第四十四話 忍び寄る気配
その晩。
俺は自室へイロハちゃんとアリスちゃんを招き入れた。
「邪魔するぞ、プラティエ」
「お邪魔するわ!まあ!片付いてるのね!」
「こちらへどうぞ~」
二人をソファーへ座らせ、俺はベッドに腰を下ろす。
イロハちゃんは変身を解いてクルピアちゃんに戻り、アリスちゃんは結んでいた髪を解いた。
「まずは……カルドール先生に会った話から始めましょうか」
「そうか。そういえば、其方は魔導具学基礎をとっておったな」
「その講義の後に、直接話したんです」
「グスタフちゃんは元気だったかしら?」
「元気でしたけど……最近、会ってないんですか?」
「ええ。最近は情報端末だけでのやり取りばかりで、直接会うことは無かったわ」
「大丈夫かのう。何かやらかしておるのではないか」
「その線は薄いと思いますけど……」
俺はカルドール先生から聞いた情報を二人に話す。
もし、カルドール先生が奴らに与しているのであれば、わざわざ俺の前で事件の詳しい話をしてくれることは無いだろう。
俺とアリスちゃんが知り合いである以上、事件の情報を流すということは、単純に最高位魔術師へ情報が通じてしまうということになる。
カルドール先生は俺とアリスちゃんが知り合いだということを分かっているのだ。
それを知っていて、情報を流すカルドール先生ではないだろう。
そしてアリスちゃんの反応を見るに、特におかしいといった点は無いようだ。
最前線で密偵を使ってまでオーガマスク案件を追っているアリスちゃんが妙な反応を示さないということは、その情報が合っているということで良いハズだ。
「うん、特におかしいところは無かったわ!」
「そうか。なら、グスタフとやらは大丈夫そうじゃな」
「そうみたいですね」
「うんうん!グスタフちゃんも、ちゃんと頑張ってくれてるみたいで安心したわ!」
「それで……《《さっきから感じる気配は何じゃ》》?」
「へ?」
俺は何も感じなかったが……まさか、俺の部屋が何者かにバレているのだろうか?
一体どこから?
この状況で襲ってくる敵といえば、オーガマスク案件に絡む人物しか思い浮かばない。
「そうね。半径五十メートル……下の方に何かいるわね?クルぴー?」
「うむ。じゃが……ここで妾達が姿を現せば、大騒ぎになるじゃろう。場所を変えるぞ」
俺達はそれぞれの武器を持ち、走って部屋を出る。
クルピアちゃんは「変身」で姿をイロハ・テレジアに変え、アリスちゃんも当然のように「光」で光学迷彩を身に纏った。
「何なんですか、さっきの気配って?俺、何も感じなかったですけど」
「グスタフとやらは其方の部屋を知らないハズ……誰が漏らしたんじゃ……」
「もー、何なのよー!せっかくプラティエちゃんのお宅訪問してたのにー!」
廊下を駆け、階段を下へ。
裏口から男子寮を出ると、気配の主と思しき者の足音が聞こえた。
曲がり角で気配の主がこちらへ来る時を待ち、クルピアちゃんが一撃。
「そいっ」
「ギャッ」
魔力の弾丸を杖から発射し、気配の主を爆破した。
「流石ね、クル……じゃなくて……誰?」
「イロハ・テレジアじゃ。イロハと呼べ」
「分かったわ、イロハちゃん!」
ノビてしまった気配の主は、やはり鬼の仮面を装着している。
やはり敵はオーガマスク案件に絡んでいるらしい。
「どれ、ちょいと貸してみよ」
イロハちゃんは敵の仮面を剥がし、胴体を「雷」で縛り上げた。
「何するの、イロハちゃん?」
「ちょいと吐かせてやろうと思うてのう」
拷問の始まりである。
「あばばばばばばばば」
「其方の命は今、妾の手中にある。答えろ。其方らの主は今、どこにいる?」
「し、知らねぇ……ぎゃああああああ!」
「もう一度言う。其方らの主はどこじゃ」
