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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第五章 雪降る夏休み

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第五十一話 夜の酒場にて

 その晩のこと。


 俺はベルリナちゃんと、遅れて来たイロハ(クルピア)ちゃんと合流し、夕食を食べるため、昔懐かしい酒場へ向かった。


 中身が二百歳を超えているクルピアちゃんはともかく、俺とベルリナちゃんは未成年であり、またイロハ(クルピア)ちゃんも未成年という設定であるため、酒は飲めないが、寒い地域の酒場はご飯が美味しいと相場が決まっているのだ。


 行かない手は無いだろう。


「いや~!待たせたのう!乱気流でしばらく動けなかったんじゃ……」


 イロハ(クルピア)ちゃんなら、それくらいどうということは無さそうだが……安全を優先したのだろうか。


「そんなに酷かったのかー?」


「うむ。箒の操縦には自信があるのじゃがなあ。(あられ)が降っては、流石に痛いからのう」


 前言撤回。


 確かに、どれだけ操縦が上手くても、(あられ)は痛いものだ。


 それに、現代魔杖の亜種である箒型のソレならともかく、昔ながらの魔箒では、安全確保のための防壁も自分で張らなければならないため、面倒だったのだろう。


「ところでプラティエ、ベルリナ。妾がここに来た理由、分かるか?」


「へ?いやあ、俺達と一緒に遊びたかったから?」


「……そうでありたかったんじゃかのう」


 ここでイロハ(クルピア)ちゃんは、文字がビッシリと書かれた紙を取り出す。


「何だよ、これ?」


「《《とある最高位魔術師》》からの依頼じゃ」


「さ、最高位魔術師ー!?」


 するとベルリナちゃんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、必死に両手で声を抑えながら叫んだ。


「ま、ちょっとコネがあってのう」


 大方、アリスちゃんから何か仕事を引き受けたのだろう。


「また凄いタイミングで被ったね」


「いや。元々は妾ではなく、他の魔術師がやる予定だったらしいのじゃが……妾の友人に、アピルラタ村の者がいると話したら、こうなってしまってのう」


「ああ……そういう」


 アリスちゃんに「アピルラタ村に行くなら、二人と一緒に行けば良いんじゃないかしら!」というようなことを言われたに違いない。


「そこで、どうせなら一緒に行こうと思ったのじゃ。一足遅かったようじゃがのう」


「それで、仕事ってのは何なんだー?」


「それが……『テレア・ミカゴの調査』とされておるようなのじゃ」


「アタシの母ちゃんじゃねーか!」


「そうなのじゃ。その最高位魔術師にベルリナの話をしたら、やけに食いついてのう」


「だから頼まれたのかあ」


「うむ。じゃが、このテレアとやら……血縁上はベルリナと血が繋がっていないらしいな?」


「ああ。義母なんだぜー」


「義母かあ……」


 今までベルリナちゃんに詳しいことを聞いていなかったため、家族構成についてはよく分かっていなかったが、ベルリナちゃんと戸籍上の母親は血が繋がっていないようだ。


 俺は、ベルリナちゃんが実家に良い思い出を持っておらず、彼女が戦魔術師を目指そうとしているのも、狩人としての夢を否定され、魔術師であることを強制されたからであるという話を思い出す。


 これはどうやら……胸糞が悪くなって参りました。


「今回の仕事は、其方の家族に関わることじゃ、ベルリナ。仕事はあくまでも、『テレア・ミカゴの調査』なのじゃが……非常に言いにくいのじゃがのぅ、其方の母親には、とある嫌疑がかかっておるのじゃ」


「ああ、気にすんな。アタシ、家族のこと嫌いだからよ。好きに喋ってくれて良いぜ」


「……分かった。簡単に言うとじゃな。其方の義母は、《《魔王の復活を目論んでおる》》ようなのじゃ」


「魔王……!?本当にいたんだ」


「うむ。歴史の海に埋もれて久しいがの。千年前、ヴィリア王国全土を混乱に陥れた、元は人間の魔物じゃ」


「元は魔術師か何かだったってこと?」


「うむ。人間だった頃は、召喚魔術の使い手じゃったらしい。厳密には、其奴を復活させるのではなく、『新たな魔王を誕生させようとしている』というのが、正しいようじゃがな」


 魔王。

 以前、古い魔導書で目にしたことがある言葉。


 そして前世では、ファンタジー作品の敵として登場しがちだった存在。


 この世界に、実在していたとは。


「なあ、プラティエ。イロハ。……恐ろしいことを言っても良いか?」


 ベルリナちゃんが、ここで口を開く。


「アタシ、さっき荷物を置きに実家に帰ったんだよ。サクッと挨拶だけ済ませて、すぐ逃げるように出てきちまったけどな。そしたら……」


「「そしたら?」」


「知らない奴の靴が一足、増えてたんだよ」

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