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4 ( 支店長の話 )




口トの血を引く支店長の話



(フリマの店主の後輩の話によると認識迷彩はファッションブランドであるカタリナハムネットの試作品であり、それをつくったのはカタリナハムネットのロンダルギア支店の支店長だという。そういうわけでつくった本人に直に話をきいた。ただしその本人は故人なので霊媒師に依頼し憑依されてもらい、話をきいた。)



我を永き眠りよりさますのは誰だ?

とこしえのしとねより一時とはいえおまえは我を連れ出した。如何なる用によりて我を起こした?

下らぬ些末な理由であるならばただではかない。もしもそうであるならばお前に呪いをかけてやろう。

その呪いにかかれば、お前が娘を持ちその娘が17歳の誕生日を迎えたその日に娘は紡績機ぼうぜききの針を指に刺され、お前の娘は死ぬことは無いが目覚めることも無い眠りにつくのだ。

……、なに、認識迷彩の原初だと?

たしかにそれならば我以外に知るものは無い。それを知る為にお前は我を呼び出したとすると、おまえは正しい選択をしたのだ。誇るがいい。

しかし何の代償もなしに我の応えを得られると考えているのならば誤りというものだ。当然なんらかの供物の用意はあるのだろうな?

我が肉体は既にこの世に無いが、我が憑依しているこの霊媒師の体は憑依している間は我の肉体なのだ。味わうこともできる。

何の用意も無いというのならばお前の体を食らう。


……ほう、よっちゃんイカ1ダースか。

上出来だ、何の不足もない。

いいだろう、認識迷彩のことを語ろう。

だがそのまえにお前がどれだけ認識迷彩に明るいかを示してもらおう。既知を語るなら我もお前も面白くあるまい。





………。なるほどな、認識迷彩の基礎は把握していると見える。知りたいのは認識迷彩の原初、プ口トタイプ、つまり認識迷彩の羽衣のことか。

さて、認識迷彩の羽衣について話す前に、プ口トタイプとはなんのことかわかるか?

プ口トタイプとは量産する以前の試作品。試作品ゆえ完成した量産品よりも機能が劣ると想像するものがいるようだが、それは間違っている。

試作品は機能性を求めてつくられる。

それが故に量産を無視した材質や技法を用いていることができる。ゆえに試作品は量産品に対して性能に於いて、勝る。

なぜならば量産品とは、試作品を量産可能な形でコストや見栄え、安定性などに於いてそぎ落としたものだからだ。

量産された認識迷彩は磁気力を基礎につくられている。なぜならば磁気力は安定しているからだ。

磁気力に意志はなく、経年に依って効果が弱まることはあっても反逆することは無い。

量産された認識迷彩に用いられる磁気力は思考流体を用い、意思を伝達させることができる。

思考流体が意思を伝達させることが出来るといっても、あれとて意志を持っているわけではない。あれはただの媒体だ。ゆえに反逆の危険性は無く、扱いに於いて安定しているといってもいい。

しかしそのように安定しているとあっては実験にあたって困難を伴う。安定しているということは定式があるということであり、定式に従ったものは既につくられたことのあるものの模倣に陥りやすい。

