3-3 ( フリマの店主の後輩の理学部生の話 )
フリマの店主の後輩の理学部生の話
(認識迷彩について知る為にフリマの店主の後輩に話をきいた。)
1
わたしのこと先輩からきいたんですか?
ということは、ライジンオオつながりですね。
あれって学校がロボットに変形するとき机が勝手に動いてコックピットみたいになって操縦できるようにじゃないですか。
だからパイロットの人しか触れないですけどパイロットになる為の資格が、たまたまあのときあの小学校のあのクラスにいた小学生、ていうのだから狙ってパイロットになるのほぼ不可能ですよね。資格、ていうか条件ですけど。うらやましすぎですよー。
まあパイロットだったとしても滅多に敵が出ないから操縦することはあんまりないと思うんですけど。
一度しか出たこと無いですからね、敵。たまたま一度だけあの学校が謎の敵に襲われたときにライジンオオが出撃して謎の敵を撃退して以来、謎の敵は出たことないですし。
それなのにあそこの博士は、来るべき謎の敵の襲撃に備えてライジンオオを整備する、とか言って学校から予算もらって研究してるらしいんですけど、あれ確実に趣味の領域に違いないですよね。
ライジンオオの強さはもう分かってるんですから謎の敵が何者かを調べた方がいいと思うんですけど調べるつもり多分、無いんですよ。謎の敵を倒したときの残骸は調査してないみたいですし、調べるどころか生ゴミの日に捨てたとか言う話が流れてるぐらいですから。
それと、いつのまにか学校をそんなふうに変形可動型にした校長も校長ですよね。小学校に博士がいるのもおかしいですけど。
それよりわたしはどうやって変形してるのかが気になるんですよ。
接続構文を使えば変形はできますけど、それだとどうやったって電力供給が……え、違うんですか?ライジンオオの話じゃない……んです、か?そうですか、すみません。あの先輩の紹介だって言うからてっきり、これはもうライジンオオに違いない、て思ったんですけど。
じゃあ何つながりで……、フリマ?へー、先輩、そんなことやってなんですね。そのフリマがどうかしたんですか?
………、フリマじゃなくて学部の話……、認識迷彩?
なんだ、つまらない。…いえ!なんでもないです。でもすいません、明日提出のレポート書かなきゃいけないのでそのお話はまた別のときでも、ていうかまた時間つくってもらうのも悪いので学部の知り合いを紹介しますよ。いいかんじの罰ゲーム探してたんですよね。桃鉄で二位と一兆円の差を………なんですか?これ。皆川実花の写真集?
………、違うんですか?1ページ目?えーと、ああ、皆川実花の写真を使ったスタバの紹介なんですね。……あ、これすごい。カルーアミルクフラペチーノ……こんなの出てたんですね。こんどたべなきゃ。いくらかな?……高い。へー裏メニューとかあるんだ…ゴディバチョコソースがけかー、こんど頼んでみよっと。……。
あ、思わず見ちゃいました。これどうも、返します。ありがとうございました、それじゃ行きますね。
………、それもらえるんですか?うーん、でもいいです。皆川実花そんな好きじゃないし。
……、タダ券ついてる?えと、このフリーチケットでここに掲載されてるドリンクすべて無料で提供、サイズ自由……え!?ということはカルーアミルクフラペのバケツサイズも?
じゃあ、じゃあ、この本もらえるていうことは、カルーアフラペのバケツがタダで食べられるんですね!??
もう、先に言って下さいよ、えへへ。認識迷彩ですよね。レポート?いいですいいです、友達からコピーもらって部分的に書き換えて済ましますから。
座って話しましょう。
あ、あれ飲みたいです、天国への階段。あの自販機にあるカクテルです。
知ってます?天国への階段。アブサン使ってるんですよ。
アブサンていうのは薬系のアルコールなんですけど、中毒性があるんですよ。モーツァルトも愛飲して死期を早めたんですよ。アルコール度数が結構高くて、70度ぐらいだったと思います。天国への階段はカクテルだからそこまで強くないんですけどお酒弱い人は一杯ぐらいでつぶれるんですよ。先輩に飲ませてみたら面白いぐらい別人になりましたからね。
天国への階段は微妙に高いので代わりによくライチソーダ買うんですけどけっこう売り切れてるんですよね。今も売り切れの赤いランプついてるし。
………、そうですよね、わたしも大学の自販機でカクテルが売ってるっておかしいと思います。大学の運営側からこの自販機の撤去する動きがあるみたいなんですけど、学部生からも講師からも根強い人気があるから撤去できないんですよ。
強制撤去の張り紙が出た事あったんですけど、そのときは生徒も教授も清掃員も卒業生の支援金もこぞってボイコットしたから撤去は頓挫したんです。
………、あ、ありがとうございまーす。ふふふ、やった、久しぶりの天国への階段だ。
あそこの席空いてますね。あそこにしましょう。
2
それで、認識迷彩ですよね。
でも話すとなったらどう話すか迷いますね。
迷うというか、どこから話せばいいのか。まずわたしが認識迷彩を完璧に理解してないんですよ。基礎は大体把握してるんですけど。
まず認識迷彩は科学迷彩の一種なんですけど、科学迷彩、ていうぐらいだから呪術とか方術とかは使ってないんです。
いきなりここで勘違いしてる人が多くて、講義でも最後まで勘違いしたまま授業を受けて不可を取る人が理学部でもたまにいるんですよ。精霊とか五行とかエーテルとかオカルトは使わないんです。理系の学部でそういうのを使うところは錬金術ぐらいだと思いますね。錬金術は科学と霊術が混ざったみたいなものですから。
錬金術のどこらへんに霊術の要素があるかというと、たとえば実験前に祈祷は欠かせない、とかです。祈祷をしなかったら大変なことになるみたいですからね。ちょっと前に錬金術科の人が実験前に祈祷をサボったせいで学部棟が半壊したらしいですから。
普通は半壊とか言ったら大変なことだと思いますけどあそこは特殊で、けっこう頻繁に壊れる建物だからちょっと壊れたくらいだと問題になんないんですよ。ある時期までは事あるごとに爆発して揉めたみたいで、あまりにも頻繁に半壊するからって、建物を切り離したらしいんです。そのときまではひとつながりで22号館だったのを錬金術科の使う教室だけの棟を作って36号館にして。
36号館が半壊しても他の学科の人がスルーするっていう伝統はそのときに始まったみたいです。
たまに中を覗いたりしてみると面白いんですけどね。あの建物、中でよく爆発してるみたいですから入ると廃墟みたいになってるんですよ。建築的に特に意図したわけじゃないのに2階と3階が吹き抜けになってたり。
