第二十一話 初講義とその後
「……参った。僕の負けだ」
「よっしゃあ俺の勝ちー」
「うむ、勝者はプラティエじゃね」
「うおー!あんなことも出来るのかー!流石だぜプラティエ!」
勝者は俺、プラティエ・ノルン。
「フン、今回は僕の負けだ。だが、いずれ君を超えてみせる」
「うん。また戦おう」
「……まずは、君の言う通り。ハーレムの皆と、一人一人通話をしてみますよ」
「それが良いよ。君を心から好きでいてくれる人……きっといるから」
「フン。悔しいですが……その言葉を、信じてみますよ」
俺はバルディオと握手を交わして、イロハちゃん、ベルリナちゃん、そしてクラスの皆と共に闘技場を後にする。
この日は、それから一コマだけ講義を受けて終わりだった。
そして、その一コマだけの講義というのは、「魔術のメカニズム」についてであった。
魔術学院らしい、初講義である。
|魔力ネットワーク専門の魔術師《魔術的プログラマー》である「ベギン・ガーラック」先生は、クルピアちゃんは「魔術とは裏技である」と言っていたが、やはりベギン先生も、「魔術とは隠しコマンドである」と言っている。
ゲーム好きのベギン先生らしいワードチョイスだが、結局はそういうことらしい。
魔術とは、魔力を用いることで干渉力をはたらかせて使う、この世界における隠れた法則。
俺やクルピアちゃんは呪文を唱えたり、特殊な魔力操作の方法を用いたりして、そしてベルリナちゃんをはじめとした多くの魔術師は、現代魔杖に装着したスピネラを経由して魔術名を唱えることで、その「隠しコマンド」を実行している。
初めてクルピアちゃんから魔術を教わった日に聞いたこと、そのままであった。
また、現代魔杖に装着できるスピネラが何故五つまでなのかという話についても、俺がかつて本を読んでいた際に、何となく頭に入れていた内容に補足が入る形で説明された。
魔術を知らない人がよく言う話だが、「一本の杖に五つまでしかスピネラを装着できないなら、杖を二本持てば良いのではないか」という発想を、通らずにはいられないだろう。
しかし、それに対する答えは、単純な話だ。
六つ以上のスピネラを装着しようとすると、人間の脳が処理落ちしてしまう関係で、杖に不具合が生じるからである。
現代魔杖は、装着しているスピネラと使用者を結びつけることで、魔術をいつでも使用できるようにスタンバイさせるという形をとり、永正時間を短縮させている。
パソコンで言うならば、使っていない魔術をスリープモードにしている、というところだろうか。
手動で魔術を使うならともかく、魔術的プログラムによって半自動化された魔術を同時に使える数は、同時に二つまでがせいぜいなのである。
例えば浮遊しながら火球を発射するであったり、「妖怪変化」しながら「氷の礫」を使うであったり。
そして、二つの魔術を同時に使いながら、他にいつでも使えるようスタンバイできる人間の限界、それがスピネラ三つ分なのである。
要するに、人間の脳が持つスペックでは、同時にスピネラを五つまでしか抱えられないということだ。
パソコンで例えるのであれば、起動しているパソコン二つと、スリープモード中のパソコン三つがコンセントの限界、というべきだろうか。
中には常に一つしか魔術を使わない縛りを設けることで、魔術的容量に空きを作り、六つ以上のスピネラを同時に装着する変わり者もいることは確かである。
しかし、それが一般的にならない理由は、やはり同時に使える魔術が一つでは不便だからだろう。
俺には無関係な事ではあるが、ベルリナちゃんはそうではない。
これを機に、俺も頭に入れておくことにしよう。
すっかり隣の席で寝息を立てているベルリナちゃんが、「フルウェポンモードだぜー!」などと言って、数本の杖にスピネラを十個も二十個も装着してきた時のことを考えて。
……それから、講義を終えた俺、クルピアちゃん、ベルリナちゃんの三人は、喫茶イボルテへ向かう。
「やあ!こないだの二人に……新しいお友達かな?」
「そんなところだな!」
「俺とは昔からの友達です。あと、先生です」
「へえ!先生かあ!尊敬できる友達がいるってのは良いねえ。ま、適当に座りなよ。今日は閑古鳥だからね、どこの席にでも座り放題!」
それで良いのか、マスター。
さて、イボルテで俺達が頼んだ飲み物は、俺がコーヒー、クルピアちゃんもコーヒー、そしてベルリナちゃんはココアであった。
この店のメニューは高くても五〇〇エン程度の値段までしかついていないため、学生の財布にも優しい。
やがて三人で「いつもの」と頼んだら、この三杯が出てくるのかと思うと、少しこれからの魔術学院生活に加えてもう一つのワクワクが生まれるというものだ。
「堂々と言い切るわのね、この店主」
「……今晩、訓練しましょうね」
「喋るの下手なんだなー」
「何であの口調で喋ろうとしたのかのう、妾には無理な話じゃったわい」
「何の影響でその喋り方しようとしたんですか」
「学せ……コホン、昔の先生じゃ」
「マジですか正気ですか思い出せるんですか」
「無理じゃった。じゃからこうなった」
「でしょうね」
最初に「学せ……」と言いかけたのは、ベルリナちゃんの前だから「学生時代」という言葉を使わないように、途中で言葉を押し込めたためだろう。
二〇〇年以上前の人と同じ喋り方をしようとすれば、それも思い出せない程の昔であれば、こうなるのも当然である。
時代も違えば記憶も混乱している、それは歪になる訳だ。
その後、俺達は窓から西陽が差し込むまで、時々飲み物を追加注文しながら喋って、解散した。
そして夜の十時も回る頃、俺はクルピアちゃんを部屋へ呼び出した。
「な、何じゃ、いきなり妾を部屋へ呼ぶなどと、破廉恥な」
「クルピアちゃん。いいえ、イロハちゃん。貴方には今晩、喋り方の訓練シーズンツーをやってもらいます」
「映画の敵キャラみたいなことを言いおって」
誰がデスゲームの主催者じゃい。
「……ま、そういうことなんで。付き合ってもらいますよ」
「仕方ないのう」
「いつまでも、あの酷い『わよ口調』で喋ってもらう訳にもいきませんし」
「それもそうじゃのう」
そして今夜。
口調の訓練に一晩中付き合わせるのは、俺の方となるのであった。




