接近する雨宮青児
学食でお昼を食べていると、斜向かいに、ハザマ様似のあの学生が座って話しかけてきた。
やはりハザマ様に似て低く、とても静かな声……。うっかりすると耳が孕みそうだった。
「あの、僕は油絵科、三年の雨宮青児といいます。貴女は月島 秀青という人と親しかったと聞いたのですが」
「えぇ、二年前の話ですけど。どうかされましたか?」
「彼の家と、交流がありましたか?」
「それなら! この間も、月島家に用事があって行きましたよ」
それを聞いた彼ははっとした表情をし、目を伏せた。
「……そうなんですね、今でも交流がある……」
「あの、お時間のある時で結構ですので、貴女とゆっくりお話してみたいです。今日はこれで……では、また」
そう挨拶をすると、彼はトレーを下げに行ってしまった。 私は、雨宮さんと「月島家」になんらかの深い関係がありそうだと確信した。
*****
学校の授業が終わると、室生の本家の方に行ってみた。 私は御影様の婚約者であり、お役目候補にもなったことで、顔パスで本家に出入りできる。
本家への敷居はずいぶんと低くなりつつあった。
「ハザマ様〜、ちょっとお聞きしたいことが……」
部屋を覗き込むと、あっ、婚約者の美麗さんがいた。
「すみません、お邪魔のようなのでまた今度にします……」
遠慮して引き返そうとすると、美麗さんが優しく声をかけてくれた。
「私は初音さんがいても構わないわよ? お茶を出すから、座っていって」
そう引き留められたので、遠慮なくお邪魔させていただくことにした。 ハザマ様は察しが良い。こちらが説明するまでもなく本題に入ってくれる。
「あいつが、接触してきたか?」
「ええ。ハザマ様にとても似ていて、月島家に関係する方だと思うのですが……」
「異母兄弟なんだ」
「あぁ、やっぱり。すると、お父様似なのですね?」
「父は稀代の色男で女好き、女たらしでな。母がとても苦労したよ。二ヶ月前に亡くなったんだがな」
(なるほど。顔だけでなく、女好きで女たらしなところまで遺伝してそっくりなのか……)
私が心の中で密かにそう思った瞬間――ハザマ様はキッと私を睨みつけてきた。
「私の今の体は、美麗しか知らないぞ!」
突然声を荒らげたハザマ様に、ちょうどお茶を運んできた美麗さんが驚いている。
「……? なんで、急にそんなことを初音さんに言うの?」
ごめんね、美麗さん。私とこの人の間には、水面下でいろいろなやり取りがあるの……。
*****
私が御影様のところに行って甘えようとすると、彼は深刻そうな顔で切り出した。
「悲しいお知らせがある。暫くベトナムへ、レアアースの鉱脈探しに行く……」
「えっ、会えなくなるなんて寂しいです。どれぐらいかかりますか?」
「わからん。鉱脈を見つけても、本当に商品化できるような品質なのか調べるのに時間がかかるし……」
「うぅ……私も御影様に貞操帯はめても良いですか?」
「はあ!? 俺の不貞を疑ってるんだな? いいか、俺が初音に装着させたのは理由が違うんだぞ!」
御影様はムキになって怒り出した。
「頭に来た! 貞操帯の鍵を美麗さんに預けていこうかと迷っていたが、俺が持ってベトナムに行く!」
「えぇっ! そんなぁ〜! 万が一、御影様が乗ってる飛行機が落ちたら、私は一生装着したまま過ごすことになるじゃないですか〜!」
「縁起でもないこと言うなぁーっ!!」
こうして、バカップルの騒がしい夜は過ぎていった。




