第二十五話 前途多難
二週間後。
だんだんと学校にも慣れてきた、ある日。
三泊四日にわたる、野外学習の計画が発表された。
「よーし!決まったな!」
「ボク達が同じ班になったと、いうことですか」
「そうみたいだね」
そして同時に、野外学習で一緒に活動する班のメンバーが記載された紙も配布される。
配られた紙によると、俺が所属する第九班のメンバーは、俺、イロハちゃん、ベルリナちゃん、そして名家の男、バルディオ・ラルグス。
「フン。四人組と聞いて一人足りないと思ったが。誰かと思えばあの時のハーレム小僧ではないか」
「不本意ですよボクは」
「妾もじゃ」
「まあまあ」
「せっかくだしよ、仲良くやろうぜ!な!」
「「フン」」
「前途多難~」
イロハちゃんとバルディオの間に走る電撃は、しばらく収まらないことだろう。
俺とベルリナちゃんは二人でため息をつきながら、説明を担当してくれたシャルラ先生の話を聞くのだった。
それから数時間後。
しおりをカバンに入れて歩く帰り道。
俺とベルリナちゃんは、班決めに不服といった様子のイロハちゃんをなだめながら、喫茶イボルテへ向かうのであった。
「おっ、今日も学校かい?お疲れ!いつもので良いかな?」
「それでお願いします」
「あいよっ!」
マスターはそう言うと、俺たちを待っていたかのように、コーヒー二つとココアをテーブルへ持ってくる。
「やけに提供まで早いですね」
「君達がいつ来てもすぐ一杯目を出せるように、材料を準備してるのさー」
「うむ、良き心がけじゃ」
「どうせ他にお客さんが来る訳でも無いしねー」
「悲しいかな。味に文句は無いのじゃがのう」
「場所が悪いんだろうねー。あと、特に宣伝にお金を使ってないのも良くないのかなぁ」
相変わらず、客は俺達以外に見当たらない。
「アタシ、今度学校で広めといてやるよ!美味い喫茶店があるって!」
「おお、嬉しいね~。でも、それで君達が秘密の話なんかをしにくくなると困るなぁ……」
「何を言う。マスターがいる時点で本当に聞かれてはマズい話などできるか」
「うーん。そうだ!この店が繁盛したら、君達の特等席を作っておこう!今時は配信者が使う防音室なんかも普通に売ってるし、それなら」
「いやいや。わざわざ気を遣わなくても」
そこまで考えられてしまうと、逆にこちらが申し訳ない気持ちになってしまうというものだ。
まだ新しいお客さんが来ている訳でも無いのに。
「何言ってんのさ。君達には、結構恩を感じてるんだぜ?」
「そうは言ってもやりにくいですよ」
「そう?ま、何か僕にできることがあったら言ってよ。貧乏マスターのおじさんにできることは限られてるだろうけど、いつでも力になるよ」
「じゃあ、その時にまた頼らせてもらいます」
「うんうん。じゃあ、まずはおじさんからのサービス!今日こそは繁盛するハズだと思って、クッキーを作ったんだけど……」
「凄い根拠のない自信じゃのう」
「ハハハ……ま、このままだと期限が切れるまでに売り切れなさそうだから。最悪、僕が自力で食べられそうな分だけ残して、あとはあげるよ」
そう言うと、マスターは大皿に盛ったクッキーを俺達のテーブルに置く。
「いいんですか?」
「おお。気が利くのう」
「やったぜー!ありがとな、マスター!」
そして、俺達がクッキーをつまんで口へ放り込むと、舌がほのかな甘さに包まれ、サクッとした食感に心が弾んだ。
「うむ、美味いのう!」
「美味いなー!美味いぜ!これ!」
「うん、美味しい……!マスター!これ、めっちゃサクサクしてて美味いですよ!」
「おっ、そうか!良かったねぇ!これでお客さんが来てくれたらなあ……」
「来ますよ!このお店の名前を言う時、『クッキーだけは絶対に食え』って言っておきますから!」
「ああ!これの味をマスターとアタシ達しか知らねーなんざ損だぜ!」
「妾の友人にも食わせてやりたいのう」
「友人なんていたんですか」
「皆死んでしまったがのう」
「イロハちゃん?」
正体がバレるので、老人のネタはやめて頂きたい。
「それは……しんどかったな……」
ほら、ベルリナちゃんが何か勘違いして同情しちゃったし。
「すまぬ、空気が重くなってしまったのう」
「ホントですよ」
あっという間に少なくなってしまったクッキーを口へ運びながら、俺はコーヒーを飲み干す。
これからが思いやられるが、ひとまずしおりに目を通したところで、俺達はイボルテを出て、各々の部屋へ帰った。
その晩。
「……プラティエよ。少し良いか」
部屋の扉が叩かれ、前には「イロハ」の姿に変身したクルピアちゃんの姿があった。
「どうしたんですか?わざわざイロハの格好で」
「妾にだって、不安な夜はあるものじゃ」
「そう、ですか……」
そしてクルピアちゃんは、俺のベッドに座り込んで、俺の頭を撫でながら呟く。
俺達以外の人間と行動するのは、クルピアちゃんにとって重荷である……のだろうか。
そんなに悲しい顔をされては、こちらまで不安になってしまうというものだ。
俺も起き上がってベッドに座り、少し話を聞くことにした。