しかもその吹き抜け、下手すると崩れるし。うっかり入ったことがあるんですけどその廃墟具合を見て、もしかしてここ、軍艦島?とか思いましたからね。
でも爆発したらふつう死ぬと思うんですけど、誰かが死んだ、て話はきいたこと無いんですよ。よく死なないですよね………あ、今すごい音しましたよね、ぼごごごーん、て。中で爆発とかしてるに違いないです。見て下さいよアレ、緑色の煙が上がってますよ。何やったんでしょうね。
3
じゃなくて。
そうじゃないですよね。うっかり話が逸れちゃいましたけど、とりあえず科学迷彩はそういうのじゃないです。錬金術みたいにゼウスとかの神属の召喚とかやらないんです。
科学迷彩はいくつかの国で同時多発的に開発された技術で、国によって違う技術を根幹に持ってるんですけど、ロンダルギアの科学迷彩は磁気力をベースに使うんです。
一番単純な科学迷彩はステルス迷彩で、あれも磁気力なんですよ。
ステルス迷彩はレーダーから逃れる為の高速戦闘機に備わったシステムで、機体の周囲に磁場を展開してレーダーの走査を攪乱して位置を探知されないようにするんです。
人体サイズに展開できるステルス迷彩もあって、ちょっと探知から外れたいな、ていうときに使えるんです。安くてコンビニにも売ってますから安定して便利で人気もあるんですよ。
でも人を探知する方法てたくさんありますからね。生体探知とか携帯端末のログとか脳波探知とか防犯カメラとか。探知する方法ごとに必要なステルス迷彩は違いますし、脳波で探知するのはあんまりないとしても防犯カメラの探知からはステルス迷彩だと攪乱できないんです。ステルス迷彩が攪乱できるのはレーダーによる探知ですから見られたら一発でばれるんです。もちろんそれは防犯カメラの探知だけじゃなくて生体探知のレーダーも同じですけどね。脳波探知のレーダーは難しくて精度は低いんですけど。
まあどちらにしてもステルス迷彩は見られるとばれることが問題で、見られてもわからなければいい、つまり、見えなければいい、ということで視覚迷彩がつくられたんです。
視覚迷彩も他の迷彩シリーズと同じように、磁気力をベースにつくられてるんです。光学迷彩、て呼ぶ人もいますけど使ってる原理が光学というより磁気力なので視覚迷彩を光学迷彩と呼ぶのは厳密には間違ってます。厳密には違う、ていうだけなので慣習的には光学迷彩でいいんですけど。
原理は確か、一定条件下で或る任意のコアを基準として特定範囲にモノポール曲面、を展開し、通過するまたは通過しうると……えと、説明がいきなりめんどくさくなったから全部端折りますけど、とりあえず視覚迷彩は磁気力で仮想の壁をつくって光を屈折させて見えなくさせるんです。
壁、て言っても平べったい平面の板みたいなやつじゃなくて、布をかぶるような構造になってて、それが人目を避けるのに適してるとかで、ハリウッドの俳優の人もたまにお忍びのために買いにくるみたいです。
まえ、ラドクリフさん、てハリウッドの魔術師の俳優の人が買いに来てて騒がれてたんですよ。友達が大ファンで、どこからかそのラドクリフさんが来る、て情報を入手して空港まで行って写真をバッシャバッシャ撮ったらうざがられたとか言ってましたけど。
そのラドクリフさんはお忍び目的じゃなくて、撮影で使うから、ということで買ってったみたいですけどね。映画みたら使われてましたよ。
なんて名前か忘れたんですけど、なんとかポッター、て映画だった気がします。
でもその視覚迷彩にも欠点があったんですよ。
4
その説明の前に、言い忘れてましたけどロンダルギアが科学迷彩技術で強いのはもともとは軍事技術から来てるんです。音響技術とか他の技術と同じように大戦中に発達したみたいなんですよ。
ロンダルギアは大戦のとき、どの国にも強い敵対関係も友好関係も無かったのに同盟に参加したんです。でもロンダルギア政府はもともとまともに戦う気はなくて、同盟には参加しても攻撃せず常に攻撃される側に回ったんですね。
なんでそんなことをしたかというと、そのとき軍部の公式声明がでたんですよ。
敵に攻撃させすべて回避する事で兵器の消耗を狙い敵の自滅または弱体化を誘う
とか。
それだけ聞くといい作戦みたいに思えますけど、攻撃させて回避するだけって要するに狙われる一方っていうことで、そんな危ないことやめて欲しいじゃないですか。
しかもその公式声明が発表された日の前日に軍部の一番偉い人、要するに軍相ですけどその軍相が自分のブログに書いたらしいんですよ。
明日公式声明出すけど全部うそだから。本当は敵の攻撃を全部回避してみたいだけなんだよね。
とか。
勿論すぐにばれて罷免されたんですけど、罷免されてから次の軍相が立つまで空席になることになって、戦時中でそれはまずいから次の軍相がきまるまで仕方なくその危ない軍相がトップに立ってたんですよ。
次の軍相が決まるまで一週間ぐらいあったんですけど、その一週間の間に危ない軍相は権力を乱用して科学迷彩の開発に全力を注いだらしいんです。
軍の開発部門全部どころか国力全部を。
罷免が決まってるんだから国力全部を開発費に注ぐとかそんなことできないと思うんですけど、なんかクーデター起こして全権掌握とかしたみたいです。アキラってアニメに出てくる軍人のまねをした、とかなんかに書いてありましたけど。
それで出来たのが、空間迷彩、ていう科学迷彩なんです。
空間迷彩は国力全部注いだだけあってすごい性能で、レーダーに引っかからないし見えないし、それに触れてもわからない。その上、空間迷彩が展開されたものの形状を錯覚させたりできるんです。さらに空間迷彩展開後、迷彩対象の任意の物理的操作が可能、て。
それってつまり、たとえばこのテーブルに空間迷彩をかけたら物理的操作によってあっちの壁の端まで移動させることも出来る、ていうことなんですよ。科学迷彩、てステルス迷彩にしても視覚迷彩にしても錯覚を起こさせるだけで物自体に干渉しないんですけど、空間迷彩だとそれが出来るんですよ。
それだけでもすごいのに、その空間迷彩はロンダルギア大陸全土に展開されたんです。
それまでの科学迷彩だと大きさは戦艦サイズが限界だったんですけど、大陸サイズとかそんな規模の科学迷彩はそれまで展開されたことなかったんですよ。それで大陸ごと操作可能にした上に敵のレーダーを攪乱して位置が判らないようにしたみたいなんです。
そこまで開発されたところで一週間が過ぎて、危ない軍相は罷免されたんですよ。全権掌握したのに。
で、その軍相の代わりに新しい軍相が軍部のトップに立ったんですけど、その空間迷彩と操作できるようになった大陸を見て新しい軍相が感動して公式声明を出したんです。
わたしは前軍相の意志を継ぎ攻撃回避に全力を注ぐ!
