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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第三章 王都の伝説と最高位魔術師

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第二十七話 クルピア・イロアと王都の怪物 中編

 俺とイロハ(クルピア)ちゃんは、夜の街を駆ける。


 悲鳴が聞こえたのは、旧市街の方向。


 こんな夜更けに街を歩くのは不用心であると言わざるを得ないだろう。


 しかし。

 それはそれとして、悲鳴が聞こえた以上、少なくとも正義か悪かで言えば正義に属する魔術師が、駆けつけない訳にはいかない。


 俺はスピードを上げて、イロハ(クルピア)ちゃんと並びながら、現場へと向かうのだった。


「プラティエよ、其方もいよいよ、呪文を省略して飛べるようになったんじゃなあ」


「そういえば最近、あのめんどくさい呪文は唱えてないような」


「慣れてきた証じゃな。あれくらいの長さの呪文であれば、省略しても大した代償は無いからのう。弟子の成長を感じられるというのは、師匠として嬉しいものじゃ」


「俺も強くなってるってことですかあ」


「うむ。……さて、弟子の成長をもっと嬉しがりたい気持ちはあるが、そろそろ旧市街じゃ。周囲を警戒しながら進むぞ」


「はい!」


 レンガ造りの建物が並ぶ、旧市街。


 月明かりの中、二人でスピードを落として周囲を注意深く観察しながら進んでいく。


「……プラティエ!現場は近いぞ、警戒を強めるのじゃ!」


「なっ!?はい!」


 少し旧市街の中心部へと近付いたところで、イロハ(クルピア)ちゃんは赤い液体の跡を発見した。


 おそらく血と思しき赤く細い川は、さらに旧市街の奥へと続いている。


 跡を辿っていくと、それは雨水マンホールの中へと繋がっているようであった。


「マンホールか……吸血鬼の好みそうな場所じゃ」


「突入するんですか?」


「無論じゃ」


 イロハ(クルピア)ちゃんは慎重にマンホールを開き、中へ。


 下水ではないだけマシだが、暗いところは基本的に魔物のフィールドである。


 それも閉所となると、警戒を強めるだけ損はしないというものだろう。


 俺達は梯子を降り、地下水道の歩道へ降り立つ。


 地下へ入ると同時に、イロハ(クルピア)ちゃんは、魔力的な負荷を少しでも減らすために変身を解除して、クルピア・イロアの姿へ戻った。


「【追従する光(ピカリィ)】、【先導する光(ピカリィ)】」


 俺は自分とクルピアちゃんの側に、フワフワと浮かぶ光源を用意する。


 片方は自分を追いかけてくる光で、もう片方は

 自分の行きたい方向を感じ取って、そちらに自動で向かう光である。


「妾が教えた魔術……ちゃんと自分なりに強化しているようじゃな。優秀な弟子をもって心強いぞ」


「全部、クルピアちゃんとの大切な思い出ですからね。一つたりとも忘れませんよ」


「ういやつよのう。其方は新しい魔術を覚えるまで時間はかかったが……覚えてしまえば、すぐ自由自在に使えるようになる……妾と同じじゃな」


「クルピアちゃんもそんな感じなんですか?」


「うむ。妾が多くの魔術を覚えておるのは、ひとえにこの長い寿命のおかげじゃろうな」


「そうですかねえ?」


「うむ。妾にもっと才能があれば、あの日、奴を仕留められていたのにのう。……今でも、もどかしくなるぞ」


 クルピアちゃんは遠い目をして、自らの杖を見つめる。


 確かに長生きしていれば、それだけ魔術を勉強する時間も増えるだろう。


 しかし、その増えた寿命でさらに魔術の腕を磨こうと考え、そして実際に成長しているということは、彼女が少なくとも魔術において、「努力の天才」であるということではないだろうかと、俺は思うのだ。


「そんなに卑下しなくても良いと思うけどなあ」


「そうかのう。そう思ってくれているなら、嬉しいがのう。……妾の寿命が普通の人間と同じじゃったら、応用は誰よりも利かせる自信はあったが、使える魔術自体はそこまで多くなかったじゃろうよ」


「……やけに自信無さげですね、今日は」


「不安な夜もあると言ったじゃろうて。今日は不安なんじゃ。オマケに、奴が……ナルカ・ラルグスが動いておるかもしれんのじゃ。不安にもなろうて」


「そんなによく姿を現すんですか、そのナルカ・ラルグスって奴は」


「しょっちゅうじゃ。今は知らぬが、かつては『王都で女の行方不明者が出たら、八割は奴の仕業じゃと思った方が良い』と言われていた程じゃ」


「女限定なんですか、襲われるのって」


「うむ。偶然、現場に居合わせた男が殺されることはあったが……積極的に襲われるのは女じゃったな。女の血を好むのじゃろうて」


「女好きかあ~」


 俺達はナルカ・ラルグスの話をしながら、地下水路を奥へ奥へと進んでいく。


 ところどころに血の跡があり、道には迷わずに済みそうだ。


 今追いかけている敵は自分の通り道を隠す気が無いのだろうか……。


 いや、待て待て待て。


 俺達は結構な時間、二人で話しながら水路を進んでいた。


 そして、ここは地図で表すのならば、丁度建物が密集する繁華街の辺り。


 気が付けば、辺りにはおぞましい気配が漂っている。


「プラティエよ」


「俺も同じこと考えてました。俺達、誘い込まれてますよね」


 敵は足跡を隠せなかったのでは無い。


 隠さなかったのだ。


「うむ。光の照らす範囲には何もおらんようじゃが、気をつけろ。奴は速い」


 俺とクルピアちゃんは杖を構え、詠唱の準備を始める。


 繁華街の真下、酔い潰れる住民達をよそに、俺達は背筋を震わせた。


 敵が繁華街をフィールドに選んだ理由として考えられる理由は、夜でも人が多いことだろうか、はたまた、あのゴチャゴチャした街並みだろうか。


 少なくとも、この二つがデメリットにならないが故に、いつでも繁華街に出ることができる水路を選んだのだろう。


「飛び散れ!【(モエーロ)】!」


 俺は「(モエーロ)」で辺りに火球をばら撒き、敵の位置を文字通り炙り出すことにした。


 すると、炎によって照らされた中に一つ、俺とクルピアちゃん以外に人の影が。


 瞬間。


「ふふふっ」


 俺の視界を、妙齢の女性が埋め尽くした。

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