初音、陥落す
数日後、追悼展に出す作品は初期の絵に選びなおす。月島 青湖の絵は、初期の絵の特徴である、抗う苦悩の様な、そして甘だるい雰囲気がでている方良いと思ったのだ。
一息ついていると、雨宮さんが私の頬に両手を当てて見つめてきた。
思わず彼の目を見たくなり、前髪をおでこの方へかきあげると
―― 二年前の秀青さんそっくりの、美しい素顔が現れた。
その深い瞳に見つめられながら、彼の両手が私の耳に触れ、やさしく揉んでくる。
あまりの気持ち良さに、思わず身を委ねてしまった。ゆっくりと頭皮をマッサージしながら、彼は私の反応を窺い、どこを触られると弱いのかを探ってきている。
彼が私の手の平を揉みはじめ、私がうっとりとし始めたその時、不意に頭の中に蜘蛛のイメージが浮かんだ。
――蜘蛛が獲物を糸でくるくると巻いて、身動きできなくさせる――
あぁ、あの悪夢の蜘蛛は、この人の象徴だったんだ……。
蜘蛛は決して自分からは襲ってこない。辛抱強く網を張り、獲物が自ら入り込んでくるのをじっと待っているのだ……。
彼は自分の美しい素顔をわざと隠し、さっきのように、私が自ら髪をかきあげるのを待っていたんだ。 私は、まんまと蜘蛛の網にかかった愚かな虫だったのだ。
彼が私の指を揉み始め、そこが一番弱いところだと察すると、指を深く絡めて恋人繋ぎにして握りしめてきた。 気を失うような痺れが頭に走り、自分が完全に陥落するのを自覚した。
しかし、彼が私の下半身に手をやろうとした瞬間――何かを察したように、すっと諦めた。
良かった……。 御影様の御英断がここで遺憾なく実力を発揮し、何とか最後の砦だけは守られた……