て。
それでやっぱり罷免されたんですよ。だからそういう危ないのはやめてくれ、て。勿論また新しい軍相が立ったんですけど、そのときも新しい軍相になるまで一週間あったんです。
で同じようにクーデター起こして全権掌握してから迷彩技術に国力全部を注いで新しい科学迷彩ができたんです。
それでラジオで大々的に発表されたんです。
”空間迷彩アルファ”
て。
名前だけ。
その時の人全員、アルファとかいいから効力を説明してくれ、とか思ったらしいです。
街頭調査で、空間迷彩アルファについてどう思いますか?て質問したらしいんですけど、回答が一つの例外も無くそれだったみたいです。
そんなわけなので知られてるのは名前だけで効果は不明だったんです。
でもいつのまにか漏洩したのか公表されたのかはわからないんですけど、ちょっと前に検索したらウィキペディアで普通に載ってたんですよね。
なんか、光の屈折率を触覚に援用して物質の進行方向を屈折させる、て。
空間迷彩が触れてもわからない技術だとしたら、空間迷彩アルファは別のものに触れさせる技術、ということですね。
すでに迷彩じゃない気がするんですけど指摘する人はいなかったみたいです。
そのあたらしい軍相も空間迷彩アルファだけじゃなくて大陸になんかやって変形できるようにしたみたいなんですよ、移動だけじゃなくて。
その技術が完成して展開された頃に一週間が経って新しい軍相が立ったんですけど、その就任式の最中にちょうど終戦を迎えて、それに伴い軍部再編成とかで新しい軍相は早速罷免されたらしいです。
ギネスブックにも載ってます。
”軍相の就任から罷免までの再短時間、なんと5分!”
とか。
空間迷彩アルファは数時間しか稼働しなかったんですけど、それでもすごい効果だったみたいです。
終戦の数時間前に核が撃たれたんですけど、それを空間迷彩アルファで押さえ込んだらしいんですよ。核、て地面にぶつかった衝撃で作動する落下タイプの爆弾ですけど、まず核が落とされたタイミングは探知できたから落ちてくる核を狙撃して空中で作動させたんです。
核の射程距離がどれぐらいかは知らないんですけど、ものすごい広いから空中で爆発させても地面には届くし、放射能の影響も出るんです。
でも空間迷彩アルファは核の爆発が広がる方向を屈折させたんですよ。
爆発は核から半径何キロかに等距離に広がるもので、狙撃して爆発させた核は文字通り爆発的に空中で広がったんですけどそのすべての方向で爆破方向をねじ曲げて内側に爆発が向くようにしたんです。
それで爆発をだんだん小さくして行って、最後にはサイコロぐらいのサイズになったんですよ。消滅させる事はさすがに無理みたいで、とりあえず限界までサイズを小さくしたみたいなんです。
でもサイコロサイズになっても核は核だから危険で、だから遠くに飛ばしたんですよ。
それはロンダルギアの偵察型衛星から観測されてて、メキシコの右辺りに落ちたんです。核とか空間迷彩とかが混ざったのか、そこは今でも危険地帯でよく船が遭難するらしいです。バミューダトライアングル、て呼ばれてるみたいですけど。
そうやって核は回避できたんですけど、どの国が核を撃ってきたかはいまだにわかってないんですよ。
威嚇するにしても撃った側が言わないと威嚇の意味ないのに。
それとロンダルギア自体、空間迷彩が展開されてるから見つけるのが難しいし見つけたとしても移動するから場所が特定できないんです。
それなのにどうやって核を撃ってきたのかわからないから知識人の間では、
あれは誤爆ではないのか。
とか言われてるらしいです。
知識人ていうのがどんな人のことをさすのかわかんないですし誤爆とか言っても誤ってるのは場所で爆破自体は本物なんですけどね。ウィキペディアにそんなことが書いてあったんですけどそれ以上は書いてなかったんですよ。ウィキペディアの限界です。
でも多分ロンダルギアに核を撃ってきたのはアレスガルドだとか言われてるんですよ。
迷彩技術を破る技術で、アンチ迷彩、ていうのがあるんですけど、アレスガルドはそのアンチ迷彩に特化してますから。だからロンダルギアに核を打ち込めるところなんてアレスガルドぐらいしかないんですよ。まあ真相はわかんないんですけどとにかく、核の攻撃を防いだ、てことで空間迷彩アルファは実は役に立ったんです。
空間迷彩のアルファじゃない方も結構役に立ったみたいですね。毎日のように落下式の砲撃を受けながらほとんど回避できたのは空間迷彩のおかげらしいですからね。
そうなると罷免された軍相は二人ともものすごい貢献した英雄、てことになるんですけど、そうでもないんですよ。
あの人たち戦後に共著で本出してて、色々書いてるんですけど内容がちょっとアレだったから英雄扱いはされてないんです。
わたし持ってますよ、その本。今あります。
ほら、この本なんですけど、えーと、ここですね。
わしゃあスタァソルジャが好きでのう、一日25時間はやっとった。カッコ中略カッコ閉じる、だがまさか戦時中にリアルにスタァソルジャができるとは思わんかったわい。
スタァソルジャ、て知ってます?
