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幻聴迷路  作者: 小田隆治
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12 テスト

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 ツトム「こちらツトムです。鮎川さん、聴こえますか?」

 鮎川「はい、聴こえます」

 ツトム「声が小さいですね。どうかなさったんですか?」

 鮎川「もしもし、いまリビングルームなので、これから自分の部屋に移動します。少し待ってください」

 ツトム「了解しました」

 鮎川「はい、到着しました。鮎川です」

 ツトム「今日はお約束通り、稽古場にいます。部員たちも一緒です」

 鮎川「しっかり聴こえています。みなさん、よろしくお願いします。鮎川一季です」

 ツトム「鮎川一季さんです。みなさんによろしくお願いしますって言ってます」

 全員「よろしくお願いします」

 鮎川「みなさんの声、よく聴こえていますよ。やっぱり役者さんたちだから声が大きくて通りますね」

 ツトム「鮎川さんにみんなの声がしっかりと聞こえているらしいよ。役者の声はよく通るって褒めているよ」

 全員「ありがとうございます」

 ツトム「まず、我々の自己紹介をしますね。レディーファーストで吹雪から」

佐々木「演劇部の紅一点、緋牡丹吹雪こと佐々木良子です」

 吉田「短足野健こと吉田健です」 

 森山「森野おそ松こと森山正勝です」

 真田「真平御免こと真田五郎です」

 八神「屋根裏太平こと八神信二です」

 鮎川「みなさん、面白い芸名ですね」

 ツトム「鮎川さんが、みんな面白い芸名だって言ってるよ」

 佐々木「私、緋牡丹ですけど、私の声が聞こえていますか?」

 鮎川「はい、聴こえていますよ」

 ツトム「聴こえているって」

 佐々木「それでは私が何を今考えているか教えてもらえますか」

 鮎川「ぼくは超能力者じゃないから、読心術はできないな。声に出してしゃべってもらわないとわからないんだ」

 ツトム「鮎川さんは超能力者じゃないから、読心術はできないって。声に出してもらわないとわからないって」

 佐々木「それじゃあ、小さな声でも聞こえますか」

 鮎川「ちょっと、話してみてよ」

 佐々木「このくらいではどうですか」

 鮎川「ちょっと小さすぎて聞こえません。普通に喋ってもらえるかな」

 ツトム「聞こえないから、普通の大きさで話してって言ってるよ」

 佐々木「じゃあ、ツトム君が聞こえないようにヘッドホンをかけて、それから話します」

 ツトム「ヘッドフォンを用意してきたの」

 佐々木「じゃあ、ヘッドフォンをつけて。この声聞こえる。「わー」「へぼ役者」「金返せ」聴こえてないようね。では、今から言う言葉を聞いて、その後で私の喋った言葉をツトム君に教えてください。では、行きます。「私が生まれたのは北海道の平取町です」。もう一度言いますね。「私が生まれたのは北海道の平取町です」。よし、ヘッドフォンを取っていいわよ。聴こえてないか。おそ松君、取ってあげてよ。ツトム君、私の声は聞こえた」

 ツトム「聞こえてないよ」

 佐々木「じゃあ、鮎川さん、ツトム君に教えてあげて。終わったら、ツトム君、私がいた言葉を話してくれる」

 ツトム「私が生まれたのは北海道の平取町です」

 佐々木「凄い、当たってる。だけど、聴こえてたかもしれないから、今度はヘッドフォンから音楽流すね」

 ツトム「ちょっとこれ音大きすぎて、頭が痛くなるよ。もう少し音量を下げてくれないかな」

 佐々木「少しの辛抱よ。では、鮎川さん行きます。「鮎川さん、あなたは生きていますか。それとも死んでいますか」。もう一度言いますね。「鮎川さん、あなたは生きていますか。それとも死んでいますか」。じゃあ、ヘッドフォンを外して、ツトム君答えて」

 ツトム「鮎川さん、あなたは生きていますか。それとも死んでいますか」

 佐々木「凄い。ツトム君、どんな手品を身に着けたの。これは凄いんじゃない。誰かこの中に協力者がいるんだ」

 ツトム「手品じゃないよ。鮎川さんが聴いているんだって」

 佐々木「何かこれ面白いんじゃない。それじゃあ、その鮎川さんは生きているの、死んでいるの?」

 鮎川「私は生きています」

 ツトム「鮎川さんが、私は生きています、って言っているよ」

 八神「ふーちゃん、ツトムを試すようなことはやめようよ。鮎川さんはどこかにいるんだよ。それが信じられないようだったら、芝居なんかできないよ」

 佐々木「まじには信じられないでしょう」

 八神「信じたことにして話を進めようよ。ツトムは今日のために3日徹夜して、ふらふらしているよ。ここで問い詰めちゃあいけないんじゃないの」

 佐々木「じゃあ、ツトム君に一つだけ質問させて。そもそもヘッドフォンをしていたら鮎川さんの声は聞こえないの。それとも聴こえるの?」

 ツトム「そう言われれば、ヘッドフォンをしたら鮎川さんの声は聞こえないんだ。鮎川さんの声は空気の振動として耳に入ってきているわけではないのだから、脳に直接入って聴こえてもいいように思えるよね。テレパシーだったらヘッドフォンをしていても聴けるはずだよね」

 真田「ツトムがなにか難しいことを言い出したよ。寝不足でやばいんじゃない」

 ツトム「鮎川さんも、ヘッドフォンをかけると、ぼくの声が聞こえないんですかね」

 鮎川「今度、それを試してみようよ」

 ツトム「面白そうですね」

真田「独り言を言い出したよ」

 ツトム「ごめん、ごめん。鮎川さんと話をしていたんだ。鮎川さんもヘッドフォンをかけたらぼくの声が聞こえないのかどうか、それを次回に試すことにしたんだ」

 森山「ツトムさん、ちょっと疲れてんじゃないですか?」

 ツトム「大丈夫。まだ、大丈夫だから。朦朧としていないと鮎川さんと話をすることができないんだ」

 吉田「おれら、もう十分だよ。今日はこれくらいにしておいた方がいいんじゃない」

 八神「ツトム、何かに憑りつかれているんじゃないのか? ほら、青森の恐山のイタコさん。何かの怨霊に憑りつかれているんじゃない。お祓いをした方がいいんじゃないの?」

 真田「それは怪談物の見すぎでしょう。でも、目にクマができているし。今日はぐっすり寝た方がいいんじゃないかな」

 鮎川「私もそう思いますよ。時々、意識がなくなっているでしょう。声が途切れ途切れになってきましたから。もう、アパートに帰って寝た方がいいですよ」

 ツトム「そうですか。せっかく鮎川さんをみんなに紹介したのに、みんなに信じてもらえなくてすみません」

 鮎川「いえ、そんなことはありません。こんなことを信じろという方が無理ですよ」

 ツトム「ああ、眠いです。寝ます」

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