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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第三章 王都の伝説と最高位魔術師

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第二十三話 ジャベリンカジキのマンドラゴラ煮

 三日後。


 俺達は「魔法薬学」の講義を受けるため、調理室へと足を運んだ。


 魔法薬学とは、その名の通り魔法薬に関わる講義である。


 この世界において、魔力が関わる道具を、それ以外に無条件で「魔導具」と呼ぶように、魔術によって作られたもの、公的に認められる宗教の神々がもたらす(と信じられている)加護によって作られたもの、それらは全て「魔法薬」と呼ばれている。


 俺は少しだけクルピアちゃんから教わっていたが、二人はベルリナちゃんに付き合って、基礎的な魔法薬の作り方を教わるため、魔法薬学の講義へ出席していたのだった。


 そして、今回は初回。

 ということで。


「はぁ~い!この講義は私、かつて『南洋戦線の天使』と呼ばれた、『マリナ・シャルラ』がお相手するわね!今回は最初だし、まずは魔術師式のお料理から、教えようかしら!」


 優しそうなお姉さん……もといシャルラ先生による、お料理教室が始まったのであった。


「南洋戦線……聞いたことがあるのう」


「知ってるのかー?イロハ?」


「うむ。三十年前、南部でいくつかの反政府勢力による連合軍が暴れて、街をいくつも占拠する事件があった……らしい。本には、政府軍と反政府軍、合わせて一万人を越える死者を出したとか書いてあったのう」


「やべー戦争だったんだな……。じゃあ、センセーの名前も知ってんのか?」


「無論じゃ。『マリナ・シャルラ』。当時は十二歳、妾達と同じ、魔術学院に入りたての少女が、現役の魔法薬剤師をも上回る魔法薬学の知識で、政府軍の怪我人を何千人も救った。……まさに天使のような女の子だったと聞いているのう。それが今、目の前にいる」


「はえー。詳しいんだなー」


「歴史の話は、ちょっと得意での」


 クルピアちゃんの授業が終わった後、寝る前の読み聞かせ代わりに、聞いたことがある話だった。


 ……色々と濁してはいるが、やはりイロハ(クルピア)ちゃんが生きている間に起こったことだけあって、それはそれは当時を生きて、ニュースか何かで知ったといった人間の語りである。


「それじゃあ、一緒に作っていきましょうねー?」


 見た目は二十代後半でもおかしくない程に若々しいが、当時の年齢から考えると、おそらく四十歳を越えるであろう目の前の人が、かつての紛争で伝説となった、元・少女。


 ほんわかした雰囲気はともかく、その実力は折り紙付き。

 パルグレフ魔術学院の抱える人材は、俺が期待していた以上なのかもしれない。


 今回作る料理は、『ジャベリンカジキのマンドラゴラ煮』。


 通常のカジキよりも上顎が更に長く、太さも段違いな、この世界ではメジャーな魚類であるジャベリンカジキを、マンドラゴラという魔物といくつかの調味料で煮る料理である。


 まず用意されたのは、マンドラゴラ。


 雑草と間違えて葉を引っ張ると、根っこについている顔から鼓膜に甚大なダメージを与える叫び声をあげる魔物である。


 幼い子供や老人が引っこ抜いてしまった場合は死に至ることもあるマンドラゴラだが、叫ぶ際に発揮される力が滋養強壮に良いらしく、寝かせて叫ばせずに引っこ抜くことで、その効き目は格段に増すのだそうだ。


 流石に入門編、それも初回の講義で鼓膜を破かれた学生が出るのは良くないと判断されたのか、俺達の前に用意されたのは、すでに引っこ抜かれて締められてあるマンドラゴラであった。


「これがマンドラゴラかー!北部では見ない魔物だなー!」


 ベルリナちゃんはマンドラゴラを見て、感動している様子である。


「一寸の狂いも無く喉笛を突いて締められているようじゃな。プラティエ。あの教師、ただの薬学者じゃあなさそうじゃ」


 一方のイロハ(クルピア)ちゃんは、マンドラゴラの締められ方から、シャルラ先生が薬学以外にも精通している分野、或いは得意な戦法があるのではないかと考えているようであった。


「では!まず、このマンドラゴラを熱湯の中に投入して、コンソメと一緒に茹でていきましょうねー!今日は顆粒のコンソメを使うけれど、一流の料理人は一から作るんですって~」