ファミコンのゲームで敵の弾を避けるのが楽しいシューティングゲームなんですけど。
あの軍相が地でスタァソルジャをやった、ていうのは空間迷彩を展開したり大陸を移動できるようにしたのは敵の攻撃を避ける為、てことで、あれを読んだ人は全員、そんなことに国民を巻き込むな、とかキレかけたみたいです。
大陸は地表に対して水平にしか動けないんですけど、やろうと思えば空中への移動もできたんですよ、そのときの技術的にも予算的にも。空中移動ができるようにしなかったのはあくまでスタァソルジャにならって平面的に敵の弾を避けたかったかららしいんです。
それによく考えたら、敵から攻撃されてる、て時点でおかしいですからね。空間迷彩を展開してるなら敵から見つからないですから。
そんなんだからあの時代の人からは嫌われてて、
見つかると石投げられるから逃げんとな。
とかブログに書かれてました。
あの軍相、二人とも生きてて仲がいいんですけど石投げられるから逃亡生活してるんですよ。たまにブログで書いてありますから場所はわかるんですけど。
とりあえず今はイビザでバカンスしてるみたいです。
それを見た教授数人が、国賊め、人誅を下してくれる!とかいってイビザにスパイクロッドもって乗り込んで行ったおかげで休講になったんです。
人誅はいいから講義やって欲しいんですけど。
まあ空港で止められたみたいですけどね。その釘の刺さったバットを持ち込んでどうするつもりだ、て。税関でとめられるどころか空港の入り口でアウトだったみたいです。
……、え、人誅ですか?よく分かんないんですけど天誅みたいなものらしいです。
先生が講義一回つぶして人誅について熱く語ってたらしいんですけどほとんどおぼえてないんですよね。寝ましたし、その講義。
人誅の説明もいいから講義やって欲しいんですけど。
5
だいぶ話が遠回りしましたけど、そうやって科学迷彩は大戦中に発展したんです。
でも科学迷彩は基本的に軍事技術で、軍事の出番が無いなら使い道が無いんですけど折角だから民間に技術を持ち込もうってことになって、まずサバゲーが発展したんです。
サバゲー、ていうのはサバイバルゲームのことで、公園とか廃墟とかで迷彩服着てエアガンとかで打ち合う遊びなんです。軍事技術の転用先として間違ってる気がするんですけど、なんかヒットしたから止めるに止められなくなったみたいですね。
……、ああ、やっぱりそう思いますよね。なんで軍事技術がサバゲーに?て。今言いましたけど、サバゲーて迷彩服着てやるんです。で、迷彩服、て言葉に軍の上層部が反応したんです。
名言としても残されてるんですよ。
迷彩服として科学迷彩を使うというのは、どうかね?
て。
どこらへんが名言なのかはさっぱりわからないんですけど、とりあえずこの名言に触発されたサバゲー関係の会社が動いて色々開発してなんか発展したみたいなんですよ。
サバゲーてやったことないし教科書で読んだだけだから詳しくないですけど、サバゲー業界の要請によって科学迷彩の民間への転用が始まったんです。まずステルス迷彩から始まって、景色と音を錯覚させる視覚迷彩と聴覚迷彩、そこから何故かにおいと味を錯覚させる嗅覚迷彩とか味覚迷彩が新たに開発されたらしいんです。視覚迷彩と聴覚迷彩は戦略性が上がるから人気が出たらしいんですけど嗅覚迷彩と味覚迷彩は発売当初から不人気で使われてないみたいですけど。別の業界で人気が出てますけどね。
そこから色々あって認識迷彩ができたんです。でも、その色々、ていうのが何だったのかおぼえてないんですよね。授業できいたんですけど。教科書には載ってると思いますけど持ってきてないですし。
それで、認識迷彩ですけど他の科学迷彩と性質が違うからちょっとわかりづいらいんですよ。
認識迷彩がなんでつくられたかは今言ったように忘れたんですけど効果とかは大体わかります。まず認識迷彩、て言ってもいくつかバージョンがあって、つくられた時期で機能が少し違うんですよ。
でも、根本的な性質は同じだから全部、認識迷彩、て呼ばれてるみたいです。
その根本的な性質ですけど、名前の通り、認識に迷彩をかけるんですよ。
たとえばこの缶、さっきおごってくれた天国への階段ですけど、もう飲んじゃいましたから空です。
こうやって振っても飲み残しがちゃぷちゃぷ言うだけです。もし空じゃなくて中身がたっぷり入ってたら、とぷんとぷん、て聞こえますよね。
これに認識迷彩を適用すると中身が入ってるように思わせることができるんですよ。認識迷彩が適用されてるときにこの缶を振ると、とぷんとぷん、て音がするんです。
今これを逆さにしても飲み残した水滴がこぼれるだけですけど、認識迷彩が適用されてると、どぼぼぼっ、て中身が流れ出すように見せることができてテーブルに中身が、ばちゃっ、てブチまけられますし、こぼれた液体に触ると感触も伝わってきます。服につけるとぬれますし、ぬれた服のしめった感触も感じられます。袖を触れさせるとぬれて少し重くなってめくりにくくなりますし、ハンカチで拭いても水滴を吸い取ったみたいになるんです。缶も少し握っただけで簡単にへこむように見せられますし、へこましたような感覚も感じられて、べここっ、てへこむ音も聞こえます。