だが我はカタリナハムネットの新地平を切り拓く為に新たな技術の開発に手を染めた。先人の軌跡をなぞるだけでは新地平の開拓など不可能だからだ。

求めるものが未知である場合、何を使うかはそれほど意味をなさない。何を使うかよりも、何をしようとするかという発想が重きを成す。

しかし無から何かを発想することは簡単ではない。

だから何らかの媒体を用いて発想のもととする。


この考え方は特に珍しいものではない

だが何を媒体として発想を生み出すかは人によって異なる。

パターン解析に依って発想を得る物もいるだろう。

複数の意識を混ぜ合わせることにより発想を生み出す物もいるだろう。

だが我はそれらを用いなかった。

それらよりも優れた媒体と日頃より親しんでいたからだ。媒体というより現象だが。

それは、誤作動、だ。


どの機関にも共通であろうが、通常は実際の作業を始める前に研究開発を行う。

開発に用いる理論が適切かどうか、あるいは理論が存在しないのならば必要とする理論を構築する、その作業を研究開発と呼ぶ。

詳しい説明は省くが、研究開発には失敗が当たり前のように起こる。

多くの研究者はそれらの失敗を見て忌々しげに舌打ちし、失敗を回避する手を探ろうとする。

だがそやつらとは違い我はそれらの失敗を見て、いつもではないが興味を引かれることが少なからずあった。

なぜなら、それらの失敗とは予測された結果とは異なる動きだったからだ。

それが誤作動だ。

誤作動には興味深いものが多く、あらざるべき結果として否定するのではなく研究すべき対象として観察することで多くのものが得られる、と我は考える。

そしてそれらは予測されたものではなく、もともとの発想から外れたものだ。つまり、新たな発想か、そうではなくとも新たな発想のヒントとなる。

ゆえに我は、誤作動に発想の萌芽を求めた。

それによって正しいという判断のみをもとめていただけでは得られない、思いもよらなかったことが得られると考えた。

もちろん新地平が開かれたとしても安定していないのであれば意味が無い。

カタリナハムネットの商品として売り出すのであれば誤作動は起きてはならないのだ。

安定していないものは不良品と近い。不良品を売ることはできない。

誤作動は発想を生み出す為に必要なのだ。発想さえ手に入ればあとは誤作動にこだわる必要は無い。

寧ろ、発想を得た後は誤作動の起きにくいものを用いるのが正しい。どうせ何を使おうとも同じなのだ。

だから量産型は安定したエネルギーがいい。我が用いた安定したエネルギーとは数式のコントロールが可能で広い汎用性を持つエネルギー。

それは既に述べた。

つまり、磁気力、だ。


だがプ口トタイプはそうではない。売れるのならば売るが、売ることは意識しなくても構わない。

そのようにして我は誤作動に着目した。

まず、誤作動を起こすには、どうすればよいか。

意図的に誤作動を起こしたのだと知ればそれは誤作動ではなく単なる予測通りの結果だ。

我の求めたものはそんなものではない。予測を外れたものを求めたのだ。

ならば予測を越え異様な誤作動が起こりやすくするにはどのような条件を揃えればよいか。

その解にはすぐに思い当たった。

扱いが難しくあまり多くが解明されていないエネルギーを用いれる技術を使えば予測は嫌でも外れる。

広く知られているもののうちであまり深く研究されていない技術で、専門家であっても誤作動が他の技術以上に頻繁に起こる技術、そんなものはあまり多くない。

我が選んだのはそういった技術の一つ。

すなわち、霊媒術。オカルトをエネルギーとして用いる技術だ。


さっそく我はその為に霊媒師の資格所有者を雇った。

霊媒師は霊魂をつかさどる術師だ。

低級の霊媒師は解呪、つまり取り憑いた霊魂の剥離はくりしかできないが、上級ともなると霊魂の剥離や憑依、霊魂同士の合成や霊魂による護身などができる。

本来ならば我が霊媒師の資格を取得するべきだが、我はオカルトの術は得手ではない。

呪いをかけることはできるが、それには呪いの杖を用いなければできない。

それはやり方とコツさえ知っていれば誰でもできること。

不愉快なことに我は初級回復呪文ホィミすら使えない。

我が盟友にサマルドリアの王子という者がいるが、その者がホィミを得意としていた。

だがそれはいいだろう。認識迷彩とは関係がない。


まず我が雇ったその霊媒師は霊媒術を用い、ある繊維に霊魂を呼び出し織り込んだ。

するといきなり予想外の結果が生じた。

目の前の繊維が形を変え始めたのだ。それも一つの形にとどまることは無く、かといって流動的なものともいえない形に。

それを見て我は、認識に変調を与える、という着想を得た。


考えてみれば当然だ。衣服とは元は防寒具、安定してさえいれば形に意味は無い。

いま売られ出回っている衣服から機能性をぎ取れば虚飾が残る。虚飾とは即ち、まやかしだ。

そのまやかしに価値を与えた概念がファッションなのだ。

だがファッションとは見た目だけではなく、着心地や匂い、衣擦れの音など感覚に働きかけるものだ。

もともとがまやかしのものによって感覚に変調を与える。

それならば衣服の方をどうにかするのではなく認識の方に迷彩をかけても同じ効果か、或いはそれ以上のものが得られるのではないか、そう考えたのだ。

誤作動を求めてさまようことも無くこうも結果が得られるとは、第一級の霊媒師を雇っただけのことはある、と思った。

その霊媒師は我がいま憑依している肉体の本来の持ち主だという事実はまことに数奇すうき

霊媒術を用いて霊魂を定着させた繊維は羽衣の形に織り込んだ。

なぜ羽衣の形にしたかというと羽衣には神秘的なエネルギーを込めやすいからだ。

その証拠に、一定しなかった繊維の形態は定形のものとして安定した。

そのようにしてできたのがカタリナハムネット製認識迷彩のプ口トタイプ、認識迷彩の羽衣だ。


そのプ口トタイプをもとに他の認識迷彩の一連の衣服がつくられた。

認識迷彩の羽衣も商品として売り出された。

霊媒術を用いている以上、ある程度は不安定だ。

しかしプ口トタイプとはいえカタリナハムネット、磁気力を用いたものに比べて不安定というだけで霊媒術を用いた一般的なものに比べれば何の心配も要らないぐらい安定している。