 シャルラ先生が見せた見本の通りに、俺達もマンドラゴラとコンソメ顆粒を鍋に入れる。


「魔物を持つって新鮮だな~!わっ、跳ねた!」


「ベルリナ。食材は鍋の上から落とすんじゃあなくて、熱湯に触れてから手を離すものじゃぞ」


「そうなのか!物知りなんだなー!」


「ベルリナちゃん、あんまり料理しないの?」


「ああ!火の扱いは危ないからって、料理させてもらえなかったんだ」


「苦労してたようじゃの」


 続いて用意されたのは、本命のジャベリンカジキ。


 確かに聞いていた通り、先生のテーブルに置いてあるジャベリンカジキは、普通のカジキよりも上顎がかなり巨大化している。


 勿論、学生用に用意されたものは、既に切り身にされたものであった。


 迫力には欠けるが、流石に一回目の講義で巨大な魚を捌かせる訳にはいかなかったのだろう。


「はぁい、ちゅうも~く!皆のは私が処理した切り身ですけど、今からここで、ジャベリンカジキの解体ショーを見てもらいたいと思いま~す!瞬き厳禁ですよぉ~?」


 しかし、その迫力を補うかのように、包丁を持った先生が視線を集める。


「おおー!面白そうじゃねぇかー!」


「見本、ということか」


「凄いんだろうけど覚えられる気がしない」


 解体ショーの間、瞬き厳禁は無理がある。


 そう思ったのも束の間。


「はっ!やっ!そぉーれっ!」


 シャルラ先生の包丁から繰り出される斬撃が空を舞うと同時に、ジャベリンカジキは、一瞬にしてバラバラに解体されてしまった。


「へっ!?」


「うおーーーっ!?」


「やはり、ただ者ではないようじゃな」


「はい!……って、ちょっと難しかったかしら?後でプリントにして配ってあげるから、安心して頂戴ね~!」


 それからは、シンプルな調理で完成した。


 コンソメと一緒に茹でられたマンドラゴラが入った鍋に、ジャベリンカジキの切り身を入れ、塩胡椒に加えて「ヴァルトオリーブ」、そして「セリア」というスパイスを入れ、煮込むだけ。


 そして実際に出来上がったものは、中に魔物が入っているとは思えない、よくある洋風の、スープと煮物の間の子といった具合であった。


「それじゃあ、皆で手と手を合わせていただきます、しましょうね~!せーのっ!」


「「「「いただきまーす」」」」


 実際に食べてみると、少し苦味を感じるものの、魚の旨みとマンドラゴラの香りが押し寄せてくる、スタミナ系の料理といった味わい。


「どうかしら~。調理方法によって、魔物は毒にも薬にも、そして料理にもなるの!私は魔法薬が専門だけど、魔物料理の素晴らしさにも気付いてもらえたなら嬉しいです~!」


「うむ、美味いのう。若者が好みそうな味じゃ」


「おお!これ、結構なパワー飯じゃねぇか!アタシ、好きだぜ!」


「うん!学食に欲しい味だね!」


 あっという間に料理を食べ進めた俺達は皿を洗い、席に着く。


 そしてマンドラゴラについて詳しい解説を聞き終えたところで、講義終了の鐘が鳴った。


「はぁ~い!じゃあ、今回の講義は終わりで~す!これから毎週この時間に、よろしくお願いしまぁ~す!」


 しかし、俺は教室を後にしようとする二人とは別れ、シャルラ先生の元へ向かう。


「シャルラ先生、一つお願いがあるんですけど、良いですか?」


「はぁ~い!貴方は……プラティエ君ですね~!何でも聞いてくださ~い!」


「一戦……手合わせを、お願いできませんか」


「あらあら……私の肩書きに、興味が出ちゃったんですかぁ~?でも私、大した魔術師じゃありませんよぉ~?」


「いえ……あの包丁さばきです。俺、アレ見てから……魔術主体以外の戦い方を体感してみたいって思ったんです」


「あら……そうですかぁ~。分かりましたぁ~!手加減できるか分かりませんけど、可愛い教え子のお願いですからぁ~!次の時間は講義も入ってないですし、受けて立ちましょう~!」


 そして、俺はシャルラ先生を連れて、闘技場へ。


「じゃあ、お願いします!」


「はぁ~い!お手柔らかに~!せいっ!」


「【飛行(フワゥリ)】!」


 自分で挑んだ手前、情けないということは重々承知しているつもりだ。


 しかし、挨拶をして間もなく、右手に握っている青黒く光るナイフから飛んできた斬撃に、俺は「飛行(フワゥリ)」で避けるしか無かった。

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