でも実際には今見えてるように、缶は空だし逆さにしても飲み残した分しかこぼれないんです。缶は固いからアルミと違ってちょっと握っただけだとへこみませんし、べここっ、てへこむ音もしてません。
認識迷彩が適用されてるあいだはそう思えるだけで、認識迷彩の適用範囲から外れるとまともなふうに感じられるんです。
この天国の階段は空き缶だし、へこんでもいないし、中身もこぼれてないし、ぬれたと思った服もぬれてない。
空の天国の階段の中身が流れ出しで服がぬれて缶がへこんだと思ってるのは認識迷彩にかかった人だけで、それ以外の人にはそんなふうには見えてないんですね。
認識を屈折させてそう思わせてるんです。
完璧な催眠がかかってるのと同じなんですよ。
6
でも欠点もあって、認識に迷彩をかける、ということは逆に、認識していなければ迷彩がかけられないんです。
今の例で言うと、空の天国の階段の缶がある、と認識しているから認識迷彩がかけられるんですよ。天国の階段の缶があるということに気づいていない人にはかからないんです。さっき認識迷彩は他の科学迷彩と性質が違う、て言いましたけど、その性質の違い、ていうのがこれなんですよ。
他の科学迷彩は物質に作用するから誰かが見てても誰も見てなくても機能はするんです。ステルス迷彩を張れば誰も探知しようとしなくてもステルス迷彩は機能してるんです。
視覚迷彩を張れば誰も見てなくても姿は消えてるんです。
嗅覚迷彩の張られたトイレは誰も入ってなくても臭いがカットされてるんです。
でも認識迷彩はそうじゃなくて、誰かがいないと機能しないんです。
というよりも、誰かが認識することで認識迷彩が機能するんです。
認識迷彩は物質と認識との関係性にかかるものなんです。だから天国の階段の缶があることを認識してない人にはかからないんです。
あっちの席に座ってる人からこの缶は見える位置に居るから見えてると思いますけど意識して視てはいないですよね、多分。
それは認識しているというのとは違うんですよ。
あそこに座ってる人、ヘッドホンで音楽を聴きながら本読んでますよね。こっちまで音漏れて聞こえてますから。さっき36号館から何かが爆発したような音が聞こえたので、わたしはその爆発の音を、聞こえた、と認識しましたけど。あのヘッドホンで音楽を聴いてる人には、聞こえた、とは認識されてないと思うんです。
ヘッドホンで周りの音が聞こえにくくなるのは周りの音をどうにかしているわけじゃなくて周りの音よりもヘッドホンから聞こえてくる音の方に意識が向くからで、周りの音が耳に届いてないわけじゃないんです。
大音量で音楽を聴いてても聞こうと思えば爆発音とかの雑音も聞こえるんです。でも爆発とか起こってるとは思わないから聞こうとしないし、聞こうとしないなら聞こえたとは思わないし、それなら聞こえたと認識したことにはならない。
そういうふうに、見えてても視てない場合とか、聞こえてても聴いたと思わない場合は認識したとは言えないので認識迷彩は効かないんです。認識迷彩は仕掛けられたものを認識しないとスイッチが入らないんです。単純な機械構造をしてるわけじゃないですから、スイッチ、て表現はおかしいんですけどイメージとしてはそんな感じなんですよ。
認識迷彩のかけ方なんですけど、意思を流し込んで定着させる、ていうのなんです。
認識迷彩はスプレーとかチューブとかをつかうんですけど、そのスプレーとかの中身はどうやってつくってるのかわかんないんです。
わたしがたまたま知らないんじゃなくて一般に知られてないんです。先生も知らないみたいでしたから。認識迷彩もの自体あんまりつくる人はいませんし、つくるときは材料が必要で、材料はメーカーから特注で仕入れてるんです。
カタリナハムネット、て知ってます?そこが認識迷彩ものを扱ってるメーカーなんですよ。
7
カタリナハムネットはイギリスのファッションブランドで、質が高いから人気もあって世界の主要都市には必ず店舗があるぐらいなんです。
カタリナハムネットができたのは19世紀末とかで、最初はちっちゃいお店で細々と手作りの服を売っててだんだん人気が出てきてお店をおっきくしたり地方に支店をつくったりして規模を広げていったんです。
それでもイギリス国外に手を伸ばしたのは戦後ぐらいからで、支店を出したからってすぐに人気が出たわけじゃないんですよ。
カタリナハムネットはイギリスでしか知られてなかったから最初は知名度を上げるのに色々やって、でも上質なものをつくってるからだんだん海外でも売れ始めて今みたいになったみたいです。
その海外出店なんですけど、最初から主要都市に出すのは冒険だから実験としてマニアックな都市に出そう、て話になったらしいんです。
そのマニアックな都市、ていうのがロンダルギアだったんですよ。
いくらマニアックな都市にするからって海外出店第一号がロンダルギア、てどうかと思うんですよね。
わたしが担当者だったらロンダルギアは確実に出店候補から外します。まず交通がおかしいですから。
今だったら飛行機も出てるから他の国からロンダルギアには安全に来れるんですけど、カタリナハムネットが出店したのは戦前で、戦前には飛行機出てませんからね。
ロンダルギアの洞窟て知ってます?
