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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第三章 王都の伝説と最高位魔術師

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第二十五話 前途多難

 二週間後。


 だんだんと学校にも慣れてきた、ある日。


 三泊四日にわたる、野外学習の計画が発表された。


「よーし!決まったな!」


「ボク達が同じ班になったと、いうことですか」


「そうみたいだね」


 そして同時に、野外学習で一緒に活動する班のメンバーが記載された紙も配布される。


 配られた紙によると、俺が所属する第九班のメンバーは、俺、イロハ(クルピア)ちゃん、ベルリナちゃん、そして名家の男、バルディオ・ラルグス。


「フン。四人組と聞いて一人足りないと思ったが。誰かと思えばあの時のハーレム小僧ではないか」


「不本意ですよボクは」


「妾もじゃ」


「まあまあ」


「せっかくだしよ、仲良くやろうぜ!な!」


「「フン」」


「前途多難~」


 イロハ(クルピア)ちゃんとバルディオの間に走る電撃は、しばらく収まらないことだろう。


 俺とベルリナちゃんは二人でため息をつきながら、説明を担当してくれたシャルラ先生の話を聞くのだった。


 それから数時間後。


 しおりをカバンに入れて歩く帰り道。


 俺とベルリナちゃんは、班決めに不服といった様子のイロハ(クルピア)ちゃんをなだめながら、喫茶イボルテへ向かうのであった。


「おっ、今日も学校かい?お疲れ!いつもので良いかな?」


「それでお願いします」


「あいよっ!」


 マスターはそう言うと、俺たちを待っていたかのように、コーヒー二つとココアをテーブルへ持ってくる。


「やけに提供まで早いですね」


「君達がいつ来てもすぐ一杯目を出せるように、材料を準備してるのさー」


「うむ、良き心がけじゃ」


「どうせ他にお客さんが来る訳でも無いしねー」


「悲しいかな。味に文句は無いのじゃがのう」


「場所が悪いんだろうねー。あと、特に宣伝にお金を使ってないのも良くないのかなぁ」


 相変わらず、客は俺達以外に見当たらない。


「アタシ、今度学校で広めといてやるよ!美味い喫茶店があるって!」


「おお、嬉しいね~。でも、それで君達が秘密の話なんかをしにくくなると困るなぁ……」


「何を言う。マスターがいる時点で本当に聞かれてはマズい話などできるか」


「うーん。そうだ!この店が繁盛したら、君達の特等席を作っておこう!今時は配信者が使う防音室なんかも普通に売ってるし、それなら」


「いやいや。わざわざ気を遣わなくても」


 そこまで考えられてしまうと、逆にこちらが申し訳ない気持ちになってしまうというものだ。


 まだ新しいお客さんが来ている訳でも無いのに。


「何言ってんのさ。君達には、結構恩を感じてるんだぜ?」


「そうは言ってもやりにくいですよ」


「そう?ま、何か僕にできることがあったら言ってよ。貧乏マスターのおじさんにできることは限られてるだろうけど、いつでも力になるよ」


「じゃあ、その時にまた頼らせてもらいます」


「うんうん。じゃあ、まずはおじさんからのサービス!今日こそは繁盛するハズだと思って、クッキーを作ったんだけど……」


「凄い根拠のない自信じゃのう」


「ハハハ……ま、このままだと期限が切れるまでに売り切れなさそうだから。最悪、僕が自力で食べられそうな分だけ残して、あとはあげるよ」


 そう言うと、マスターは大皿に盛ったクッキーを俺達のテーブルに置く。


「いいんですか?」


「おお。気が利くのう」


「やったぜー!ありがとな、マスター!」


 そして、俺達がクッキーをつまんで口へ放り込むと、舌がほのかな甘さに包まれ、サクッとした食感に心が弾んだ。


「うむ、美味いのう!」


「美味いなー!美味いぜ!これ!」


「うん、美味しい……!マスター!これ、めっちゃサクサクしてて美味いですよ!」


「おっ、そうか!良かったねぇ!これでお客さんが来てくれたらなあ……」


「来ますよ!このお店の名前を言う時、『クッキーだけは絶対に食え』って言っておきますから!」


「ああ!これの味をマスターとアタシ達しか知らねーなんざ損だぜ!」


「妾の友人にも食わせてやりたいのう」


「友人なんていたんですか」


「皆死んでしまったがのう」


「イロハちゃん?」


 正体がバレるので、老人のネタはやめて頂きたい。


「それは……しんどかったな……」


 ほら、ベルリナちゃんが何か勘違いして同情しちゃったし。


「すまぬ、空気が重くなってしまったのう」


「ホントですよ」


 あっという間に少なくなってしまったクッキーを口へ運びながら、俺はコーヒーを飲み干す。


 これからが思いやられるが、ひとまずしおりに目を通したところで、俺達はイボルテを出て、各々の部屋へ帰った。


 その晩。


「……プラティエよ。少し良いか」


 部屋の扉が叩かれ、前には「イロハ」の姿に変身したクルピアちゃんの姿があった。


「どうしたんですか?わざわざイロハの格好で」


「妾にだって、不安な夜はあるものじゃ」


「そう、ですか……」


 そしてクルピアちゃんは、俺のベッドに座り込んで、俺の頭を撫でながら呟く。


 俺達以外の人間と行動するのは、クルピアちゃんにとって重荷である……のだろうか。


 そんなに悲しい顔をされては、こちらまで不安になってしまうというものだ。


 俺も起き上がってベッドに座り、少し話を聞くことにした。

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