雨宮青児の本性
甘い痺れの余韻で私はぐったりとして横になったまま、深く息を吐いた。
彼は私の指に自身の指を絡め、恋人繋ぎをしたまま、静かな声で問いかけてきた。
「……室生さんの彼氏はもの凄く用心深いね。いつもこんな風なの?」
彼の声には、微かな苛立ちと興味が混じっていた。私は絡められた指先の熱を感じながら、静かに彼を見据えて答える。
「いいえ。彼は、雨宮さんをもの凄く警戒しているようです。当初、私にはその理由がわからなかったんですけど……今は、充分に理解しています」
「へえ?」
「私が月島家との繋がりが強いと知った途端、あなたは、すぐにアプローチしてきました。……多分、お父様の絵が欲しいんですよね?」
その言葉を聞いた瞬間、絡め合っていた彼の手からふっと力が抜けた。
沈黙のあと、彼はうつむき加減で笑みを浮かべゆっくりと顔を上げた。
そこに、あの儚げで大人しい青年の面影はなかった。
「…………君って、天然で何も考えていないお姫様なのかと思ってたけど。とても鋭いね」
冷ややかな光を宿した瞳に見下ろされながら、私は彼に告げる。
「私もあなたのこと、朴訥で女性嫌いな人だと勘違いしていましたけど、違いますよね。生き延びるために、それこそ自分の容姿と絵の才能を武器に、なんでもしてきた人……ですよね?」
彼の目が、わずかに見開かれる。
私は頭の中で繋がったピースを、一つひとつ並べていった。
「画号と、本当に名乗りたかった名前……。あなたは『月島』と名乗れなかったから、月山 青湖という父親の画号の影で自意識を満たしていた。青児という名前も、読み方を変えれば『セイゴ』と読めますし……」
「月山青湖の後期作品は、あなたが描いていた。……だから、月島家にある絵とここの絵では、タッチが違ったんだわ」
アトリエの空気が凍りついたように重くなる。
やがて、彼は自嘲するように唇の端を上げた。
「……この短い期間でよく見抜いたね。君が初めてだったよ。まるでエスパーみたいだ」
軽口とは裏腹に、彼の声には暗く重い感情が渦巻いていた。
「君にはわからないよ。ちゃんとした両親に大事に育てられて……だから、いつものほほんとした幸せそうな態度でいられるんだ。……凄くイライラする」
(ああ、またか……これを言われるのは、何度目だろう……)
そういう人たちは本質的なところで、ひどく似通っている。
不意に、彼は空いたほうの手で私の耳に触れた。彼は私の耳を優しく揉みながら、耳元で毒蛇のように囁く。
「で、どうするの? 世間に僕のことバラすの?」
物理的な距離の近さと、脅迫めいた言葉。しかし、私の心は不思議なほど凪いでいた。
「月島の家にも迷惑がかかりますから、そんなことはしません。……追悼展が終わり次第、私があなたから離れるだけで済むことだから」
突き放すようにそう告げると、彼の指先がぴくりと震えたような気がした。