あの、落とし穴がたくさんあって敵が強くて白骨死体が雷撃呪文サンダガを唱えてたりする、ていう洞窟です。
わたしは入ったことないですけど、下手すると、ていうか下手しなくても普通に死ぬぐらい危険なとこなんです。
戦前のロンダルギアに海外のブランドが出店するとなったらどうやったってあの洞窟を通る必要があるんですよ。戦前だと上空にバリアは張られてますし海から来ても岩山に阻まれますからね。
一説によるとカタリナハムネットのそのときの海外出店の担当者が伝説の勇者口トの血を引いてて、ロンダルギアの神官ハーゴソと邪神シドゥを倒す為に来たとか。
仕事が忙しくなかなか倒しに来れなかったのだがロンダルギアへの出店という名目があれば連休などをうまく利用して倒しに行ける!とか、そんなことがカタリナハムネットのウィキペディアに載ってました。
まあ、ハーゴソとシドゥ、今でも普通に生きてますけどね。あの人達、長生きなんですよ。
そんなかんじで、迷走としか思えないんですけど、カタリナハムネットの海外出店第一号がロンダルギアにできたんです。
でやっぱり低迷したみたいなんですよ。売られてるもの自体はいいんですけど、交通が交通だから本国のイギリスから仕入れとかできなくてすぐに在庫切れになる、とかいって。
そのときの支店長はさっき言った口トの血を引く人なんですけど、このままだとカタリナハムネットの海外進出の道は閉ざされる、とか思って勝手に色々つくったらしいんです。そのときにはもうハーゴソとシドゥのことは忘れてたらしいんですよ。その為に来たのに。
それでできたものはカタリナハムネットの理念を体現したつもりでつくった筈なんですけど結果的にイギリスの本社の意向を完全に無視したものになったみたいなんですよ。なんでかわかんないんですけど。
それが認識迷彩シリーズなんです。
でも認識迷彩シリーズはロンダルギアの支店長が勝手につくったものだから他のカタリナハムネットには売ってないみたいなんです。
だから今ではイギリスのブランド、カタリナハムネットと同じ名前の別のお店みたいになってるぽいです。
ていうかイギリスの本社の名前の読み方、カタリナハムネットじゃなくてキャサリンハムネットですからね。スペルは同じでも読み方が違うんです。読み方が違うせいか、というか扱っているものが本社とは既にかけ離れているせいか、カタリナハムネットは完全にキャサリンハムネットのパチもの扱いになってますけどね。公式も非公式も問わず。出自は紛れもなく正しいのに。
わたしキャサリンの服とかいくつか持ってますけど、服買うときはわたしはあんまりブランドとか見ないんですよ。お店行って、てきとーに見ていい感じのがあったら目を付けたり買ったり。だからキャサリンの服買っても、買った後で気づくことの方が多いんです。
何気なく持ってる服見てたらタグに、キャサリンハムネット、て書いてあって、ああこれキャサリンだったんだ、て。
そういうのが多かったから名前はおぼえましたけどね。あんまり意識することはないですけど。
でもカタリナは認識迷彩関連を買うときは絶対確認しますからね。服はキャサリンじゃなくてもいいですけど認識迷彩ものはカタリナじゃなきゃきゃだめですからね。
だからわたしにはカタリナの方が馴染みがいいんです。それで思わずカタリナで通しちゃいましたけど名実共にいまや別のメーカーです。キャサリンのホームページ見てもカタリナのリンク無いですし。まあキャサリンとカタリナ、元は同じなんですけどね。口トの血を引く支店長が読み方勘違いしたみたいです。そんな人がなんで支店長になれたのかはわかんないです。
……、ああ、そのと支店長の最初の目的ですか?ハーゴソとシドゥを倒す、ていう。
なんか認識迷彩シリーズをつくるのに夢中になってしばらく忘れてたみたいです。
一応、倒しに行ったことはあるみたいなんですけど、なんか、シドゥは負けそうになると完全回復呪文ベホマを唱えて戦闘が振り出しに戻るからやってられぬ、とかいって倒すのはやめたみたいです。
8
またちょっと話がそれましたけど、そのカタリナハムネットが認識迷彩関連のものを扱ってて、認識迷彩物をつくる時はそこから材料を取り寄せてるんです。
材料、ていうのはさっきも言いましたけどスプレーとかで、認識迷彩をかけたいものに吹き付けるんです。
スプレーの中身が何なのかは知らないんですけど思考流体を配合してるみたいで触ると意思を流し込むことができるんです。
……、いや、これも磁気力ですね。思考流体はオカルトじゃなくて科学で、これもほかの科学迷彩と同じように磁気力なんです。
普通の磁気力ものと違って使い方が少し難しいんですけどね。
乾けば意思は定着しますけど、乾く前に触ると別の意思が流れ込むし、思考流体は二重意思を否定して自己中和しますから別の意思が流れ込むと単なる液体になって認識迷彩が展開されなくなるんですよ。
それにゆっくりやってると意思を流し込む前に乾きますしね。乾くと今度は流し込めなくなりますから。
それで、意思を流し込むのはスプレーで吹き付ける前でも後でもよくて、どっちの方がいいかは何をやるかで変わるんです。
同じ種類の認識迷彩を幾つものものにかけたいときは吹き付ける前に仕込んだ方がいいですし、別々の場所にいろんな認識迷彩を仕込みたいときは吹き付けた後の方がいいんです。
例えばわたし、さっきあそこにヘッドホンして大音量で音楽きいてる人がいる、て言ったじゃないですか。天国の階段を買ってこの席に座ったとき、あの人がいるの気づきました?わたしが指摘したときに気づいたんじゃないですか?
……、そうですよね。でもそれっておかしいですよね。あれだけ大音量で音漏れしてるのに、わたしが指摘するまで気づかないって。この席に座った時点で、というよりあの自販機で天国の階段を買ってる時点で気づきますよね。ここから十分に聞こえるぐらい音漏れしてますから。
曲名だってわかりますよね。ああ近くでエレクトロニカの大御所オウテカの名曲ガンツグラフを大音量で聴いてて音漏れさせてる人がいるな、て。
でもわたしが言わなければ気づかなかったんですよね。
わたしが言ったから気づいたんです。
ということはそのときに何かが起こったんですよ。
何だと思います?
……、違いますね。だんだん音量を上げて行ったんじゃないんですよ。最初からあの音量だったんです。
あの音量だったのにわたしが指摘するまで気づかなかった。
でも、逆に言うとわたしが指摘したから気づいた。つまり、わたしが言うことであそこに席があることを”認識”したんです。それがスイッチなんです、認識迷彩の。
本当はあそこの席、誰もいないんですよ。
いまでも音漏れは聞こえますし本を読んでるように見えます。
でもいないんですよ、席があるだけで。
このカフェテリア……、カフェテリア?オープンテラス?えっと、何ていうのか名前わかんないですけどここには席たくさんありますよね。
一、二個席が増えても減っても気づく人って殆どいないと思いますし、それぐらい席があるんでしたらどこにどの席がどんなふうに並んでるとか気にしませんよね。
つまり、ひとつひとつの席の並びなんて認識されてないんです。
認識迷彩は認識されないと機能しません。
でも逆に認識されれば認識迷彩は機能するんです。
つまり、私が指摘することで認識し、認識迷彩が機能し始めたんです。
わたしも話しながらあの大音量のヘッドホンの人の席を思い出しちゃって、そのときから聞こえ始めたんです。おかげでいま微妙にうるさいんですよ。席変えますか?