「本当に知らねぇんだよ!俺達は寄せ集めだ!リーダーが誰かも知らねぇし、目的を達成してどうするのかも分からねぇ!」
「ほう?其方らの目的は……?」
「教えるもんかよあぎゃあああああああ!」
「答えねば殺す」
「存在するかも分からねぇ最高位魔術師の殺害だよ!ターゲットはクイナ・トドメキだ……知ってんだろ、どうせ!」
「うむ。それは間違いないようじゃな。で、何故そんな奴らに協力しておる?目的を達成したところで、何を得るとも知らぬ奴が」
「俺はただのバイトとして雇われただけなんだよ!魔導具の実験補助員としか聞かされてねぇんだ!そしたら握られた個人情報をタテに、こんなことまで……」
「そうか。……ひとまず、其方はパルグレフ魔術学院で保護することにしよう」
「ありがてぇ……!」
「その前に、もう一つ質問じゃ」
「な、何だよ」
「其方、あの部屋をどこで知った?」
「知るも何も、行かされたんだよ。あの辺に強い魔術師の気配があるって言われてな。高位魔術師の奴に」
「其奴の名前は?」
「悪いが、それも知らねぇんだ。そいつがリーダーなのか、そうじゃねぇのかも分からねぇ。自分が高位魔術師だから、最高位魔術師のデータにアクセスできるって喋ってたのを、偶然聞いてただけだ」
「そうか。そこまで答えてもらえば充分じゃ。アリスよ、此奴の記憶を改ざんして、学院の拘束室に放り込んでおけ。ひとまずの安全は確保できよう」
「任せてちょうだい!記憶の改ざんは得意分野だもの」
「はぇー、手際良いですね」
俺が感心している間に、イロハちゃんは敵をアリスちゃんへ引き渡し、アリスちゃんが「不思議な記憶」という現代魔術で敵の記憶を操作することで、あっという間に処置を済ませてしまう。
そして、敵はアリスちゃんが召喚した人形に連れられ、意識が朦朧とした状態のまま、校内へ消えていった。
それから俺達は、俺の安全確保という意味でも、あえて再び俺の部屋へ戻り、話を続けることにした。
「さて、脅威は去った訳じゃが……誰かしら、高位魔術師が敵に通じているということは分かったのう」
「高位魔術師の誰かが、裏切った……ことになるのかしら?」
「そのようじゃな。……じゃが、魔術学院の勢力というものは、一枚岩ではない。奴らには奴らなりの目的があるのかも知れぬが……最高位魔術師に手を出すとなれば、話は別じゃ」
「複雑なんですね。最高位魔術師の中でも色々あるんですか?」
「ええ。アリスとクルぴーはたまたま仲が良いだけで、皆が仲良しな訳じゃないわ」
「いやーお二人、非常に尊いと思います」
「へ?」
「あー、聞き流しておれば良いぞ、アリスよ。ただの世迷言じゃ」
ひどい。
「ま、とりあえず高位魔術師を探るってことで良いんですよね?」
「そうじゃな。……大半は妾達で何とかするが……あのコレディッカという魔術師は、プラティエ。其方が探ってはくれぬか」
「分かりました。コレディッカ先生に限って、無いとは思いますけど」
「妾もそれは分かっておる。じゃが、一応、な」
「はーい」
この日はこれ以降、特に大した話もせずに解散となった。
鬼の仮面を装着した敵の裏に潜む、高位魔術師の存在。
強い魔術師の位置を知ることができるようであるそいつは、こちらに向かわせた鉄砲玉に大した情報も持たせていない以上、そう易々と尻尾を出す相手では無いだろう。
しかし、このままやられっぱなしという訳にもいかない。
コレディッカ先生は勿論だが、ベルリナちゃんとバルディオが履修している講義を受け持っている高位魔術師の元を訪ねてみても良いかも知れない。
俺はクルピアちゃんとアリスちゃんを見送った後、行動計画を立てて、紙に書いておくのであった。




