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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第三章 王都の伝説と最高位魔術師

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第二十九話 ナルカの仕業

 それから二週間後。


 特にナルカによる吸血の被害が起きたという話を聞くことも無く、野外学習へ出発する日が訪れた。


 俺達が気づいていないだけである可能性も大いにあるが、ひとまず脅威が積極的に暴れていないことは、不幸中の幸いであったというべきだろう。


 しかし、俺とクルピアちゃんは、ナルカが討伐されていない状態のまま王都を離れることに不安感を覚えていた。


 倒せるものなら倒したいが、奴が潜伏している場所も分からなければ、見つけたとて俺一人で倒せる訳が無い、そんなもどかしさに悶々としている朝。


 出発まではまだ時間がある。


 どうも動きようがない、ただ流れる時間に抗うように、教室の中で一人、机に突っ伏して歯を食いしばる俺に、ある男が声をかけてきた。


「……プラティエ・ノルン。少し良いですか」


 バルディオ・ラルグス。


 吸血鬼ナルカ・ラルグスの子孫或いは親戚であり、野外学習で同じ班になるクラスメイトである。


「どうしたの藪から棒に」


「僕のハーレムから一人、魔物による被害の犠牲者が出ました。この王都マガルタで、です」


「おっと……それは……ご愁傷様だね」


「恐縮ですよ。死体はまだ見つかっていませんが、衣類と持っていた僕宛の手紙が、血と肉片がべったりと付着した状態で、排水溝から発見されました。DNA鑑定もしてあります」


「排水溝から見つかった血と肉片が付いてたの?」


 普通なら血と肉片なんか、水で流れ落ちそうなものだが。


 そもそも手紙がクシャクシャに濡れていない状態で見つかるのも不自然というものだろう。


「ええ。魔力で保護されていたみたいでした。おそらく、最期に手がかりを残してくれていたんだと思いますよ」


「そういう魔術もあるのか」


「彼女は、そういう細やかな生活にあると便利な魔術が得意でした」


「仲が良かったんだね」


「ええ。僕は今、すごく悲しいし悔しいんです。そこでですよ、プラティエ君。僕達は一度、魔術で殴り合った仲です。認めたくはありませんが、僕を打ち倒した君を見込んで、頼みがあります」


「何?」


「失われた、僕の大切な女を……『ハナ・サカザキ』を殺した魔物の討伐に協力して欲しいんです」


「途中までは、良いよ。それ以降は保証できない」


「どういう意味です」


「この王都は、強固な警備が敷かれている。そんな王都に入り込んで暴れられる魔物の特徴って、限られると思わない?」


「フン。そんなの、地下の下水からネズミくらいは入るでしょう」


「まあ、そうなんだけど。もう一つ、考えられる特徴があって。それこそネズミみたいに、警備兵に見つからない程に潜伏するのが上手いか、或いは」


「或いは?」


「警備なんて怖くないくらい、力が強いか。もしくはその両方。その魔物が強い側だった場合、俺は手を引く」


「……随分と自信が無さそうですねぇ。僕に勝った男の言葉とは思えませんよ」


「いやあ、その……この王都には、言い伝えがあって……」


 ここで、ナルカ・ラルグスの話をすることはできない。


 ただクルピアちゃん絡みの事件であるというだけでも喋りにくいのに、ナルカとバルディオは血縁関係にある。


 話がどれだけややこしくなるか、想像もしたくない。


 そこで、俺は「王都には吸血鬼伝説があり、その吸血鬼が討伐された記録は無い」と、あくまでも伝説ということにして話をしたのだった。


「フン……確かに、その吸血鬼が生きていたら、ハナがやられるのも無理はありませんね」


「そのハナって人は強いの?」


「君はどうか知らないが、僕は敵いませんでした」


「マジか」


 ハイ、アウトー。


 俺が見ているところでは負けが込んでいるため、弱く見えてしまっているバルディオ。


 しかし彼でも、まだ魔術学院に入って一ヶ月やそこらの学生にしては、かなり強い方である。


 パルグレフ魔術学院の一年生は、そんじょそこらの狼やらゴブリンやらの魔物が数体出たところで平気であしらってしまえる程度の実力を、実に半数以上の学生が持ち合わせている。


 その上澄みといえば、独学で魔術を学んだ大人では敵わない程の魔術師だ。


 それが敵わない程の実力を持つ者が負けるというのだから、生半可な魔物では無いことは明白だろう。


 そして、それが王都で多くの人間には見つからずに息を潜めている。


 それ程までに潜伏が上手く、それ程までの力を持つ。


 こんなにも早く、あの晩の事実が浮かび上がるとは思わなかった。


 あの晩、ナルカ・ラルグスに殺された叫び声の主は、何らかの理由でバルディオを訪ねて王都へやってきた、ハナ・サカザキだったのだろう。


 そもそも血と肉片が付着した服や手紙が排水溝に捨てられている状況は、地下水路で女性が吸血鬼に殺されていた状況と辻褄が合い過ぎている。


 大方、衣類や紙は食べられないからと、ナルカが捨てたのだろう。


「……プラティエ、何か心当たりがあるのかい?」


「いやあ?……でもさ。俺達、その辺にいるザコみたいな魔物なら軽く倒せるじゃん?」


 言える訳無いだろ、ややこしい。


「そうだね」


「そんな俺達、少なくともバルディオは勝てなかった魔術師が負けた。その魔物が弱い訳、無くない?」


「考えてみればそうですね、断るんですか?」


「うん。僕じゃあ多分、力不足だと思う。二人まとめてやられるだけだよ。そんな魔物が、なんなら伝説の吸血鬼だったら、勝てっこないから」


 こればかりは本当に勝てっこ無いのだから仕方がない。


 根性無しというなら、どうぞ、責めてくれれば良い。


 それで命が助かるならば安いものである。


「そうですか……教授に頼むしか無いんですかね」


 しかし以外にも、バルディオの反応はあっさりとしたものであった。


「そうだと思うよ。でも……頼む人は選んだ方が良いと思う」


「相手によっては教授でも勝てない、ですか?」


「伝説の吸血鬼だったら、ね。そうじゃなかったとしても、戦魔術師を選ぶべきだと思う」


「助言ありがとう。僕なりに、策を講じてみますよ」


「それが良いよ。俺からも、頼りになりそうな人には言っとくからさ」


「是非、頼みますよ」


 バルディオは頭を下げて頼んだ。


 あの尊大なバルディオが、俺に頭を下げるとは。


 おそらくナルカの仕業であろう今回の事件は、彼にとって相当堪えているのだろう。


 いつもの偉そうな表情が、今日はやけにしょぼくれ、枯れた花のように萎んでいたのだから。

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