聖王の国づくり
三日後、シンシアとユリスを含む多くのものをルーセント大聖国の城へ呼び寄せた。
移動はノーチェに瞬間移動させた。百人以上の者を呼び寄せたので、三日もかかったのだ。
最初はシンシアとユリスだ。二人に経緯を説明し、重要な点を確認することにした。
「少し早いが・・・二人には僕の妻、つまり王妃になって欲しいと思っている。まあ、成人するまで形だけの王妃だけど・・・どうかな?」
「まあ、ノアは聖王になったんだから、形だけでも王妃が必要よね」
「早いような気もするけど、問題ないわ。学園も卒業したしね。でも、多くの貴族や兵を失ったことになるけど、どうするの?」
ユリスの言う通り、無人島に多くの者を追い出したので、この国は人材不足なのだ。
「良かった。二人に嫌と言われたらどうしようと思っていたんだ。それと人材は元ダイヤ連合、元スペード皇国、元テラ・サーンクタ聖国、そしてルーセント王国から優秀な人材を集めるよ。後継者になれなかった者は多いはずだし、民にも優秀な人材はいるはずだ。それに男女関係なく集める予定だから、問題ないだろう」
「なるほど。じゃあ、アーク子爵の娘だったルルも貴族として呼び寄せるのね」
結局、女性を貴族にする案は男性貴族達に反対され、アーク子爵家はルルの父の弟である叔父が党首になることが決まったのだ。まあ、ルルが学生だったということも理由の一つにある。
「勿論。若いが我が国の子爵に任命する予定だ。ただ、領地運営は難しいだろうから、この城で女性や子供のための仕事に従事してもらうけどね。二人にはルルのフォローを頼むよ」
「「勿論」」
二人が同意してくれたところで、謁見の間に多くの人材を呼び出し、任命式を行なった。
「最初にノエル。僕と約束したことを覚えているか?」
「ハッ!陛下より頂いた書物の勉学。そして各専門分野に長けた人材を多く集めることです。ですが、人材は十名ほどしか集められませんでした。申し訳ありません」
流石、俺が認めた男だ。人材の方は時間がなかったから無理もないか。
「そうか。これよりノエルを宰相に任命する。名前は・・・ノエル・ラウド・ウィズダムと名乗ってくれ。それとこの二つを下賜する」
「私がいきなり宰相ですか・・・ふふふ。やはり、陛下は規格外の方だ。喜んで拝命致します。頂いたのは指輪と・・・これは何ですか?」
「それは通信魔道具だ。使い方はノーチェに聞いてくれ。それともう一つの指輪だが、魔力を流すことで、宰相の紋章が浮き出るようにしてある。まあ、短剣よりも持ち運びやすいと思っている」
「なるほど・・・面白いことを考えますね」
宝石を飾った短剣もいいが、指輪ならいつも身に付けていられるので便利だと思っている。
魔法の世界ならではの魔道具を考えたのだ。
「それとノエル宰相の配下達である各専門家達は男爵に任命する。各専門家達に頼みたいこともあるしな」
「頼みですか?」
ノエル宰相に頼んだのは、今の聖都を二倍に広げること。更にその十倍の敷地に各専門家で研究施設を作ることを要請した。
領地は壁で囲い、牧場、農業、漁業、医療と薬草の研究、冒険のための魔物の狩場などを作るように指示してある。
十倍に広げた領地で牧場、農業、漁業で飼育や栽培、肥料の研究、病の研究、品種改良の研究をする予定だ。
目的は安定した食料を安く供給、より美味いものを品種改良することだ。
その当りは商業ギルド、冒険者ギルドにも相談するように頼んだ。
それにまだまだ遅れている医療をポーション研究、ポーションでは治らない手術、つまり内科と外科を研究して欲しいのだ。
医療を研究するのは、この世界の人族はあまりにも寿命が短いからだ。
寿命が長い人で六十歳、平均四十歳。困ったことに子供や若い者が、金銭的な理由で病気を治すことができず、早死にするケースが多い。何とか、平均七十~八十歳になって欲しいと思っている。
まあ、ユリスの作るポーションを使えば、病気は治るだろうが、ユリスのような実力者は滅多にいない。だからこそ、自分達の力で開発して欲しいのだ。
次に各専門機関から優秀な人材を探し、監査部門を作るなど、ルーセント王国で取り組んだ多く事業を要請した。他にも魔道蒸気機関車の開発や耐震性の高い住宅、街灯など、やって欲しいことは多くある。
二倍に広げた領地には民家や公園、民のための設備を作ろうと考えている。
