悪夢―蜘蛛の夢―
御影様が日本を発ってから、私は悪夢を見るようになった。
子供の身長くらいある大きな黄金蜘蛛が壁に張り付いていたり、数えきれないほどの女郎蜘蛛がぶら下がっていて、そこをくぐり抜けて通らなければならない夢だったり。 蜘蛛が大嫌いな私にとっては、まさに悪夢だ。
人にそれを言うと、「蜘蛛ってあっちから襲って来ないじゃない」とか、「噛むわけでもないし、毒があるわけでもない」と言い返される。 でも、あの形と色が本当に苦手なのだ。
何度も同じ夢を見るということは、何かの象徴であることに間違いはないのだろうけれど、それが何を指し示しているのかがわからなかった。
ある日、ハザマ様にお伺いを立ててみた。 しかし彼からは、「自分から気づかないと意味がないし、初音なら後でちゃんと気づくだろ」と言われてしまった。
そんな感じで悶々とした毎日を過ごしていると、一つだけ朗報があった。
美麗さんから「貞操帯の鍵を預かっている」と連絡があったのだ。 よかった。やっぱり御影様は、ちゃんと私の事を考えてくれていたんだ。
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日曜日、雨宮さんからLIMEが入った。 お父様である『月山青湖 追悼展』を開催するので、飾る絵を選んで欲しいとのことだった。私は坂井さんに見られていないか用心深く周囲を見渡しながら、雨宮家のアトリエに向かった。
色々な絵を見ているうちに、何とも言えない違和感を覚えたが、その正体が何なのかわからなかった。考え込んでいると、雨宮さんが温かい紅茶を手渡しながら聞いてくる。
「どうしたの?」
「あのね、この間、月島家に行って絵を回収し に行ったの。多分、その絵はお父様の作品だったんだと思う。でも、ここの絵とその絵のタッチが、なんか違うのよね。画風って年月と共に変わるものだとは思うんだけど……」
ここまで言うと、いつもは静かな語り口の彼が、突然強い口調で問い詰めてきた。
「どんな絵を持ってきた?」
「臙脂色のドレスを着た若い女性の絵とか……静物画とか」
「写真とかある?」と聞かれたので、スマホのロック画面に設定していた絵の写真を見せると、彼の顔色が変わった。
「この絵は、今どこに?」
「私の家だけど……」
「何故、君が持ってるの!?」
強く腕を掴まれ、私が驚いていると、彼ははっと我に返ったように「あっ、すまない」と謝ってきた。
「月島家の長男だった、月島 透青さん……今は室生家の養子になっているんだけど、その人がくれたの」
「…………」
それを聞くと、彼は黙り込んでしまった。




