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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第四章 鬼の仮面

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第四十二話 テレパシストーン

 アリスちゃんとの戦いから三日後。


 俺とベルリナちゃんは、魔導具学基礎の講義を受けるため、小教室へ向かった。


 この講義では、今まで主に現代魔杖や通信端末の基礎的な使い方について学んでいたが、今回の講義では本格的に魔導具の使い方について学んでいくらしい。


 教授の名前は「グスタフ・カルドール」。


 低い声と落ち着いた雰囲気で解説をしてくれる、渋いおじさんである。


「本日もお集まり頂き、ありがとうございます。今回の講義では、『テレパシストーン』を扱おうと思います。よろしく、お願いします」


「はいはいせんせー!」


「はい、何でしょう。ベルリナさん」


「アタシ、知ってるぜ!それ!」


「ほう。では、具体的にテレパシストーンとはどのようなものか、説明をお願いできますか」


「はーい!テレパシストーンっつーのは、近くにいる奴の意思とかメッセージとか、そういうのを共有できるやつだよな!」


「概ね正解です。厳密には、『同じテレパシストーンを身につけた、ある程度近くにいる存在同士の心が通じ合う魔導具』ですが、とても良い回答でした」


「やったぜー!」


「よく勉強していて、素晴らしいことです。ちなみにですが、先ほど距離に関して『ある程度』と言ったのは、石によって精神エネルギーを受信できる距離が違ったり、石と石とが繋がる距離にも差があったりするからであり……」


 カルドール先生の説明を聞くに、テレパシストーンとは、トランシーバーのようなものらしい。


 色によってチャンネルが違い、それを|アクセサリー等にして身に着けた《要は装備した》者、或いはすぐ至近距離にいる者の思考を、同じ(チャンネル)のテレパシストーンを持っている、現在確認できている物で最大二キロメートル以内の人間に伝達させる、という効果があるそうだ。


 講義の後、俺とベルリナちゃんはグスタフ先生の元へ行き、試しにテレパシストーンを持ってみることにした。


「これで良いのかー?」


 ベルリナちゃんは早速、テレパシストーンが嵌め込まれた腕輪を装着する。


「はい。ではプラティエさんも、テレパシストーンのネックレスを着けてみてください」


「分かりました!」


 続けて俺も装着してみると、すぐにベルリナちゃんの思考が流れ込んできた。


「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」


「どわーっ!」


 ベルリナちゃんからの熱烈なアプローチ。


 思わず後方へ吹き飛んでしまった。


「あ、悪ぃ、思わず溢れ出ちまったぜー」


「びっっっっくりした!!!何ぃ!?いや、知ってたけど!」


「……どんな思念を飛ばしたのかは知りませんが、あまりグロテスクなことは考えないようにすることを勧めますよ」


 ある意味グロテスクではあったのかもしれない。


 可愛い少女からの熱い想いである故、嬉しいものではあるが……程があるというか。


 何だか、複雑な気持ちである。


「ベルリナちゃん、ちょっと試してみて良い?」


「いいぜ!」


 俺からの送信も試してみるべく、「危ない」と強く思ってみる。


 すると、ベルリナちゃんが目を丸くしてこちらを見た。


「すげぇ!いきなり警報が鳴った時と同じ気持ちが流れ込んできたぜー!」


「あ、ちゃんと通じてる」


 まさか俺にもまともに使える魔道具があるとは。


「……先ほどの講義でテレパシストーンを紹介した理由……お二人には、分かりますか?」


 テレパシストーンを返すと、グスタフ先生はおもむろに話を始めた。


「えー?そりゃあ……そういうカリキュラムになってたからじゃないのかー?」


「いいえ。元々、そんな予定はありませんでした」


「じゃあ、どうしてですか?」


「近頃、鬼の仮面を装着している輩が、夜の王都周辺を徘徊している。この事実はご存知ですか」


「初めて知ったぜ」


「俺は聞きましたよ。この前、コレディッカ先生のコネで知り合った魔術師から」


 正しくは、そのクルピアちゃんのコネで知り合ったアリスちゃんからである。


「これは、とある上司……最高位魔術師から一部の魔術師に共有されている情報で、隠せとは言われていないので話してしまいますが……。どうやら、その鬼の仮面にはテレパシストーンが嵌め込まれているそうなんです」


「テレパシストーンを仮面に嵌めて……何かしたいことでもあるんですかね?」


「さあ。私にも分かりませんが、テレパシストーンを使って連携をとらなければならない《《何かをしようとしている》》連中であることには変わりありません。お二人も、気をつけるようにと……そう注意喚起したかっただけです」


「マジかよ。でも先生!……折角、テレパシストーン貸してくれたんだしさ!何かあったら言えよな!魔術師として協力するぜっ!」


「その時には、逃げろと言いますよ。私が困るような状況において、教え子にはそう言うのが、先生と呼ばれる者の務めですから」


 カルドール先生、俺がかつて出会ってきた大人達の中でも、非常に大人っぽい大人である。


「あっ、ごめん!ベルリナちゃん、先に帰っててくれる?」


「おー、何だ?グスタフ先生と話し足りないのかー?」


「ちょっとね……コレディッカ先生のコネで知り合った人と、繋がりがありそうで。その辺りの話をしたくて」


「あー……なら、しゃーなしだなー!ちょっと寂しいけど、一人で帰るぜ!」


「ごめん!ありがとう!」


「いいってとこよ!その代わり今度、アタシとデートしろよなっ!」


「ええ!?いや、良いけど!あんまそれっぽいことはできないけど!?」


「おう!楽しみにしてるぜー!」


 ベルリナちゃんとのデートが決まったところで、俺はカルドール先生に話を切り出す。


「さて、何でしょうか。友人を一人で帰らせてまで、私にしたい話というのは」


「単刀直入に聞きます。グスタフ先生の上司って、アリス・スコット先生ですよね?」


「さあ、何の話でしょうか」


「聞いてますよ。オーガマスク案件について。アリス《《ちゃん》》から」


「……どこでそれを知ったのですか」


「ちょっとばかり、コネがありまして。アリスちゃんからは詳細を聞きそびれてしまったので、教えて欲しいんです」


「……分かりました。場所を変えましょう。私の研究室について来てください」


 アリスちゃんは、「一部の魔術師に情報が共有されている」と言っていた。


 この人ならば、俺が聞き損ねたオーガマスク案件の話を知っているだろうという、俺の見立ては正しいようだ。


 こうして、俺はカルドール先生の研究室へ向かうのであった。

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