「陛下、それはとても素晴らしい壮大な計画・・・ではありますが、多くの人材、設備や建物が必要となります。つまり、莫大な費用が発生すると言うことです。概算ですが・・・少なくとも金貨四千万枚は必要だと考えます。しかも、漁業は一体どうするのですか?漁業を除いたとしても何年かかることやら・・・」
「ああ、わかっている。金は心配無用だ。それに壁は僕の知り合いに頼むから、すぐに完成するはずだ。漁業は近くにあるトリンシオ湖があるから、問題はないだろう。本当は海の生き物も考えていたのだが・・・やめた。暫くは父上に頼むよ。輸送は冷凍庫付きの馬車があれば鮮度も問題ないだろう。ただ、この国にもある小さな漁業を大々的に拡大して欲しい。まあ、他にも色々考えているがあるが・・・そうは言っても金は心配だろう。だがら、金貨五千万枚をノエル宰相に預ける。金の心配をせず、好きなように計画を勧めてくれ」
金なら金貨五千万枚の数百倍はあるし、壁は魔法で作れば問題ない。
「人材は近くの村人に移住することを提案してくれないか。高い壁に囲われた広大な領地に移り住めば、魔物に襲われる心配もない。給与制にしてもいいしな。安定した暮らしができるはずだ」
「き、金貨五千万枚を私に・・・ふぅ~、まったく陛下は規格外過ぎますよ。呆れてものが言えません。できすが・・・だからこそ、やりがいがあるというものです。まだまだ、お聞きしたいことはありますが、承知しました。必ずや、陛下の御期待に答えて見せます」
「これからは僕の右腕として頑張ってくれよ。期待しているからな。ただ、この計画を実行するにはノエル宰相一人では難しいだろう。もっと多くの優秀な部下が必要になるぞ」
「わかっております。ふぅ~、宰相になった途端、やることが山積みだ。でも、きっとやり遂げてみせます」
ノエル宰相との話が終わるとノーチェに話しかけた。
「貴族でもない私の弟をいきなり宰相へ任命しても宜しいのですか?」
「ああ、問題ない。ルーチェを呼び出したのはルーセント大聖国の治安を調べて欲しいからだ。それと」
国土が大きくなりすぎたため、ノーチェには優秀な人材を増やすように頼んでいる。
増やせとは言ったが、特殊部隊なのですぐに人材を探すのは難しいだろう。
「問題は隣国プルート王国だ。あの国はエルフ、ドワーフ、獣人の国も支配下においている。また、元テラ・サーンクタ聖国と同等の国力を持つ国でもある。そんな国が、ルーセント王国に奪われた・・・となればプルート王国は攻め込む絶好の好機だと思うはずだ。だが、同時に何故、テラ・サーンクタ聖国が負けたのか、理由を徹底的に調べにくるだろう。ルーチェにはプルート王国の動きを調べて欲しいのだ」
「承知しました」
ノエル宰相が俺の右腕なら、ノーチェは影の右腕と言ったところかな。
次に騎士団長のグラント、魔法師団の団長ライアン、聖騎士団の団長シーヴァ、副団長のリエーレを含む聖騎士団全員だ。
「グラント、ライアン、シーヴァ。三名には伯爵の爵位を授ける。グラントは元ダイヤ連合の王都を、ライアンは元スペード皇国の皇都を、シーヴァはルーセント大聖国のノラヴィス大都市を任せる。元ダイヤ連合の王都と元スペード皇国の皇都にあった城は僕が没収したのでこの金貨一万枚で新しい屋敷を建ててくれ。頼むぞ」
「「「私達が伯爵・・・宜しいのですか?」」」
「嫌なら他の者に任命するが、どうする?確かに大変な仕事ではあるが・・・やりがいはあると思うぞ」
「「「!?・・・ハッ!謹んで拝命致します」」」
「困ったことがあれば、遠慮せずに頼れ。必ず、力になる。それと自分達の部下を何名か連れて行くといい。頼んだぞ」
「「「ありがとうございます」」」
国を纏めろとは言わない。せめて、街だけでもちゃんと管理して欲しいと願っている。
「これより、お前達の領土は都市とする。お前達の名を変え・・・グラント・パラディース・キャラベル、ライアン・パライソ・キンドル、シーヴァ・エデン・ノラヴィスと名乗り、分家するといい」
「「「ハッ!承知しました」」」
王族や貴族、一部の者以外は姓を持っていないが、グラント、ライアン、シーヴァは貴族の息子であった。
領主の後を告げない三人には分家させ、俺が勝手に名付けたのだ。
つまり、グラントは都市キャラベル、ライアンは都市キンドル、シーヴァは都市ノラヴィスを治めると言うことだ。
