幕間 アリスの何も不思議ではないパーティー
「それじゃあ……かんぱーい!」
「乾杯じゃー!」
「か、かんぱ~い」
マズい。
気が乗らない。
目の前に用意されたオレンジジュースを口に運ぶが、何の味も感じられない。
「ねえ騎士サマ。《《あのこと》》、正直に話した方が良いと思うの」
「あー……そういえば、通信では話してませんでしだっけ」
「あのこととは何じゃ?言うてみよ」
「クルピアちゃん、俺、『地獄』使えたんだ」
「はぁっ!?アレをか!?」
クルピアちゃんは大慌てでグラスをテーブルに置き、両手をついてこちらを向いた。
「うん。アレを」
「だ、誰が教えた、そんなの!」
「教わってないよ、クルピアちゃんのを真似しただけ」
「アレはそんな理由で使えて良い魔術ではないぞ……?」
「うん。使った瞬間に分かった。全身めっちゃ痛くてさ。アレをノールックで使えてたクルピアちゃんの凄さが分かるよ」
「妾は慣れておるからのぅ。負担も大分抑えられるが……アレは危険な魔術なんじゃぞ?」
「うん。非常事態以外では使いたくないね」
「それで良い。あんなの、無闇に使うものではないからの。妾を心配させたくないなら、よっぽどの時以外は使うな」
「うん。ごめん」
「じゃが。妾が使うところを見ただけで、あの魔術を使えたことは褒めてやろうではないか」
クルピアちゃんは俺の頭を撫でながら、そのまま抱きしめる。
「ごめんねクルぴー、アリスがやられちゃったばっかりに」
「良いんじゃ、誰にでも間違いはある。アリスが不覚を取る相手とやらが、少し気になるが……」
「殺されちゃったのよね、騎士サマに」
「ああ、カルドールじゃったのか。アリスを縛りつけたのは」
「ええ。足を引っ掛けられて、杖を落としてしまったの。痛かったわ」
「そんなことか。ドジじゃのぅ」
「俺、これからどうなるんでしょう。人を殺したの、初めてなんですけど……」
「普通なら刑務所行きじゃが、魔術師には特例があってのう」
「特例、ですか」
「うむ。魔術師同士の戦いに、法は干渉できないのじゃ。じゃから、魔術学院の法が判断を下すことになる。そして、妾とアリスは事件の当事者であり、最高位魔術師じゃ。後は分かるな?」
「ねじ伏せるってことですか?」
「せいかーい!言ったでしょ、アリスが何とかするって!」
「いや言いましたけど」
「それに、今回は事態が事態じゃ。暗殺を防ぐためという理由も、それを証明するのに十分な証拠もある。それに、アリスが捕まっていたとなれば、わざわざ妾達の権力を使うまでもなく、普通に正当性が証明されて終わりじゃろうな」
「そう、ですか」
何だか、不思議な気分である。
いくら敵とはいえ、人を殺してしまった罪悪感と、それを許された解放感。
俺は本当にこのままで良いのだろうかと、少し思い悩む時間が欲しいというものだ。
「騎士サマ!はい、あ~ん!」
「むっ、ズルいぞアリス!妾の弟子なのに!」
俺の中でモヤモヤとした何かになっている、混ざり合った感情は、しかしアリスちゃんの手で口に運ばれたクッキーの砂糖に溶けて、咀嚼され、腹の内に落ちてしまうのであった。




