第十九話 乱入者
「な、何だこりゃあ!?」
「実技試験の時よりデカい……!」
「魔導人形か……妾達を試すつもりじゃな。薬を買っておいてよかったわい」
いきなり現れたゴーレムを前に慌てふためく新入生達。
それは俺とベルリナちゃんも、例外では無かった。
しかし、イロハちゃんだけは落ち着いて、ポケットに忍ばせていた透明化の薬と気配遮断の薬を取り出した。
「い、イロハ!あの薬を!」
「分かっておるわ。ホレ」
そして、俺とベルリナちゃんに一セットずつそれを渡すと、彼女はあっという間にそれを飲み干し、間も無く当然のように無詠唱で箒に跨り、ゴーレムの元へ飛んでいく。
「魔箒よ……俺を乗せて、鳥のように空高くを駆けろ!【飛行】!」
続けて俺も、箒に跨ってイロハちゃんの後を追いかけた。
ゴーレムの注意が、走り回ったり杖を構えたりする他の学生に向いていたことを利用し、俺はあえて詠唱を省略しないことで、消費魔力を抑える。
消費魔力を抑えることも、魔術師として立派な立ち回りだろう。
「フワァーー!ハハハハハハ!これは歓迎の証ですよ!我が魔術で生み出した『グレーターゴーレム・トレーナー』の襲撃サプライズでーすゥ!さあ、皆さんがどう立ち回るのか!それを見定めさせて頂きましょう!」
高笑いをしながらゴーレムを駆るは、ゴーレムの上に乗っている魔術教授。
顔をよく見ると、三十年前に発行された手動魔術マニア向けの魔導書に、顔写真と記事を載せていた魔術師にそっくりであった。
当時の若々しい姿とは異なり、それから三十年の歳を重ねたに相応の姿であるが、彼は間違いなく、当時は新進気鋭のルーキーとして名を馳せていた人形魔術師、「トリャーズマ・コレディッカ」である。
彼もまた、人形を生み出す上で手動の魔術を使うことがあるため、手動魔術マニア向けの本に載っていたと、魔導書によると、そういうことらしい。
「うわぁ!」
「キャー!」
「なぁに大丈夫です、死ぬようなことはしませんよ!ただ……杖が折れたら、ごめんなさいね」
「何だよぉぉ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
次々と倒されていく新入生。
しかし彼らの杖がダメージに耐えられずに魔力防壁を破られた瞬間、彼らのバッジは眩い光を放ち、倒された新入生達を、あっという間にどこかへ瞬間移動させてしまった。
「き、消えた!?おい!消えたぞ!人が消えた!殺されたのか!?」
「いやいや。瞬間移動じゃない?」
「何でそう言い切れるんだよ!」
「いやあ、だって。ここ、ちゃんと認可を受けてる魔術学院だよ?」
魔術学院という法人の立場からも、脱落者を消失させてしまうバッジを装着させるというようなことは考えにくい。
故に彼らが「消えた」のは、戦闘不能と判定され、無理矢理この場を離脱させられたためであろう。
そして実際に、その考えは正しかった。
「うおー!頑張れー!」
不自然に空いていた二階席から、ゴーレムにやられた学生達の声が聞こえる。
「やれやれ。どうやら本当に安全は保証されている、ということね。心配させおって、よ」
こんな時でも、イロハちゃんの口調は「クルピアちゃん」のままである。
「もうやめないその口調?」
クルピアちゃんは、もう二百年以上生きているのだ。
仮に一般的な還暦の女性と同じ年齢を過ぎてから使い始めたとしても、百年は軽く超える時を、同じ喋り方と同じ一人称で使っていることになる。
それを何日、何週間で直すなど、難しいなどという話ではない。
「いーや、慣れねばならんのよ」
「もう方言みたいになってるじゃん」
「ええい、誰に何と言われようが諦めないぞよ」
「ゾヨ」
「やかましいわいっ!」
ゾヨかぁ。
そんな語尾の魚人が、俺の好きな作品のキャラクターにいたような。
「オイ二人とも!ジャレ合ってる場合じゃねーぞ!」
ベルリナちゃんが指差す先は、ゴーレムの右肩。
今にもこちらへパンチを繰り出そうとするゴーレムと、魔術師トリャーズマの姿。
「襲撃中にお喋りとはァ~。随分余裕なんですねぇぇぇぇ!」
「そりゃま、余裕じゃよ」
「は?」
マズい。
魔術師トリャーズマの挑発に乗ってしまったのか、クルピアちゃんが本気を出そうとしている。
「【燃焼する……」
ここは一旦、俺が止めなければ。
「【浮遊回転】」
「ほぎゃぁあああ」
俺はクルピアちゃんに「浮遊回転」をかけることで、杖と詠唱にブレを発生させて魔術の発動を妨害した。
「ふぅ。【屈折迷彩】」