グラントとライアンへ爵位を与える件は父ルゼルに承諾してもらったので問題ない。
「リエーレ。お前はリエーレ・レイブ・ハザックと名乗り、聖騎士と軍を纏める大将軍に任命する。大将軍は伯爵と同等の爵位とするので頼むぞ。大将軍は宰相と同様、僕の片腕だ。大将軍となったリエーレには軍をまとめる以外に戦術、特に陣形や武器開発を考えてくれ。いかに兵を失わず、短期に勝利するかがお前の下命だ。戦術は重要機密扱いにしてくれよ。ドナーは副将軍に任命し、子爵と同等の爵位を授ける。リエーレ大将軍を補佐してくれ。名は・・・ドナー・メイジ・セイクリッドと名乗るがよい」
「「ハッ!拝命致します」」
次は聖騎士団のランツ、シルト、クリー、アルク、ルークの五人だ。
「これより、聖騎士団を第一から第五聖騎士団に分ける。ランツ、シルト、クリー、アルク、ルークはそれぞれの聖騎士団を任せ、騎士爵に任命する。まだまだ、人材も少ないだろうから、募集してくれ。人種や老若男女を問わないつもりだが、最終選考だけは僕にも面接させてくれ」
「「「「「拝命致します」」」」」」
その後もルルや貴族の子弟子女に爵位を与え、領地運営を任せた。
実はその中に父ルゼルの息子で、俺の腹違いの兄弟でもあるジョセフ、ディオン、ヒース、そして父ルゼルの側妃にもなれなかった女性達の子息、子女も呼び寄せ、希望する者には爵位と領地を与えた。
本人達も複雑な思いはあるだろうが、これには二つの狙いがある。
一つはどういう理由かは知らないが、城にも住めなかった俺の兄弟達に申し訳ない気持ちがあったから。そして義理母である元王妃のシエルとナタリアのせいで領地すら持てなかったジョセフ、ディオン、ヒースにチャンスを与えたかったのだ。俺を殺そうとしたフィンには断られたが、父ルゼルは気にしていたのか、大いに感謝された。
そしてもう一つが、将来、俺に息子が四人以上できた場合、ルーセント王国、元ダイヤ連合、元スペード皇国を任せるつもりでいる。これは父ルゼルも承認していることだ。
ルーセント大聖国はあまりにも領地が広すぎて、王一人で治安を安定させるの難しいと考えているからだ。
他にもメイドのアンバーをメイド長に、執事のハワードは執事長に任命した。メイドのエミリーとアーシャは引き続き、俺の専属メイドに任命している。
最後に残ったブレッドと少年探偵団であるパール、サーファ、マリン、サンス、ニクス、カルー、リアンの番だ。
「ブレッドは騎士団を辞め、パール、サーファ、マリン、サンス、ニクス、カルー、リアンと共に勉学に励んで欲しい。当然、少年探偵団も解散だ」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「そ・・・そんな!何故、僕は騎士団を辞めなければいけないのですか?」
「話は最後まで聞いてくれ。領土を持つにしても騎士団を続けるにしても、今は勉学に励んで欲しい。八人は城で僕の師でもあった教師ブルーノ、魔法の師クリス、武術の師ハロルドに教わるとよい。それとブレッドには直接僕が鍛えてやる。ブレッドは・・・ブレッド・フォン・テルヌーラと名乗り、爵位は男爵とする。これからの仕事は勉学だ。一緒に生活し、子供達と子供達の面倒を見ていた奴隷も聖都に呼ぶことにする。奴隷だった女性はメイドとして雇い、奴隷から解放してやり、お前達の専属メイドにする。引越しは執事のハワードとノーチェに頼むと良い」
「申し訳ありませんでした。喜んで拝命致します」
「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」
誰もが認める実力者のブレッドには第一から、第五聖騎士団をまとめる総団長、そして領主になって欲しいのだが、今のブレッドには勉学が必要だ。まあ、ブレッドも貴族にしたことで俺の意図を察しているだろう。
その後、貴族となった多くの者へ爵位の指輪と通信魔道具を配った。
聖都や他の街から借金で売られた子供の奴隷を奴隷商から、大勢購入した。
他にも貴族の酷い扱いをされていた奴隷も没収し、城で働かせることにした。
奴隷達には真面目に三年働けば、奴隷から開放してやると約束してある。
まあ、子供達は勉学が仕事だが。
まだまだ、従者や貴族を任命する必要があるため、暫くは忙しくなりそうだ。
◇
それから、五年の歳月をかけ、一大事業を達成させた。