……、あ、じゃあこのままで。
あれは席に認識迷彩がかかってるんです。スプレーでかけてるんだと思います。認識迷彩を仕込む道具にはスプレーを使って物に直接かけるものとか、アロマみたいに空間に溶かし込んで展開するものとかがあって、使い方が違うんです。
スプレータイプは適用された物を認識することで発動するので効果範囲は理論上無限なんですけど、アロマタイプには限られた範囲でしか発動しない代わりに発動条件を決めることが出来るんです。そのぶん使いにくいんですけど。
あと、スプレーとかアロマとか使って自分で設定するもの以外にも、あらかじめ仕込んであるものもあるんです。というよりそっちの方がメジャーですね。メジャー、て言っても認識迷彩の中ではですけど。認識迷彩自体マイナーですから。
最初につくられたタイプの認識迷彩シリーズはそういうのだったんですよ。
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カタリナハムネットはもともとはファッションブランドだから、最初に認識迷彩を仕込んだものも服だったんです。コートとか靴とか羽衣とか杖とかですね。
認識迷彩の杖で、使った人とその人のすぐ近くにいた人の姿を別のものに見せるって機能のがあるんですけど多分、仕込まれたタイプの認識迷彩の中で一番有名なのはそれですね。
でも不法侵入に使われたとかで発売禁止になったんです。
エジンバラのお城て知ってます?
そこセキュリティが結構きついんらしくて、入り口に兵士が関係者以外は通さないみたいなんです。
そこを認識迷彩の杖を使って兵士に化けて城に入った人がいたみたいで、それがばれて訴訟問題になったとか。
ホームページでもCMでも謝罪と回収告知されたんですけど、あんまり回収されてないと思いますね。
自分の姿を別のものに見せるなんて面白いものをむざむざ回収させる人なんてあまりいないですし、回収してもらっても引き換えにもらえるのがティッシュ一年分とかですから。
去年いたサークルの先輩でその杖を持ってる人いますけど回収告知を聞いたとき、誰が渡すものか馬鹿め、とか言ってました。厳重に家に保管して滅多なことでは使わないらしいです。
まあ先輩のことはどうでもいいとして、認識迷彩の杖はそういう機能を持ってるんですよ。起動させたときにその人の潜在意識にアクセスして起動させた人の姿を変える、ていう。
潜在意識にアクセスする、ていうのも認識迷彩の特徴の一つなんですよ。
ほかの科学迷彩は有るものを無いように思わせるんですけど認識迷彩は有るものを別の或るものに思わせるんです。
ステルス迷彩とか視覚迷彩とかの機能は隠蔽で、認識迷彩の機能は錯誤なんです。空間迷彩はちょっと違いますけど。空間迷彩の場合はベクトル指定による空間の再構築ですね。そういうのではなくて、適用対象を別のものに思わせるのが認識迷彩なんです。
でもその特徴があるから人気がないのかもしれませんね。扱いづらいですから。
別のものに思わせる、てことは、その別のものを指定する必要があるんですよ。認識迷彩は設定上は”有る”ものにしか思わせることができなくて”無い”ものとして指定することはできないんです。
もし無いように思わせたいのなら、不在が”有る”、て指定しなきゃいけないんです。”指定されてない故の不在”は無で、”指定された不在”は有なんです。指定は有のみで構成されなくてはいけないし、その構成に穴があるということは認識の錯誤に穴ができるということですから仕掛けた人の意図とは違った認識迷彩が展開されることになるんです。
だから使いやすさでいうと視覚迷彩とかの方が上なんですよ。何の指定の必要も無いですからね。
認識迷彩を仕掛けるには具体的な想像力が必要ですし、具体的な想像力を持ってる人なんて科学迷彩科でもそんなにいません。認識迷彩の授業が人気無いのもそこら辺からきてるんだと思うんですよね。
でも逆にそこが認識迷彩の強力なとこでもあるんですよ。細かい条件が付けられますから。
視覚迷彩だと無差別に見えなくするんですけど、認識迷彩だとある特定の人には見えない、て設定もできるんです。
認識迷彩ものに、バカには見えないシリーズ、ていうのがあるんですけど、それには条件付きの視覚迷彩みたいな機能があるんです。
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バカには見えないシリーズは本人がバカかどうかじゃなくて、本人が自分をバカだと思ってるかどうかで見えたり見えなかったりするんです。本人がバカかどうかで見えたり見えなかったりしてると思ってる人もいますけど、そういう設定は無理に近いんですよ。
バカ、て概念が曖昧ですから。
頭がいい、て概念が曖昧なのと同じように。
頭の回転とか持ち出してくる人もいますけどそんなものは潜在意識にアクセスしたぐらいじゃわからないですし、わかったとしても頭の回転速度が遅いかどうかは他の人との比較でしかわかりませんからね。
他の人との比較、ていうのは認識迷彩にはできません。認識迷彩で設定できるのは絶対認識であって相対認識じゃないんです。認識がそういう性質を持つものですから。
頭の回転の測定方法も一つじゃないですし、特定の知識の有無でバカかどうかを判別するのも無理です。
知識はその人が関わったことのある分野のものしか得られませんし、どの分野に関わるかは人によって変わります。
それに誰もが関わる分野なんてありませんからね。
たとえば今話してる知識のいくつかは科学迷彩をやってる人で知らない人はバカですけど、科学迷彩に関わらない人には要らない知識で、知らなくてもバカじゃないですし、下手すれば知ってたらバカ扱いされかねないくらいなんです。
科学迷彩をやってる人に限って”バカには見えない”ように仕掛けるなら、バカには見えない、じゃなくて、科学迷彩の知識が無い人には見えない、ていうふうになるんです。でもそれはバカとはいえませんからね。
そういうふうに、客観的にバカな人を判別するのは難しいんです。でも逆に、主観的に自分が自分をバカだと思ってるかどうかは一つの主観的な認識にアクセスすればいいだけなので簡単なんです。
バカには見えないシリーズが見えない人は客観的にバカなわけじゃなくて主観的に自分がバカだと思ってるだけなので、例えば東大生にも見えない人がいるんです。まあ東大だとそういう人の方が優秀だったりするみたいですけどね。意味の分からないエリート意識に蝕まれてない分、向上心が高い、とかで。
