表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

第9話 勝つための、たった一つの方法

要の身体が自販機ごと壁に叩きつけられた。

男は飛び上がり、自販機ごと要を蹴りつける。


愉しむように口の端を吊り上げ、男は容赦なくガンガンと蹴りを入れる。

自販機と壁に挟まれ身動き取れず、要はされるがままだった。


「さっきまでの威勢はどうしたの? ほら──やり返してみなよ」


男が煽るように言って、拳が振り抜かれる。

その拳が自販機を貫通し、要の身体を直接殴りつけた。


「かなめっ!」


我慢できずに駆け出そうとすると──。


「来るなっ!!!」


必死の叫びに、足を止める。

要はなんとか自販機を退かし、ふらふらと立ち上がった。


傷だらけで、頭からは血が流れている。

血に濡れた顔で要は俺を見て、かすかに笑った。


「……かなめ」


「俺は大丈夫だよ、素直。だから……そこで待ってて」


「あははっ治さなくていいの? 今の状態、結構やばいでしょ。なんてったってボク──キミの一部を『奪った』からね」


男の真っ赤な手には、要の臓器が握られていた。


もしかして、さっき殴った一発で──。


「これ、まだキミと繋がってるんだ。例えばこうやって握ると──」


男が手のひらにある臓器を握る。

要がごぶっと血を吐き、腹を押さえて膝をついた。


「ほら。効いてるでしょ?」


「……かすり傷ですよ、こんなの」


掌の臓器が、音もなく消えた。それでも要の顔色は青白いままだ。

要の腹を見る。傷が、まだ塞がっていない。


「そうか。キミ、まだ力が回復しきってないんだ。自分への修復を最小限にして、あの子にプロテクトを掛け続けてる。しかもかなり分厚いやつ。無駄なことしてるね……そんな事しなくたってボクは、正々堂々キミを殺してからあの子を食べるってのに」


「……プロテクト?」


自分の身体を見る。俺の身体を、何かが包んでいる感覚があった。

もしかして、要が自分を治さないのって──。


「せっかくやり合うんだ。全力で来いよ。約束する。キミを完全に潰すまでは、あの子には一切手を出さない」


要は額に脂汗を滲ませ、首を横に振る。


「嫌です……ぐっ!」


男の蹴りが、要を打ち抜く。

その爪先は、確実に要の傷口に突き刺さっていた。


「うっ……っ!」


要が腹を押さえ、その場に崩れ落ちた。


「何蹲ってるの? そのままやるんでしょ? さっさと立ってよ。『根性』あるんだろ? ほら、立てって」


男は馬鹿にするように言って、要の背をガンガンと踏みつけた。


俺のせいだ。


「ぐっ! う゛っ!」


俺のせいで、要が苦しんでる。


「ほら、早くしろって。男だろ? 根性出せよ、根性」


だったら──。


「っ……やめろっ!」


考えるより先に体が動いていた。地を蹴って走り出す。

男がこちらを見て、足を止める。


その隙に滑り込むように、俺は要に覆いかぶさった。


「……いい加減にしろよ、お前」


恐怖を噛み殺し、男を睨む。


「これ以上やるなら……俺が代わりに相手になってやる」


言葉と裏腹に、要の背に添えた手は、情けないくらいにガタガタと震えていた。


「……ずるいよキミ」


男が何かに怯えるように一歩下がる。男の視線が、俺と要の間を行き来する。


「ボクは、あの人に守ってもらえなかったのになぁ……」


呟いて、男は唇を噛む。

その顔が、俺には泣きそうに歪んでいるように見えた。


「っ……ごほっ!」


男が咳き込み、膝をつく。

その咳込みはどんどん酷くなり、やがて血を吐いた。

ぜえぜえと苦しそうに息をしている。チャンスだ。


「要っ!」


俺は要を支え、柱の影に逃げた。



男から距離を取り、柱に身を隠す。


肩で息をしながら座り込む。要はぐったりと目を閉じていた。


空間が元に戻らない。つまりあいつは撤退してないってことだ。

時間がない。まずは要の傷を、どうにかしないと。


「要、大丈夫か?」


「……うん」


口元にはさっき吐いた血が伝っていて、顔色も血の気が引いている。

全然大丈夫じゃなさそうだ。


「俺に回してるプロテクト薄くして、一旦自分の回復に回せよ」


「……それは、できないよ」


「なんでっ!」


「素直が傷つくとこなんて、俺……見たくないから」


要が泣きそうな顔をしながら俺を見る。


こいつ、こんなにぼろぼろになってるのに、まだ俺の心配なんか──。


胸が締め付けられるように痛み、目の奥が潤む。

泣いてる場合じゃない。首を振ってそれを払った。


「んなこと言ってる場合じゃないだろ! このままじゃお前死ぬぞっ! 俺も一緒に戦う。力の使い方、教えてくれ!」


「素直」


ふいに要の顔が近づく。ハッとして俺は要の目を見た。


「覚えてる? ここ来る前、絶対勝てる方法があるって言ってたの」


確かに要は言ってた。

それをすれば、100%あいつに勝てるって方法があるって。確か俺の協力が必要とかなんとか──。


「教えろよ要! やるぞ! その方法!」


「……本当に、いいの?」


「言ってる場合かよっ! 早くやらねぇとあいつがまた来るぞ!」


そう迫ると、要の手が躊躇いがちに俺の頬を撫でる。

なんだ? と思って手を見ていると、今度は顎をくいと持ち上げられた。


前を見る。要が真剣な顔で、俺を見つめていた。


「じゃあ、するよ」


「え?」


「素直、目、閉じて」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