第三十一話 高位魔術師コレディッカ
その日の夜。
俺とバルディオはコレディッカ先生に呼び出され、彼の部屋へと向かった。
「よォォォうこそォ!待ってましたよォォォ!」
「ども、こんばんは」
「ご機嫌よう、コレディッカ先生」
「ご機嫌よォォォ!例の魔物の話、聞いてますよォォォ!随分と大きな敵に挑もうとしているようですねェェェ!そこで、ワタクシの力が必要だと!そういうことですねェ!?」
「はい。僕は大切な女性を、その魔物に殺されました。……どうか、ご協力願いたいと思いまして」
「フーン。今日はラルグスの男だとか、名家がどうとか、そういうことは言わないんですねェ」
「事態が事態ですので。ご冗談なら後にしていただきたい」
「おっと、そうですねェ。バルディオ君の改まった態度……もとい成長に免じて、その願い、聞き入れることにしましたーあ!」
いつもとテンションが変わらないコレディッカ先生だが、今日は至って真剣な面持ちである。
この騒動ばかりは、ふざけている訳にもいかないと思ったのだろうか。
コレディッカ先生も、こんな表情ができたのだなと、素直に感心するところである。
「本当ですか!ありがとうございます!」
「でェ~すゥ~がァ~。一つ、条件がありまァす」
「条件、ですか」
「もう一人、ワタクシが選んだ助けを呼ぶことを許可するのでェす」
「「もう一人?」」
「はァい。ワタクシ、これでも高位魔術師でしてねェ。それなりに権限があるワケですよォ。ですが、仮にその魔物が、『吸血鬼ナルカ』だった場合……また、話が違ってくるワケでェす」
とうとうここで、ナルカの名前が出た。
やはり高位魔術師ともなると、その名前を知らない訳にもいかないのだろうか。
「ナルカ……それが、僕の愛人を襲った吸血鬼の名前ですか」
「えェ。そして吸血鬼ナルカは、元人間でありィ……その名は、『ナルカ・ラルグス』」
「ラルグス……って、僕と同じ名字じゃあないですか!?」
「そうなんですよォ。アナタと血縁関係がある、遠い親戚か……もしくは、遠い先祖かもしれませんねェ」
「そんなことが……僕は、どうすれば……」
バルディオが露骨に焦り始める。
自らの血に誇りを、或いは逆にコンプレックスを持っているからだろうか、吸血鬼の正体が、その血を持つ者であると知った彼が焦りに駆られるのも、無理はないだろう。
「一度お話をしてみるのもアリかもしれませんねェ……と、言いたいところでェすが。相手が相手である以上、アナタの意見はもはや通りませェん。確実に探し当ててブチ殺す、それだけでェす」
「……分かり、ました」
「そして、肝心の助けをお願いする魔術師ですが」
「「はい」」
「追放された最高位魔術師……『クルピア・イロア』にお願いしたいと思ってますゥ」
「クルピアちゃ……クルピア・イロア!?」
その名前が出てきた時、俺はバルディオと同じくらいに冷や汗をかいてしまった。
「ハァイ。彼女は最高位魔術師でありながら、魔術界を《《表向きには》》追放されていまァす。ですが……我々高位魔術師か、それ以上の者については、接触が許可されていましてですねェ」
「そんなものがあるとは。魔術学院も随分と秘密を大切にする組織なようですね」
「全くでェす」
「そんな情報を、まだ入学した手の僕達に教えて良いものなのですか?コレディッカ先生」
「学院側からしてみれば、望ましくは無いでしょうねェ。でも、ワタクシは高位魔術師なのでェ、その権限があるんですよォ」
「へぇ……」
「それに、事態が事態でェすし?可愛い教え子の頼みで最高位魔術師の力が必要なら、これを教えない選択肢はありませェんよォ」
意外と学生想いなコレディッカ先生の性格が見えたところだが、俺の方はそれどころではない。
本で名前を見た時から凄い人なのだろうとは思っていたが、クルピアちゃんがそこまで位の高い魔術師だったとは。
「その人、強いんですか」
白々しいかもしれないが、俺は知らないふりをしてコレディッカ先生に聞いてみる。
「えェ、それは勿論。ワタクシなど、相手にならないでしょうねェ」
「へぇー……そんなに」
ま、実力は知ってるんだけどね。
「学校に戻ったら、特別にワタクシの権限で最高位魔術師一覧を見せてあげましょウ。メモも写真も禁止ですが、見せるだけならワタクシの権限で出来ますからネ」
「マジですか、良いんですか」
「僕の仇を取るためなら、資料だって禁書だって何でも見てやろうではありませんか」
思いがけないところで、思いがけない情報が入った。
クルピアちゃんが最高位魔術師であり、追放されたのも表向きの話であるとか。
俺に隠すつもりがあるのか、それとも話してもらう機会が無かっただけか、或いは追放があくまでも表向きのものであるということを本人も知らないのか、それは分からない。
まずは、クルピアちゃんに事実を、そして自身の追放は表向きであるという事は知っているのか、聞いてみなければ。
それで何かを隠されるようなことがあれば、何か怪しいことがあるのかもしれないと、探ってみるべきかもしれない。
俺はバルディオと共に部屋へ戻り、クルピアちゃん周りの情報でボロを出さないよう、特に何か言葉を交わすこともなく、眠りにつくのであった。




