業火に焼かれる―月島家―
私は雨宮さんが安心するよう、静かにこう伝えた。
「月島のお母様に、残りの十五点の絵を追悼展に出せるか聞いてきます。……これで、安心しましたか?」
自分が彼にとって敵ではないことをアピールする。
彼はふっと息を吐き、安堵したように私から絡めていた指を離した。
「ありがとう。君は本当に察しが良いね。でも、あのドレスの女性の絵も持ってきてくれると、もっと嬉しいんだけどな」
「あれは私の宝物なので、おいそれとは外に出せません」
「どうして、君はあの絵にあそこまで執着するの?」
「二十枚ほどあった絵の中で、一番輝いていたんです。うまく言えないけれど、内側から何か光っているように見えて……。それは、画家が注ぎ込んだエネルギーかもしれないし、モデルへの愛情が結晶化したものなのかもしれません」
「…………」
彼は何も答えず、ただ静かに目を伏せた。
*****
後日。私は月島家へお伺いし、お母様に「月島家に置いてある絵を追悼展に出品してもらえないか」と相談を持ちかけた。
「お母様にとって、夫である月山青湖はとても酷い人だったと思います。でも、あの素晴らしい絵をここで眠らせておくのは、とてももったいないのです。えてして、世に名を残すような画家は、周囲に対して酷い仕打ちをする人が多いと言います。生み出す作品の素晴らしさに反比例するように……」
「あの人にはものすごく泣かされてきたけれど……絵を世に出して、せめてもの供養にしてあげたいと思うわ。この間、秀青もそのことで話しに来ていたところだから……」
「そうだったのですか」
「初音さん、あちらの息子さんともお話ししたの?」
「はい。お話を聞く限りでは、大変な人生だったようです。月山青湖のモデル兼愛人は次々と入れ替わるし、生活もままならなかったようで……。一人の才能ある画家に人生を焼かれたのは、月島家の方たちだけではなかったのです」
「画家に限らず、突き抜けた才能を持つ人の周りというのは、こういうものなのでしょうね……。才能とセットになった『業』のようなもので、周囲の人間は焼かれる運命にあるのかしら……」




