無名の名画との出逢い
室生 初音 : 地方の芸大4年生
室生御影: 初音の婚約者 霊的能力を持つ
ハザマ様 =室生 透青
室生家の巫覡をしている。
中の人は月島秀青で芸大の助手をしていた
執事の惟光さんの運転で、月島家に着いた。まずは、秀青さん(ハザマ様)のお母様にご挨拶をする。
積もる話もあったのだろう。ハザマ様はお母様と色々お話したいようで、私は案内された部屋で油絵の埃をとる作業をお願いされた。
その部屋は、絵の具が紫外線で劣化しないよう意図的に暗くされており、二十枚ほどの絵にシーツが被せられていた。
埃を払うためシーツを外していくと、その中の一枚に、何かが内側から発光して見えるような……他の絵とは一線を画す素晴らしい作品があり、思わず見入ってしまった。
それは若い女性がモデルで、赤い……臙脂色のドレスを着た女性が優しく微笑んでいる絵だった。
ハザマ様にとって、大事な女性だったのだろうか?
凄い。ただ「上手い」という言葉はまったく場違いで、似合わない。描き手の被写体に対する想いが、全身全霊でキャンバスに写し込まれていると感じざるを得ない。
私が感嘆していると、ハザマ様が部屋に入ってきた。
「その絵を取りに来たんだ。他にも数枚、持って行くけどな」
「…………」
なんだか、少し嫉妬を感じてしまう。こんなに美しく描いてもらえるなんて。どれほどの熱意が込められているか、仮にも芸大生の私には痛いほどわかるのだ。
*****
室生家に着くと、持ち帰った五枚の絵を丁寧に包む。
するとハザマ様は、その中の一枚……あの臙脂色のドレスを着た女性の絵を私に差し出して言った。
「この絵を初音にあげよう。暫くは、手元に置いておいてくれ。もし、誰かが欲しいと願い出たら、その人にあげても良い。誰が一番持っているべきか、その時にわかるから」
「……本当に私のものになるんですか? ありがとうございます! 手放すわけないじゃないですか、こんな素晴らしい絵!」
それを聞いたハザマ様はフッと笑い、
「やっぱりなぁ。これが良い絵だとわかるよな……仮にも美術の学生だもんな」と静かに呟いた。
残りの絵は室生家の蔵に入れ、後日、画廊に持っていくとのことだ。