「む……?何ですかこれは、回避?それともジャミング……」
そして、続けて光を屈折させて俺達の姿を攻撃が当たらない場所へ写し、ゴーレムの狙いを外させる。
「これ、何をするか!」
「ここで本気出したら死人が出ますよ。あと正体がバレるかもしれないです。俺が試験 でイロハちゃんの存在に気付けないくらいに手加減した意味を思い出してください」
俺をポカポカと殴りながら抗議するクルピアちゃん。
「ああ……そうじゃったな。すまぬ、若造に煽られて、頭に血がのぼってしまったわい」
「もー。そろそろ頭の血管を気遣ってくださいね?」
「何をぅ。妾まだピチピチじゃもん」
「俺と出会った時は老婆って言ってたのに」
ロリババアとは、都合良くロリとババアを行き来する女性のことではありません。
……そんなアピールをしているクルピアちゃんも可愛いが、今は時間をかけて諭している場合ではない。
「だからジャレ合ってる場合じゃねーって!上見ろ!上!」
ベルリナちゃんが俺とクルピアちゃんの肩を叩く。
「ほほーう?『ピカリィ』……分かりますよォ。応用して光学迷彩にしたのですか?随分と難しい魔術を使うんですねェ……素ン晴らしィ!これは戦い甲斐があるというものでぇぇぇすゥ!」
そうこうしている内に、魔術師トリャーズマがこちらの位置に気付いてしまったようであった。
「やるぞ、プラティエ」
「何をですか」
「感電じゃ」
「ああ、アレですね」
「行きますよォ!とっておきの一撃……バッジで……受け止め切れると良いですねェ!」
受け止め切れると良いですね、ではない。
入学早々、大怪我をさせる気か。
ダメだろ、学校法人的に。
しかし、向こうがその気になってしまったのだから仕方ない。
「あーもう!アタシが時間稼いどくからな!【戦……」
「いや、大丈夫だよ」
「まあ、見ておれ」
俺とクルピアちゃんは、タイミングを合わせて魔術を唱える。
「【水】!」
「【雷】じゃ!」
俺の「水」でゴーレムを濡らし、そこにイロハちゃんが雷を撃ち込んだ。
「おお。これはこれはァ……右腕がイカれましたかァ……。ここまで息の合った魔術を受けるのは久しぶりですねぇぇぇ……。素晴らしいぃぃぃ!手動魔術の使い手が二人も入ってきたというだけでも嬉しいのにぃ!二人とも実力者とはァァァ!今、楽しいですワタクシィィ!」
そして、魔術師トリャーズマも気が乗ってしまったのか、いつの間にか追加で呼び出していた小型のゴーレムに他の新入生達を襲わせ、自身は俺達との戦いに集中することにしたようである。
「やれやれ。他の連中は放っておく気か?魔術師らしいのう」
「良ィんです!今、貴方達という素晴らしい魔術師の卵に出会えた!それだけでも、サプライズを計画して良かったというモノでぇす!」
「あー!もうメチャクチャじゃねぇか!アタシは他のゴーレム達を相手してるからな!デカブツとセンセイは頼んだぜ!」
一方のベルリナちゃんも、他のゴーレムを狩るため、俺とクルピアちゃん対魔術師トリャーズマの戦いから退く。
魔導書で見た人と実際に戦えるのは嬉しいが、入学式はまだ始まってもいないところだ。
幸い、向こうはトレーニング用のゴーレムに乗っている。
本気で作ったゴーレムに俺一人で勝てる自信は無いが、相手が乗っているゴーレムは所詮、練習用に過ぎないのだ。
それに、隣には百人力の追放魔術師、イロハちゃんも居る。
とりあえず、今のところは手早く終わらせるべきだろう。
「必殺のアレ、やっても良いですか」
「良かろう。壁まで撃ち抜くでないぞ」
「分かりました!」
「ほほォう!必殺とは!気になりま」
「【炎よ、不死鳥の姿を以て敵を葬り去れ!【火の鳥】!」
俺は杖を回し、鳥の形をした火の塊を撃つ。
丘を吹き飛ばす程の威力を出すと、魔力をほぼ全て使ってしまう上、どこに飛び火するか分からないため、威力と大きさを少し抑えた。
しかし。
「はァ!?な、わっ、ぎゃっ!痛いッ!」
グレーターゴーレムの腰から下は丸々吹き飛んでしまい、魔術師トリャーズマは、脚を失ったゴーレムの崩壊に合わせて、そのまま落下。
「……壁は撃ち抜かなかったようじゃな」
そこには、こちらを唖然とした表情で見ている二階席の新入生と、小型のゴーレムと戦いながらも轟音に驚いたことが分かる、目を丸くした一階の新入生。
そして、両手の平を肩の高さで上に向け、呆れたといった様子のイロハちゃんと、今まさに何が起きたのか理解していないといった具合に、キョロキョロと辺りを見回す魔術トリャーズマの姿があった。