でもやっぱりそういう設定をするにはそういう設定を思いつかなきゃできないですし、そんな事ができる人はあんまりいないんです。だから認識迷彩の方が強力でも単なる視覚迷彩の方が人気なんですよ。
サバゲーでもあんまり複雑にしない方が盛り上がるみたいですからね。
それ以外にも認識迷彩があんまり人気がない理由は他にもあるんですよ。
たとえば視覚迷彩なら起動と解除もコントロールできますけど認識迷彩の場合は起動と解除はばらばらなんです。
さっき言った杖みたいに起動はコントロールできても解除は時限式だったり、ヘッドホンの人みたいに定着された意思を払拭するまで起動しっぱなし、ていうのもありますし、ひどいのになると常に起動しているのもありますからね。
そういう常に起動しているもののひとつに、認識迷彩の羽衣、ていうのがあるんですよ。
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教科書でしか見たこと無いですけど、認識迷彩の羽衣は認識した人の認識を屈折させて別なものに思わせる機能があるんです。
認識迷彩の羽衣は認識迷彩の羽衣を認識した人に作用しますから、視界に入っても絹連れの音が聞こえても触っても匂いをかいでも作用するんですよ。
それに認識迷彩の羽衣は解除ができないみたいですから、実際にどんな服なのかとか誰もわかんないんです。
それに射程距離は認識可能な距離だから事実上無限な上に服以外にも影響を及ぼすとか。
認識迷彩の羽衣の影響下にあるものは認識している人の認識をその人の潜在意識に従って屈折させるみたいなんです。
例えば認識迷彩の羽衣の影響下でなんか飛んできたら飛んできたものが微妙に違って認識されたりするんじゃないかと思います。
違って認識されると言っても意味は通るように認識されるみたいですから、真逆の意味とか全然違う方向の意味には認識されないと思いますね。認識している人が無意識に意味を通るように解釈してるみたいで。
例えばある人にはピンク色のぬいぐるみに見えたものが別のある人には生肉に見えるとか、ある人に”かめ○めは”、て聞こえたものが別の人には”メラゾ○マ”、て聞こえるとか。
あとでそれを見た人が同じときにそこにいた人と確認して互いに見てたものが違ってても、変だとは思っても思い違いにしか感じないと思います。話したことを細かいとこまで把握しておぼえてる人なんてそんなにいませんからね。どういう言い回しをしたとか、一瞬だけ目に入ったものとか、そういうのの記憶て結構いい加減ですし。
さらに人以外のものにも効きますから写真とって確認することもできないみたいなんですよ。写真に撮ってもそれを見るということは認識するということですから、写された写真は見る人によって違うものが写ってるように見えるんです。だからわたしが教科書で見た認識迷彩の羽衣も別の人が見ると私が見てるものとは別のものに見えるんですよ。
認識迷彩の射程距離は認識なので、認識するものであれば何にでも作用するんです。
他の認識迷彩なら解除したときに確認できますけど、認識迷彩の羽衣は解除できませんからね。
認識迷彩の杖の場合は作動させた人の潜在意識にアクセスして錯誤させてるので客観的な視点は一定ですけど、認識迷彩の羽衣は見ている人の潜在意識に作用しますからから客観的な視点は一定じゃないんです。ていうか客観がありえないんですよ。純粋な客観というのは存在しないですけどそれに実感を伴ったようにしたものなんです。
認識迷彩の羽衣の機能をわかりにくくいうと、客観性をもとにした主観のみで構成された錯誤なんです。
空間迷彩とは違って空間操作能力はありませんから防御力で言うと普通の服と同じぐらいしか無いですけどね。
コントロールもしづらいから扱いに困るらしくて、闇市に売られて今はどこにあるのかわからないらしいです。
見つかってもわからないと思いますし。
カタリナハムネットも使い道に困ったみたいですね。プ口トタイプとしてつくったはいいものの、実用という点ではとんと思いつかない、とかなんかに書いてありました。
そのプ口トタイプをどう発想して何を使ってつくったとかもわかんないですから。案外オカルト的なものを使ってるのかもしれないです。最初から磁気力制御だけでつくるのも難しそうですからね。
そういうのは教科書に書いてあるかも知れないですけど今日は教科書は持ってきてませんし。というか持ってませんし。借りて済ましてますし。
認識迷彩の羽衣に関しては口トの血を引いてる支店長にきけばわかると思いますよ。プ口トタイプつくったのもその人ですから。
まあその支店長、死んでますから話きけないですけどね。
伝説の勇者の血を引いてるんだから忌わの際になんか邪悪な魔王とかと刺し違えたりしてたらかっこいいんですけど、そういうのは全然なくて死因は単なる寿命みたいです。
……、いや、これは教科書じゃないです。なんだったかな、載ってたのはウィキペディアかウィキリークかなんかだったと思います。
……、教科書持ってきて欲しいんですか?
いやですね。
めんどいですし、重いんですよ。7センチぐらいありますからね、厚さ。わすれたというより持ってきたくなかったから持って来なかったんです。
持ってきてる人はいますからその人に見せてもらえばいいですし、見せてくれる人が見つからなくてもなんとかなりますからね。
………、え、なんですか?これ。紐……、じゃなくて「あぶないみずぎ」ですね。くれるんですか?これ。
いらないですね。
ていうか気をつけた方がいいですよ。わたしは「あぶないみずぎ」知ってますから大丈夫ですけど、知らない人に水着としてそれ渡したら嫌がらせとしか思われないと思いますよ、普通に通報されます。
……、わたしがなんで知ってるか、て、そんなの、「あぶないみずぎ」をつくったのがわたしだからに決まってるじゃないですか。先輩の誕生日に先輩が嫌がるようなものをあげようと思ってつくったんですよ。
一本だとちょっとインパクトが弱いと思ったから、6本セットであげたんです。
……、はい、もちろんです。ちゃんと嫌がってくれましたよ。神妙な顔して、ものすごい勢いで首を傾げてましたからね。
ていうかなんで「あぶないみずぎ」持ってるんですか?
………、あー、先輩から。折角あげたのにおまけでつけるなんて、ひどいなあ先輩。
そうだ、ちょっと待ってもらえますか?えーと、あれ、ないですね、鞄の奥に入れたんですけど……あ。あった。
はい、「あぶないみずぎ」ですね。




