御影様の逆鱗
室生本家に連れ戻された私は、御影様の部屋で静かに問い詰められていた。
「あの男と何があった?」
「な、何も無いです! ほら、貞操帯もちゃんとこのように、一度も外すことなく装着しています」
私は必死にスカートを捲り上げ、御影様に見せる。
「お前の魂が、半分くらい抜けてあいつのとこに行っているのは自覚ある? 俺んとこには10パーセントも来てないんだけど?」
「それは、御影様の主観ではないですか?」
「ふーん。じゃあその首に掛けてる指輪、貸してみ? 面白いもん見せてやんよ」
そう言うと、彼は私から鎖に通した指輪を外し、両手でそれを包むようにして何かを読み取り始めた。
「初音が、あの男の髪をかきあげているのが見えるぞ。……あいつ、ハザマにそっくりだな。お前、奴の顔に見惚れて隙を見せただろ。そこを完全につけ込まれてる。触られると弱いところを探られて……おい、お前、指揉まれて陥落してんじゃん。……恋人繋ぎまでしやがって」
「何、その能力……!?」
私が驚愕していると、彼は冷たく言う。
「サイコメトリーと言って、物から記憶を再生できんだよ。初音、誤魔化し切れなかったな」
彼は自分の指からも婚約指輪を引き抜くと、そのまま廊下に出た。そして庭の方へ向かうなり、私の指輪と一緒に庭の池へと力任せに投げ入れたのだ!
「あっ……!」
惟光さんとハザマ様が慌てて池に入り、泥だらけになって指輪を探す。
「もう、婚約は破棄だ。俺は小夏と一緒にマンションで暮らす。じゃあな」
そう吐き捨てると、彼は私を残して去って行った。
私は、びしょびしょになってまで指輪を探し出してくれたハザマ様と惟光さんに、泣き崩れながらお礼を言った。
「拾ってくださって、ありがとうございました……。でも、もうダメかも……」
惟光さんは静かに首を振り、優しく諭すように言った。
「初音様に対して、本気で怒ったり悲しんだりできるのは、御影様にとって決してどうでもいい存在ではないからです。私から見れば、初音様は不貞など働いておられません。取るに足らない些細な出来事であっても激しい怒りが湧いてしまうのは、それだけ御影様にとって、初音様の存在があまりに大きいからこそなのです」
その言葉に、私はハンカチで目を押さえ、震えながら声を上げて泣いてしまった。




