの。千年前、ヴィリア王国全土を混乱に陥れた、元は人間の魔物じゃ」
「元は魔術師か何かだったってこと?」
「うむ。人間だった頃は、召喚魔術の使い手じゃったらしい。厳密には、其奴を復活させるのではなく、『新たな魔王を誕生させようとしている』というのが、正しいようじゃがな」
魔王。
以前、古い魔導書で目にしたことがある言葉。
そして前世では、ファンタジー作品の敵として登場しがちだった存在。
この世界に、実在していたとは。
「なあ、プラティエ。イロハ。……恐ろしいことを言っても良いか?」
ベルリナちゃんが、ここで口を開く。
「アタシ、さっき荷物を置きに実家に帰ったんだよ。サクッと挨拶だけ済ませて、すぐ逃げるように出てきちまったけどな。そしたら……」
「「そしたら?」」
「知らない奴の靴が一足、増えてたんだよ」