この五年間は目が回るほどの忙しさで、結婚式、聖都の領地拡大、学校や保育所の建設、法改正など多くのことに取り組んだ。かなり頑張ったので、大きな成果を成し遂げたと思っている。
実は新聖王の俺を多くの国民から反発されるのではと思っていたのだが、意外とすぐに受け入れられた。どうやら、前聖王であるアーサーが領土拡大の戦続きで無理な税を国民から徴収していたせいのようだ。
俺が税を10分の1に引き下げたことで、あっと今にルーセント大聖国は民から受け入れられた。
税をもっと下げる予定ではいたのだが、今は民のための環境整備で金が必要だ。俺が金をだしてもいいのだが、元王子であった俺が大金を持っているのは可笑しいのでやめた。
聖都全土を運送や旅客を船で運ぶことができる運河も作った。
水の街ヴェネツィアほどではないが、色々選択肢があった方がいいだろうと考えたのだ。
交通も長距離は銀貨一枚未満の代金で魔道蒸気機関車が利用でき、魔道飛行船は金貨一枚、短距離はバスの代金で馬車を利用できるようにした。
船、魔道蒸気機関車、魔道飛行船、馬車は安定した価格にするため、聖王である俺が管理運営している。
他にも運河とトリンシオ湖の水を常に綺麗にするため、湖上の街グースへ瞬間移動し、キングスライム、バブルスライム、ヘドロスライム数十匹を獣魔にし、運河とトリンシオ湖の管理を任せた。
キングスライムは水量が少なくなると水を作り出し、増えれば水を吸収してくれる。バブルスライムは水中でブクブクと発生させた泡で小魚などの生き物が利用できる。ヘドロスライムは泥を取り込み、水を綺麗にしてくれるので、水質が改善される。やっぱり。水は綺麗な方がいいからね。
聖都の道路整備をどうしかと考えていたのだが、元アーサー聖王が聖都をパレードするために主な道路の道幅を広げ、綺麗な石畳に整備していてくれたので、その点だけは元アーサー聖王に感謝している。
ただ、そのために強引に家や店の立ち退きを命じたようで、民には迷惑だっただろうな。
あまり急速な文明の発展はしたくないのだが、トイレの普及と下水の整備、下水を利用した肥料を作る設備、井戸水を汲み上げる手動ポンプだけは頑張って取り組んだ。流石に臭い匂いだけは我慢できなかったのだ。
他には貴族専用の自動回収箱を作った。
不便なことに毎月、遠く離れた貴族の屋敷から税を徴収する運脚なる組織があったのだが、効率が悪い上に賊に襲われるケースもあり、危険でもあったので、貴族の屋敷に自動回収箱を作ったのだ。
自動回収箱は簡単な構造で、ただの転送魔道具になっているだけだ。
当然、税の詳細が書かれた資料も送るように指示している。
領主は爵位と税の額で給与を決めているが、不正がないように監査員を送り込み、厳しくチェックさせている。
まあ、それでも不正を働く者がいるだろうから、蜘蛛型オートマタにでも監視させ、定期的に監査員と領主に城へ報告させるように指示している。
貴族は民から回収する税金は厳しく管理するくせに自分達には甘いので、仕方なくこのような対策を実施しているのだ。
父ルゼルと母ルナ、セリカ姉様、ソーラス帝王の四人限定でゲートの扉を設置し、ルーセント王国、クローバ帝国、ルーセント大聖国の城を行き来できるようにしている・・・のだが、母ルナとセリカ姉様が、しょっちゅう聖都の城にやってくるで参っている。
母ルナは若くして聖王となった俺が心配なのか、頻繁に顔を見に来る。セリカ姉様は俺が作る菓子が目当てなのか、菓子を受け取るとすぐに帰ってしまう。
父ルゼルは聖都に来ない代わりに魔道通信で政策について頻繁に相談されるのにも困っている。クレゾール宰相、何とかしてくれ~。
シンシア王妃、ユリス王妃だが、民の間では前代未聞の二人王妃が誕生したと有名になった。
まあ、民も女性を差別しない聖王と認識してくれただろう。
シンシア王妃は城や各地で壁画を描き、絵画も多く販売しているせいか、芸術のシンシア王妃と呼ばれている。そしてユリス王妃は民間治療院を建て、不治の病と言われた病気のポーション開発、欠損の部位の再生など多くの民を救ったことで聖女のユリス王妃と呼ばれるようになった。
二人とも俺に負けないほどの有名人になっている。まあ、俺も各地を回り、苦しんでいる人々を救ってきたので、民からは救世主のように崇められているけどね。




