第十八話 入学式の朝
翌々日。
俺は制服となる、いかにも魔術師らしい藍色のローブを身に纏い、玄関扉を開く。
すると、当然のように玄関前で立っていたベルリナちゃんは、俺と同じ服装で、開いた扉から俺の姿を確認するや否や、口を開いた。
「なあ!プラティエ!一緒にいた女、アイツは誰だ!?」
開口一番、飛び出した言葉はこれである。
「友達ですが何か」
クルピアちゃんの言葉を直す訓練に付き合っていた翌朝、つまりは昨日。
魔術学院の売店に朝食を買いに行った時の姿を見られてしまったらしい。
「何だよー!ビックリするじゃねぇか!」
「まあ好きだけど」
「好きなのか!?」
「好きだよ」
「好きなのかよ!何だよ!アタシというものがありながら!」
「無いよ!」
「そんなにバッサリ言わなくても良いじゃねぇか!」
「今は無いよ!少なくとも!」
「何だよぉ……じゃあ、その友達とやらに話つけてくるぜ」
「話って何を」
「別れろって!」
「まだ付き合ってないよ!」
「じゃあ付き合うなって!アタシの方が好きだって!」
「嬉しいけどヤメテ~恥ずかしいから色々と~」
置き修羅場は勘弁頂きたいものである。
「……ったく、しゃーねぇなぁ。いずれその心をアタシのものにしてやるからな、覚悟しとけ!」
「どう反応すれば良いのコレ」
嬉しいのは確かだが、「受けて立つ」と言って良いものとも思えない。
非常に嬉しくて非常に反応しにくい宣言をありがとう。
「あら、そこの童さん?わら……私よりもプラティエのことが好きとか宣っておったですわね?」
宿舎棟を出て教室棟へ向かう途中。
ここで一晩の訓練も空しく、言葉からボロが出まくっているクルピアちゃん、もといイロハちゃんが、こちらも制服姿で姿を表す。
「オマエがプラティエの友達か!アタシはオマエに決闘を申し込むぜ!」
「ほ……へぇ?随分と勇気があるのじゃ、いや、あるのね」
「宣言してやる!アタシはプラティエの心をオマエから奪ってやるぜ!」
「望むところじゃ、よ。私が貴方に負ける道理も無いけれど、勝手に挑んで爆散するが良いわ」
「何をぉぉぉぉ……!」
公衆の面前で、ご勘弁頂きたいものである。
「やれやれ、初日から言い争いですか」
そこに現れたるは、実技試験会場でショットガン祭り……もとい、拡散する魔術を披露していた、バルディオ・ラルグスという名の男子学生。
整った顔と青髪が特徴的な、クールなイケメンといった様子である。
「あっ、君は。隣の席で試験してた……バルディオ君。今日からよろしく」
「フン、男の手は取りませんよ。私はハーレムを築きたいのです」
「おいおいマジかよ」
どうしよう、すげぇバケモンが現れた。
思わず素の反応をしてしまったが、何とも気のよろしく無い奴である。
「どうですお嬢様方、喧嘩はやめて、僕と一緒に」
「「断る!」」
「なっ……!僕はラルグス家の一人息子だぞ、元貴族の、財閥の後継者に、何という態度を」
「「黙れ」」
「なっ……。……ゴホン、まあ良いですよ。後で言い寄ったって、聞いてあげないんですから」
「望むところじゃ、わよ!」
「フン!でも決闘なら受け付けてやるぜ!」
プイッとそっぽを向いて、バルディオは先に教室棟へ向かう。
「やれやれじゃ。朝から気分が悪いのう」
「そういやオマエ、名前は何て言うんだ?あと喋り方、別に気にしなくても良いぜ?」
「あ?わら、私か?私はイロハ・テレジアじゃ。口調は……もう良いな、バレておるしの」
「古風なんだなー。ま、とりあえず!これからよろしくな!」
「うむ。よろしく頼むぞ」
「さ、アタシ達もそろそろ行こうぜ!同じクラスだと良いな!」
俺とイロハちゃんは、ベルリナちゃんに手を引かれ、クラス分けが張り出されている教室等の壁面へ向かう。
「俺は一年B組だったよ。二人は?」
「アタシもだ!」
「妾もじゃ。……で、アイツも一緒じゃな」
そして俺達は、A組からH組まで八クラス在る中で、見事に同じクラスを引いたようだ。
「おやおや、先ほどの三人組ではありませんか。……せいぜい、僕のハーレム作りを邪魔しないで欲しいですねえ」
ついでに、さっきのバルディオ・ラルグスとか言うお坊ちゃんも同じクラスらしい。
「しないよ?」
「しねーよ!」
「せん……いや、しないわよ」
「おや、殊勝ですねえ。それで良いんですよ」
「「「俺/アタシ/私 の邪魔にならなければ だけど/な!/ね」」」
「前言を撤回しましょうか。いずれ、刃を交えないことを祈っていますよ。貴方達のために」
「宣戦布告かしら?血気盛んじゃのわね、今の子は」
ダメだ。
イロハちゃんの口調が著しく崩壊している。
普通にいつもの妾口調で喋るよりも不自然ではないか。
しかし、それをバルディオは華麗にスルー。
「それでは、もう入学式の会場に行ってきますよ。ラルグスの一人息子として、遅く行くなど面子に関わりますから」
そのまま講堂に向けて、スタスタと去っていった。
人には人の人生があることは理解している。
こんなことを言うべきでは無いのだろうが、しかし考えずにはいられなかった。
面子を気にする人生は、楽しいのだろうか。
バルディオの後ろ姿を横目に、イロハちゃんは、俺とベルリナちゃんの手を引いて、講堂……ではなく、売店へ向かった。
「どうしたんだよ、イロハ?朝メシでも買うのか?」
「コレを、買っておきたくての。三人分」
「何これ?栄養ドリンク?」
「バカモン。魔法薬に決まっておろうが」
魔法薬。
魔術やら加護やら、そういった広義での魔法にあたる技術を活かして作られた薬である。
「くれるのかー?」
「うむ。《《あの》》パルグレフ魔術学院の入学式じゃぞ?何も無いとは思えん」
イロハちゃんは、透明化の薬と気配遮断の薬が入った小瓶を三人分買って、売店を出た。
そして俺達は、売店から講堂へ移動。
「入学おめでとうございます!このバッジ!入学式中は忘れずに着けておいてくださいね!」
「何ですかの、コレは」
「記念品です!」
「フーン。そう。折角じゃわから、着けてあげようじゃない」
そこで職員と思しき女性に渡されたバッジを服に装着し、不自然なまでに誰も座っていない二階と三階の席へ続く階段を横目に、用意されていた席に座った。
すると、イロハちゃんの読みが当たったのか。
入学式の、そして長い魔術学生生活の始まりを告げるブザーが鳴ろうとした時。
「ピキュキュ、キューン……」
突如、魔術教授達に操られた巨大なゴーレムが、ステージの奥から壁を破って現れたのだった。




