第二十二話 人形使いのお気に入り
入学式翌日、二コマ目の講義。
「プラティエさァん!ちょォッと良いですかァ!」
俺、イロハちゃん、ベルリナちゃんの三人で横に並んで、必修である数学の講義を受けている最中に、教室へ入ってきて俺の名を叫ぶのは、この男。
「じゅ、授業中に何ですか、コレディッカ先生」
入学式に乱入してゴーレムを乗り回したでお馴染み、魔術師トリャーズマ・コレディッカさんである。
「何ですかじゃあないでェす!アナタ!入学式でワタクシのゴーレムを吹き飛ばしたじゃあないですかァ!」
「はあ、まあそうですけど」
「あの魔術!すンごい威力でしたァ!ワタクシ、アナタに興味が湧いて湧いて仕方ないンですよぉ!今すぐ、ワタクシの研究室に来て下さいィ!」
「ちょ、授業ちゅ」
「特例でェす!ちゃんと許可も取りまァした!昨日は大目玉を見ましたかァらねぇ!」
「そ、そうですか……」
魔術師トリャーズマの勢いたるや、乱気流が如くである。
数学の先生も、すっかり諦めたといった様子で、俺に視線を送ってきた。
「何じゃ。妾の友達を褒めてくれるのは結構。それに、許可を取っただけ殊勝じゃろう。じゃが、勝手に連れて行くのはどうかと思うそ」
口調を変える訓練の成果は、散々であった。
逆に不自然な口調で身分を暴かれる訳にもいかないため、「わよ口調」は諦めることにしたのである。
そんなイロハちゃんが助け舟を出してくれた。
「こぉれはこれはァ、イロハ・テレジアさァん!アナタにも興味が湧いていたところでェしたァ!ご一緒にどうでェすかぁ?」
しかし、魔術師トリャーズマは止まらない。
俺どころか、イロハちゃんまで連れて行こうと、更に距離を縮める。
「光栄じゃが、後にしてくれんかのう。それと、プラティエを連れていくのも、じゃ。序盤も序盤で、コイツだけ授業にいなかったせいで、必修の数学さえ修められなかったら、責任を取ってくれるつもりかのう?」
「ムムムゥ……良いでしょう!この講義は仕方あァりませェん!ですがァ!今は二コマ目、この後は昼休みですねぇ?」
「そ、そうですけど」
「昼休みに来い、とでも言うつもりかの」
「ご名答ォ!食事のついでに、談義を交わしましょぉぉう!……扉の前で待ってますヨ」
そして、魔術師トリャーズマは扉をバタンと閉めるのであった。
「……ぜーんぜん反省してねーみてーだな、あの先生」
「そうみたいじゃな」
「あの表情は……この後怖いなあ」
それから数十分後。
講義が終わると同時に、俺とイロハちゃんは窓から魔箒を用いた「飛行」で逃げようと、窓枠から足を乗り出そうとする。
しかし。
「そんなことだろうと思いまぁしたァ!逃しませんよォ!行きなさぁい!我が特性スピネラの魔術、見せてあげましょォう!【編み編み魔導人形】!」
木で組み立てられた魔導人形は俺達を体内に取り込み、逆向きに魔力防壁を張ることで、それは歩く檻の体を成した。
前門のコレディッカ先生、後門のウィッカーマンである。
そして、「ウィッカーマン」と名のついた魔導人形は何も言わずに、俺達を研究棟の三階に在る一室へと運んでいくのであった。
それから数分後、トリャーズマ研究室。
「ようこそ、と言わんばかりの料理ですね」
「昼ご飯には十分過ぎるくらいじゃな」
「うぅんン!おっしゃる通ォォォりでェす!ようゥこそ、まさによォォォこそォ!ここにある物は好きに食べてくださァい!食べながらで良いので話をしましょうぅぅぅ!」
私用で学生を拐うのはどうかと思うが、相応に俺達をもてなす気はあるようだ。
「手動魔術の使い手!実に素晴らしぃぃぃ!今のォ時代に、現代魔杖を積極的に使わない魔術師がいィたとはァ!」
「フン。確かに、そのようじゃがのう」
「えぇ、えェそうですともォ!ワタクシ達の世代でさえ、現代魔杖を用いていた人が大半でェしたからねェ!」
「そうですか……。でも、わざわざ俺達を研究室に、それも拉致まがいの事までして、何で連れてきたんですか?まさかそれだけの理由で、こんな強引な手段に出た訳じゃない、ですよね?」
「エ?」
「「え?」」
「いやぁ?それだけ、ですけどォ?今時珍しい、《《若い》》手動魔術の使い手と、魔術の話をしたかっただけでェすよぉ?」
「そんなバカな」
「それだけのために、あんな大掛かりな人形を呼び出したのか……不安になってきたわい」
「いやいやァ。これしきのこと、日常茶飯事でェすよォ」
どうなってんだ、この学校。
よく国も認可を出しているものだ。
それとも、魔術師の社会とは、そういうものなのだろうか。
恐ろしや、魔術界隈である。
「……じゃあ、しますか。魔術の話」
「仕方ないのう。このまま黙ってても、帰してはくれないじゃろうしのう」
イロハちゃんの力であれば、力づくで帰ることも出来るだろうが……穏便に済ませるためには、ここで話に付き合う他無いと、彼女も察したのだろう。
俺達は大人しく料理をつまみながら、得意な魔術やらの話をして、昼休みを終えたのであった。




