第四十八話 だってロリコンだから
「魔導具使いの私に、勝てると思っているのですか?」
「思ってるねぇ!」
「そこのスコット先生から聞きましたよ。プラティエさん、貴方……魔導具音痴らしいですねぇ。テレパシストーン以外の魔導具を上手く使えた事が無いんだとか」
「そうですね!こっちが一々操作しなきゃいけない奴は特にダメで!」
「それで、何故私に勝てると?」
「アリスちゃんを助けたいから!あと、俺が強いから!」
俺は最高位魔術師であるクルピア・イロアの弟子である。
そんじょそこらの魔術師に負ける訳にはいかない。
……不意打ちでも無い限りは。
それに、今はアリスちゃんを助けるためという明確な目的がある。
「馬鹿を言ってはいけませんよ。私は準高位魔術師です」
「それでも勝てる!」
「そうですか。なら喰らいなさい!【マジックバズーカ】!」
「炎よ、不死鳥の姿を以て敵を葬り去れ!【火の鳥】!」
俺の「火の鳥」と、カルドール先生が放ったバズーカの弾丸が、ぶつかり合って互いを打ち消し合う。
「【マジックバズーカ】!」
「【火の鳥】!」
このまま魔術を撃ち合うとして、カルドール先生の魔力量は未知数。
そして、カルドール先生は魔導具に攻撃を頼り切るタイプであると考えるなら、ジリ貧になって負ける可能性もあり得る。
このまま「火の鳥」を飛ばしていても、俺の魔力切れが近付くだけかもしれない。
俺は腕輪を構え直し、クルピアちゃんの動きを見様見真似で覚えた魔術の構えをとった。
「地獄よ、人ならざる者に、正しき死を!生ける者に仇なす邪悪へ、正しき罰を与えよ!」
「ン?何ですか、その詠唱は……」
「【針地獄】!」
これはただ、クルピアちゃんの物真似でしかない。
しかし、それを放った瞬間、全身に針で刺すような痛みを感じると同時に、数十本の針が赤黒い針が現れ、カルドール先生に襲いかかった。
「なっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」
あっという間に、針はカルドール先生の全身を串刺しにし、その命を奪う。
心臓、肺、その他様々な臓器を貫き、血が全身から噴き出ている様は、まさに地獄といった様である。
あまりにも、あっけない。
あっという間に、準最高位魔術師が死んでしまった。
そして、殺したのは俺だ。
ここまでするつもりは無かったのに。
この「地獄」という魔術。
かなりの負担と引き換えに、それには十分過ぎる程の効果を発揮する魔術らしい。
ナルカとの戦いで、クルピアちゃんが何の苦痛も示さずに連発していたことが嘘みたいに苦しかった。
慣れたらマシになるのだろうか。
そして、それを見ていたアリスちゃんは、これまで見たことが無い、絶望したような顔をして、涙ぐんでいた。
俺はアリスちゃんの側へ駆け寄り、紐と猿ぐつわを解く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!プラティエちゃん、どうして……!」
「どうしてって、何が?」
「どうしてそこまで、してくれるの……!」
「何でって……俺がロリコンだから?」
「……そんな、そんな理由で、あんな魔術を……?」
「それ以外に理由なんてある?」
「……ぐすっ。怖かった……こんな作戦を提案したアリスが言うなんて、おかしいと思うけど……怖かったぁ……!」
「よしよし、怖かったね。大丈夫。お兄さんがいるからね」
「プラティエちゃん、アリスとあんまり歳変わんないじゃなぁい……!」
「それは……そうかも。何なら生きてる年月はアリスちゃんの方が長いかも」
泣きじゃくるアリスちゃんを抱きしめ、頭を撫でながら、俺は話を聞く。
アリスちゃんは元々、捕まったフリだけをして、クルピアちゃんが繁華街を片付けると同時に、こちらのアパート跡を一掃して脱出する予定だったらしい。
しかし、カルドール先生の保険とも呼べる策に掛かり、杖を取り上げられてしまったそうな。
最高位魔術師とはいえ、何歳かは分からないが、中身は幼い頃から成長できていないのだ。
アリスちゃんのことをよく知るカルドール先生には、そこをつけ込まれたようである。
そして、クイナ・トドメキを狙っている鬼の仮面を装着した連中の親玉というのは、カルドール先生で間違い無いらしい。
捕まっている間に聞いた話によると、彼らの目的は、クイナ・トドメキを殺して、鬼の血を注いだ仮面を作ることだったそうだ。
鬼の血で強化したテロ組織を用意して何をするのかまでは聞き出せていなかったようだが、とにかく、これで恐ろしい企みが未然に防がれたのは事実であるようだった。
「アリスね、不安だったのよ?プラティエちゃんもクルぴーも、大丈夫かなって」
「よしよし、大丈夫。下にいた奴らも全員ブッ飛ばしてきたから」
「プラティエちゃん……こんなに強かったなんて、驚きだわ。あの時、アリスが勝てたのは……たまたまだったのかもしれないわね」
「それは無いと思います。アリスちゃん強過ぎですし」
俺は棚に置かれていた、アリスちゃんのものと思しき、デコレーションされた杖を渡す。
それと同時に、俺にクルピアちゃんから着信が届いた。
眉をひそめて端末を操作する俺に代わって、アリスちゃんが操作し、通話に出る。
「もしもし、クルぴー?」
「おお、アリスか。プラティエの端末からアリスが出るということは、そっちは無事なんじゃな」
「ええ!かっこいい騎士サマに護られちゃったわ!そっちは?」
「問題ない。全て片付いたぞ」
そして今回の事件について、その全容をクルピアちゃんに話した。
「それじゃあ……パーティー、しましょ!《《騎士サマ》》!」
「あ、俺の呼び方は『騎士サマ』で固定なんですね」
「当然よっ!貴方はクルぴーの弟子だけど、今日からはアリスの騎士サマでもあるの!素敵でしょ!」
「スゲー光栄ではありますけど……。それはそうと、どうすれば良いですかね……この死体」
「アリスが何とかするから大丈夫!」
「っていうか、全然動じないですね。死体が目の前にあるのに。俺、気が気じゃないですよ」
「魔術師にはよくあることよ。だから大丈夫。さ、行きましょ?騎士サマ!」
「あっ、はい……」
初めて人を殺した時にパーティーというのは、あまり気が乗らない。
しかし、アリスちゃんが言うなら参加しようと思うのであった。
俺が今、明るく振る舞える理由があるとすれば、それはこれから可愛らしい少女二人と、また一緒にいられるということくらいである。