余程のことが無ければ暴走しないようにできているのだ。

その余程のことというのも、


認識迷彩の羽衣を装備した者の人格が突然入れ替わる


ということ。

そのようなことが起こる心配は全く無用だ。

人格が入れ替わることなど歴史を見渡しても簡単には見つからない。

一つだけ知っているが、それはスタンド使いをアステカ製の矢で貫くとその半径数百メートルにいる者の人格が無作為に入れ替わるということが起こるというものだ。


だがそんなことは簡単に起きることではない。

あるいは何らかの理由で認識迷彩の羽衣が暴走したとしても命の危険は殆ど無く、一度暴走してしまえば繊維に憑依させた霊魂は解放され、二度と暴走することは無い。

そうなった後であっても認識迷彩の羽衣の機能は失われることは無い。

繊維に機能が定着しているからだ。

本来なら売り出す前に一度暴走させて暴走の危険を取り除いておいた方がいいのだが、暴走させては折角のプ口トタイプが衣服としての形をなくすことも考えられたため断念した。

暴走させる方法も思いつかなかったのでやろうと思っても難しかったということもある。

だが、暴走させようとして暴走しなかったという事が逆に、暴走しないという自信につながった。

それにもう一つ、認識迷彩の羽衣が暴走しないと思える理由がある。

認識迷彩の羽衣は全く売れなかったのだ。

プ口トタイプで一着のみつくられた貴重品なのだが、なぜだか来店した者に機能を説明すると全員が全員、苦笑いして店を後にしたのだ。

我も売れるとは思っていなかった。


“認識迷彩の羽衣を認識した者の全員の潜在意識より呼び出した想念を捉えて投影する”


という機能は特に求められていないと思ったのだ。

しかし工夫はした。

認識迷彩の羽衣には他のものと異なり説明書をつけた。

当社特性の魔法繊維を使用した、と製造方法をぼかしたのだ。効果は無かった様だが。

故に少し方向性を変えた。

任意で制御できるものをつくったのだ。

するとやっと売れた。

それは杖の形状をしている。

「へんげのつえ」という名前で売り出した。

我はその杖を用いある城に忍び込んだことがあるが、その事実がどうやら我の知らぬところで明るみに出たようで、いつのまにか訴訟問題に発展したようだ。

そのころ我は既にこの世を辞去した後だったので後任の支店長がことをおさめたらしい。

その後、様々な改良を加えられたようで、今でも認識迷彩の品は売られている。

聞くところによると最近では手作り認識迷彩などというものが売られ、大学で研究されているらしい。

今その研究がされているということは、認識迷彩は出る時代が少し早かったのかも知れぬな。


………、認識迷彩の羽衣を織るのに使った霊魂はどのような理由で何に決めたか、だと?

妙なことをきくものだな。きいてどうするというのだ。

だが、まあいいだろう。

定着させる霊魂については霊媒師に一任した。

ゆえに我がその霊魂に決めた理由は無い。

理由があるとすれば霊媒師の方であろうが、霊媒師にもさしたる理由はあるまい。

我は霊媒師にこう指定したのだ。


神秘的な霊魂を頼む。


と。

すると霊媒師は、


それでは八岐大蛇やまたのおろちではどうか?


ときいてきた。

即答であった故に考えず答えたのだろうが、どうか?などと我に問われてもわかるわけがない。

霊魂に関しての知識は霊媒師の方が上だからだ。だから雇ったのだ。我は知らぬ。

どうしても霊魂についてききたいのであれば霊媒師にきくといいだろう。

いや、霊媒師ではなく霊魂その者に問う方がいいかも知れぬな。

この霊媒師ならばそれぐらいのことはできよう。


ただ、我がいかに霊魂に疎いと言っても八岐大蛇ぐらいは知っている。

霊媒に用いるのは霊魂で、他の浮動存在ではない。

しかし八岐大蛇は霊魂というより、神ではないのか?








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