第四十九話 豪雪地帯へ行こう
クイナ・トドメキ襲撃未遂事件から一ヶ月と少し後。
事件に関する処理が一通り落ち着いた頃、とうとう、俺達の夏休みが始まったのだった。
すっかり精神状態を元に戻した俺は、何やら忙しそうに、廊下で荷物をまとめるベルリナちゃんに話しかける。
「ベルリナちゃん、どうしたの?そんなに急いで荷物なんてまとめて」
「おう、プラティエかー。実家に戻らなきゃいけなくなっちまってなー。めんどくさいぜー」
「あんまり実家に良い思い出無いんだっけ……?」
「ああ。でも、学費を出してもらっている以上、断る訳にもいかなくてよー」
「じゃあさ、俺も行っていい?」
「えー!?来てくれるのかー!?」
「うん!俺、前から興味あったんだよ!北の方!」
「でも……旅費はどうすんだー?アタシの親、めんどくさい奴だから……ウチに泊まるのはオススメしねーぞー?」
「そこは大丈夫。俺、お小遣い貯めてきたから」
実家から送られてくる小遣いを使う用事があるとすれば、放課後に喫茶店へ行く時くらいのもので、今まであまり大したお金を使う事が無かった俺の貯金箱には、今や子供が持つには多い金額が貯まっていたのであった。
「そうかー。ま、困ったら言えよなー。めんどくさい親に絡まれながらで良いなら、泊めてやるぜー」
「ありがとう。……いつ出発なの?」
「今日の夜だ!だから、一緒に来るなら急げよー?」
「うおおマジか!分かった急いで準備する!」
俺はベルリナちゃんに置いて行かれないよう、急いで部屋に戻り、リュックサックに荷物をまとめる。
そして箒を持ち、夜になる前に、急いでベルリナちゃんと合流するのであった。
「おお、来たか!じゃ、行こうぜ!」
俺とベルリナちゃんはバスの切符を買い、荷物をトランクに預けて車内へ。
出発前に、ベルリナちゃんからイロハちゃんにメッセージで連絡を入れてもらい、無事に俺達は王都マガルタを出発するのであった。
「すげぇ最悪な気分だぜー。遠くに行く時って気分がアガるハズなのになー」
「まあ仕方ないよ。それより……イロハちゃんから鬼電がかかってきてるんだけど、今はバスの中じゃん?だから、メッセージを打って欲しいんだけど……」
「いいぜ。何て打てば良い?」
俺は通信端末をベルリナちゃんに託し、代わりにメッセージを打ってもらう。
「『どうしたの?もうバスの中だから電話出れないよ』って打って」
「分かった。……お、早速帰ってきたぜ。『どうしたもこうしたもあるか!妾も誘え!』だってよ」
「来たかったんだ……声かけとけば良かったね。じゃあ、『箒で追いかけて来れる?』ってお願い」
「ああ。……お、返信早いな。『どこに行くつもりじゃ!』だってよ」
「『アピルラタ村』って……お願い」
「分かった。ア、ピ、ル、ラ、タ、村……っと。これでオーケーだぜ。でもイロハ、どうやって来るつもりなんだ?」
「箒じゃない?確か上手かったハズだよ」
「イロハ、箒使えるのかー!それなら、アタシ達と着く時間そんな変わらないかもな」
「そうだね」
魔術師的には、「箒で来る」と「バイクで来る」はほぼ同じ意味であるため、確かに時間は変わらないハズだ。
これは余談ではあるが、起動の難しさ故に、そもそもまともに動かせない者は起動さえ出来ないため、操縦するための免許は要らないのである。
それに箒はバスと違って、地上の障害物を無視して最短距離を飛べるため、もしかしたら、出発が俺達よりも遅れたイロハちゃんであっても、ほぼ同じ時間に到着するかもしれない。
そして、箒に乗るのは何を隠そう、最高位魔術師のクルピア・イロアだ。
運転疲れには気をつけて欲しいものだが、イロハちゃんなら心配ないだろう。
バスに揺られること八時間。
降り積もる雪をかき分け、俺達はアピルラタ村へ到着した。




