第8話・騎士団の方に助けていただきましたわ
「令嬢、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「は、はい……」
セシリアは頷いた。
「あの……騎士様なのですか?」
「はい、今日は、非番でして……」
男はセシリアと目が合うと、少し照れたように笑った。
『セシリア! セシリア! 無事なのか! 大丈夫なのか!』
セシリアの頭上では、ルミナスバードによって、娘を心配するアルバートの声が響いていた。
セシリアが手を伸ばすと、ルミナスバードはセシリアの指にちょこんと止まる。
「お父様、ご心配をかけて、申し訳ありません。セシリアは無事ですわ。ならず者に連れ去られそうになりましたが、通りがかった騎士団の方に助けていただきましたの」
セシリアがルミナスバードにそう言うと、騎士だと名乗った男は、不思議そうにセシリアと話す小鳥を見つめていた。
どうやら、この小鳥型通信魔道具を、初めて見たらしかった。
『本当に騎士団に助けられたのか? 本当に無事なのか?』
無事だと言うのに、アルバートはまだ信じられないようだった。
心配しすぎだと思ったが、心配をかけているのは自分自身だと反省する。
そのとき、通行人たちが通報したのであろう、大勢の騎士団員が現れた。
「賊は五名だ。全員気絶しているから、騎士団まで連行して尋問してくれ」
セシリアを助けた男がそう言うと、わかった、と騎士団の男たちは頷いた。
「レオン副隊長、そちらが被害を受けられた方ですか?」
騎士団の一人が、セシリアを助けた男に問う。
レオンと呼ばれた男は頷くと、
「こちらの令嬢への事情聴取は、後日でもいいだろう。今は、早く家に帰して差し上げたい」
と部下に指示をし、セシリアを見、それからルミナスバードを見つめ、言った。
「自分の名は、レオン・ハートレイです。ハートレイ伯爵家の三男で、騎士団所属、現在は第三騎士団副隊長の任についております。ご令嬢のお名前とご家名をお伺いしても大丈夫でしょうか」
それはセシリアに聞いたというよりも、ルミナスバードの向こうにいるアルバートを安心させるための言葉のようだった。
それに気づいたのだろう、アルバートはルミナスバードを介して名乗る。
「レオン卿、娘を助けてくれてありがとう。私は、アルバート・グランチェスターだ。君が助けてくれたのは、娘のセシリアだ」
「グランチェスター侯爵閣下でしたか。そしてあなたが、セシリア嬢……」
「はい、セシリア・グランチェスターでございます。レオン様、助けていただきありがとうございました」
レオンは自己紹介をしたセシリアを見つめると、火がついたかのように赤面した。
「じ、自分は、レオン・ハートレイ、ですっ……。セ、セシリア嬢がご無事で、良かったですっ」
「レオン様?」
一体レオンはどうしたのだろうと、セシリアは首を傾げた。
今のしどろもどろな彼と、先程部下に的確な指示をしていた彼と、まるで真逆ではないかと思う。
「お嬢様! 申し訳ありません! ご無事ですか!」
ジゼルが戻ってきて、セシリアの頭のてっぺんから足の先まで確認し、怪我がないか確認する。
「かすり傷程度ですわ」
とセシリアが言うと、ジゼルはセシリアにかすり傷をつけてしまったこともショックだったようで、その場で土下座して泣いて謝った。
「ジゼル、仕方がないことですわ。元はと言えば、わたくしが外に出たいと言ったのがいけないのですわ」
セシリアはそう言うと、土下座を続けるジゼルの背中を撫で、
「ジゼル、もう家に帰りましょう」
と声をかけた。
その後、セシリアとジゼルは、馬車の待機所までレオンに送ってもらった。
セシリアたちが待機所に着くと、ちょうどグランチェスター侯爵家の馬車が待機所に着いて、アルバートが姿を現した。
「セシリア、心配をかけないでくれ……。心臓が止まるかと思ったよ……」
アルバートはそう言うと、セシリアを抱きしめた。
セシリア自身も、アルバートに内緒で外出してしまったため、アルバートや屋敷で待つ家族に対し、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「心配かけてごめんなさい」
と素直に謝ると、アルバートはセシリアの耳元で、「本当に無事で良かった」と呟いた。
「グランチェスター侯爵閣下、お初にお目にかかります。自分は、レオン・ハートレイと申します」
「レオン卿、この度は本当にありがとう」
アルバートはレオンの手を取ると、固く握りしめた。
「レオン卿、君がいなかったら、娘はどうなっていたことか……」
「いえ、セシリア嬢はお強い方です。自分は彼女のような強い女性を初めて見ました」
そう言ったレオンが、セシリアを見ると、また頬を染める。
褒められているとは思うのだが、どうして彼は自分を見ると、顔を赤くするのだろうと、セシリアは思う。
「セシリア嬢をさらおうとした者たちは、捕らえております。後日、セシリア嬢にお話を伺うことになると思います。その際には、ご協力をお願いします」
そう言ったレオンに、セシリアもアルバートも頷いた。
「お父様、本日は本当に、申し訳ありませんでした」
帰りの馬車で、セシリアはもう一度アルバートに謝罪した。
アルバートは困ったようにセシリアを見つめ、
「お前が安心して外出するには、まだ早かったようだな」
と言う。
セシリアは頷き、アルバートの顔を見つめ返した。
「それで、お父様……何か、おわかりになりましたか?」
ルミナスバードで父に助けを求めたが、その後すぐにセシリアはレオンに助けられた。
そのことを確認したアルバートがセシリアを迎えに来るまで、何もしていなかったはずがない。
セシリアの予想通り、騎士団での尋問報告を待つことなく、アルバートは今回の騒動の黒幕を突き止めていた。
「レインズ男爵が雇ったらしい……。うちからの慰謝料請求の話を聞いて、自棄になったということだろう」
「そうですか……なんて迷惑な……」
ふう、と呆れたように息をついたセシリアの隣で、口元を引きつらせながら、
「旦那様、お嬢様、消しますか?」
とジゼルが言う。
ジゼルは、かすり傷とはいえセシリアが傷を負ったこと、そして自分が彼女の危機にそばにいなかったことが、許せないようだった。
「そうですわね……それもなしとは言いませんが……あぁいう方々には、惨めに生きていく方が、辛いのではないかしら」
セシリアがそう言うと、あぁ、とアルバートも頷いた。
グランチェスター侯爵家からの慰謝料請求の他、今回の件も含めレインズ男爵家の悪事は、これから白日の下にさらされるだろう。
「あとのことは、騎士団と王宮法務局に任せよう。全てを明らかにされて惨めに生きていくか、処刑されるか……どちらにせよ、わざわざこちらが手を回す必要はないよ」
「えぇ、そうですわね」
アルバートの決断に、セシリアは微笑みながら頷いた。
「セシリアー! 無事かー!」
屋敷へと戻ると、祖父が自慢の槍を手にして馬に乗り、今にも飛び出そうとしているところだった。
必死に止めている祖母と母の姿に、セシリアはまた申し訳ない気持ちになってしまった。




