カブトムシ養殖場での密会
アトリエで根を詰めて卒業制作に取り組んでいた私は、少し気分転換をしようと、彫刻科の裏手にある『カブトムシの養殖場』へ足を向けた。
彫刻で使われなくなった廃材を朽木にし、カブトムシを育ててお小遣い稼ぎをしている学生がいるのだ。
そこは静かで景色も良く、私にとってはお気に入りの場所だった。
しかし、今日ばかりは違った。 ふと視線をやると、見覚えのある二人が彫刻科の裏で身を寄せ合い、こそこそと密会しているではないか。
――雨宮さんと、坂井さんだ……。
遠くてはっきりとは聞こえなかったが、坂井さんが雨宮さんの肩に腕を絡ませ、すがりつくようにして囁くのが見えた。
「ごめんなさい。それとなく動くよう頼んでみたんだけど、ダメだったわ」
「もういいよ。自分でなんとかする。……あれから、事は簡単になった。あの天然のお姫様さえ落とせば良いんだ。あの月島の家に入り込むより、ずっと簡単だ」
「でも、あの子には婚約者がいるのよ? そう簡単には落ちないわ」
すると雨宮青児は、坂井さんの髪を撫でながらフッと余裕の笑みを浮かべた。
「僕がこれまで、何度修羅場を潜り抜けてきていると思う?」
「……そうね。青児さんに言い寄られて、落ちない女の子はいないもんね」
―――えっ? 天然のお姫様って、私のこと…!?……雨宮さん、やっぱりあの絵を狙っているんだ……
あの臙脂色のドレスの女性の絵は、私の大事な宝物なんだもん。
ぜっっつたいに、この男の手なんかには渡さない。 私を利用しようとしているなら、逆にハメ返して意地でも守り切ってみせる!
―――私は帰宅後、あの宝物の絵を家の蔵に深くしまい込み、しっかりと鍵をかけた。




