第四十五話 妙な動きの同僚
翌日。
俺はコレディッカ先生の研究室を訪ねていた。
「よぉこそ、我が研究室へ」
今日は少し落ち着いているようだ。
「この間ぶりです、コレディッカ先生。怪我は良くなりましたか?」
「えェ、おかげさまでェ。それより何ですゥ、用というのはァ」
「ああ、それなんですけど……」
俺はまず、コレディッカ先生の近況を聞くことにした。
しかし、その途中で、妙な言葉が耳に入る。
「そういえば最近、同僚が妙な魔導具を集め始めましてねェ……夜中に研究室を訪れると、上の階からガタガタ音が聞こえるんですよォ」
「上の階ですか」
これは少し、深掘りしてみた方が良さそうだ。
「えェ。……正直、うるさくて仕方ないですよォ」
「上の階って……誰がいましたっけ?」
「私の部屋まで音が聞こえる範囲の部屋にいるのは、高位魔術師フォーレン、準高位魔術師ララヴィ、高位魔術師マキアコートの三人ですかなァ」
魔術学院で位の高い魔術師は、上の階に研究室を構えることが多い。
そして、高位魔術師であるコレディッカ先生も例に漏れず、上階に研究室を持っている。
コレディッカ先生より上の階に準高位魔術師が居るのはよく分からないが、政治的あるいは魔術的な理由があるのだろう。
直接戦った時に、ララヴィとかいう魔術師の方がコレディッカ先生より強いとか。
それはともかくとして、コレディッカ先生の部屋まで音が響く範囲に研究室がある高位魔術師が二人にまで絞り込めたのは、かなりの収穫だろう。
「ありがとうございます」
「え?あァ……良いですけど、何なんですゥ?先ほどから、急いでいるよォに見えますがァ」
「いや……実は……その~……」
ここで俺の目的を探られる訳にはいかない。
コレディッカ先生が敵だった場合、この場で襲われる可能性もある。
そうでなくとも、ロクなことになる未来が見えないからである。
「もしかしてェ……アナタも《《関わっている側の人間》》、なのでェすか」
「ななな、何の話ですか」
「……これから言う名前は、関係無かったら忘れて欲しいものでェすが、よろしいですかァ?」
「い、一応聞いときましょう」
「『オーガマスク案件』、でェすよ」
「イェス!俺もまさにその調査中です!」
心に巻きついていた鎖が解けた気分である。
「やっぱり、そうでェしたか」
「でも、何でコレディッカ先生が知ってるんです?」
「何でって、何を隠そう、ワタクシの上司がその『クイナ・トドメキ』だからでェすよ」
「そういえば聞いてなかったですもんね」
高位魔術師である以上、その上には最高位魔術師がいるハズだ。
準高位魔術師のカルドール先生でさえ、最高位魔術師であるアリスちゃんから直接の指示を受けていた。
すっかり聞くことを忘れていたが、まさかコレディッカ先生の上司が、魔術師クイナだったとは。
「やっぱり、アナタもこちら側の人間でしたかァ。一年生なのに大変でェすね」
「知り合いに最高位魔術師がいると、いろいろあるんですよ」
「災難でェす」
「そのおかげで、いつも楽しいですけどね。コレディッカ先生、教えてください。魔術師クイナって、どんな人ですか?」
「そォですねェ……。少なくとも、鬼の末裔であることは本当のようでェす」
「それ以外は?」
「さァ、よく分かりませェん。何しろ、姿を中々見せないものでェすから」
「そうですか……」
「この事を知っているということはァ……ワタクシを調べるために来たのでェすね?」
「はい。疑ってすいませんでした」
「良いんですよォ。身内であっても疑うのは、魔術師として優れている人の条件だと思いまァすし」
やはり魔術師の界隈は思っているよりも殺伐としているようだ。
「俺がここに来た目的は、コレディッカ先生の動向を探ることだったんですけど……思わぬ収穫がありました」
「それで、上階の魔術師がァ怪しいと?」
「はい。誰かしらの高位魔術師が一枚噛んでいると聞いていたもので、念のため調べてみようかと」
「誰からですかァ?魔術師クルピアですかァ?」
「ま、そのツテではありますね」
「……プラティエ君が何をしようと、ワタクシに口を出す権利はありませェんが……くれぐれも、お気ィをつけを」
「はい!」
「相手が高位魔術師なら、ワタクシかそれ以上の実力を持っていることも考えられまァす。確かにプラティエ君は強いでェすが、くれぐれも油断はしないよォに」
「気をつけます、ありがとうございます!」
怪しい魔術師は、高位魔術師フォーレンと、高位魔術師マキアコート。
二人の内どちらかが、変な音を出している。
それが必ずしもオーガマスク案件と関係があるかは分からないが、調べてみる価値があるかもしれない。
もし二人とも関係がないと判明したら、その時は逆に協力を仰げば良いのだ。
こうして俺は、二人の動向を探るため、陽が沈むのを待つことにした。
本当はクルピアちゃんかアリスちゃんに同行を頼むべきだったのだろうが、俺はこの時、調査のことで頭がいっぱいだったため、そのことをすっかり忘れていたのだ。
それから二人の内、音を立てている方を尾行する方法を考えているうちに、夜が訪れるのだった。




