第7話 密着する体温
翌日も平日だったので、俺達は宿題と支度を済ませ、普通に学校に登校した。
ぐっすり寝たからだろう。要は調子が良さそうだったのでほっとした。
何事もなく時間が過ぎ、昼休み。
俺達はいつもの場所に向かい、通学途中に買ったコンビニのパンを食べる。
昨日晩飯を食いそびれたので、俺も要も3つ買った。
二人で並んで座り、パンとパック牛乳をもくもくと頬張る。
昼時に要が静かだなんて、変な感じだ。
まあ、昨日あんな事があったんだから、当たり前か。
ちらりと要を見る。
サンドイッチを咀嚼しながら、どこを見るでもなく視線を漂わせていた。
「なあ、連続殺人事件の犯人ってさ……あいつなの?」
俺がそう切り出すと、要がサンドイッチを齧ろうとしていたのを止め、頷いた。
「十中八九そうだろうね。目的は能力者の心臓を探しってとこかな」
「なんで心臓なんか欲しがるんだ?」
「能力者の心臓を取り込めば、能力を自分の物に出来るからだよ」
「なるほど。あの男は、俺の壊す能力が欲しくて襲ってきたってことか」
要が頷く。
「昨日の様子から考えると、そう日を空けてくるようなタイプじゃないと思う。もしかしたら今晩また襲撃してくる可能性が高い。だから、迎え撃つ準備をしておこうと思うんだ。少しでも勝算を上げるために。出来るだけ体制を整えておきたい」
「じゃあ要が言ってた『当てがある』って奴に会いに行くのか?」
「……いや、その方法は、個人的には頼りたくない」
「んなこと言ってる場合かよ。やっぱ俺も一緒に戦った方がいいんじゃないか? 戦い方なんか分かんねえけど、なんでも壊す力なら何とかなるかもだろ。実際、あいつの投げてきた道路標識もぶっ壊せたんだから」
「ダメだよ。素直、力の使い方も加減も知らないだろ? ひとつ間違えればこの街ごと消し飛ぶし、際限なく使えば、素直の命が尽きる可能性だってあるんだ」
「俺の力って……そんなにやばいのか」
「それに素直は体力無いし、運動神経悪いし、根本的に戦いに向いてないだろ。とにかく、素直が一緒に戦うって案は絶対ナシ」
珍しいくらいに食い気味で、要が俺をディスる。
確かに俺は能力者の中でもズブの素人なんだろうけど……いくらなんでも言いすぎじゃね?
さすがにムッとしながらも返した。
「じゃあどうすんだよ。頼れそうな奴には頼りたくない。俺が戦うのも駄目。打つ手がないだろ。それに、守られるだけって俺、正直嫌なんだけど」
要は指先を口元に添えて、少し考えるように沈黙する。
そして急に立ち上がり言った。
「素直、早退しよっか」
「は?」
「素直の家に行こう。今から」
「えっ……ちょ!?」
要に腕を引かれる。
そのまま、引きずられるみたいに俺は学校を出た。
「……要?」
「なに?」
「あの、これは……どういうこと?」
「いいから、じっとしてて」
ここは俺の家で、ベッドの上。
俺はなぜか要に抱きすくめられて、ベッドの上で寝転んでいた。
身体を微かにでも動かせば、二人分の重みにぎしりとシングルベッドが軋む。
おいおい。これは一体……どういう状況だ?
「……要」
「なに?」
「一応確認しとくけど、変な気起こしてるわけじゃ……無いんだよな?」
「あはは、違うよ。これは俺を強化するために必要な行為なんだ」
「強化?」
「能力者の力っていうのはリンクするんだ。近くにいればいるほど、心臓同士を近づけるほど、互いの力に相互作用が発生する。今こうやってくっついてるのはね、素直の力を俺に貸してもらうためだよ」
このやり方で流れてくるのは、微々たるものだけどね。と要は付け加えた。
そういえば、要はやたらと俺の心音を気にしていたし、距離が近かった。
あれはそういうことだったのか。
意識を集中してみる。確かに何かが吸い取られて、何かが流れ込んでくるような感覚があった。
「もっと直接的で強力なものもあるんだけど、それは流石に……ね」
「直接的って、たとえば?」
要は言いにくそうに口ごもる。
珍しいな、こいつがこんな風になるなんて、と思いながらじっと見ていると、要はようやくこちらを見て言った。
「まあ、その方法は……必要になった時に教える」
「なんじゃそら……とりあえずは分かったけどさ。いつまでこうしてればいいんだよ。まさか敵が襲撃してくるまでずっとか?」
「それが理想だね」
「はぁ……やってらんねぇ~」
そうは言いつつも、俺は要に抱きしめられている事に、そう悪い気がしてなかった。
要の体温と匂いは、やけに落ち着く。
こいつが距離近いのなんて、今にはじまったことじゃないし。
……あ、ちょっと眠くなってきた。
「要……寝てていい?」
「いいよ」
要がやわらかく言って、俺の頭を撫でる。
子供扱いしやがってと思いながらも、髪をすべる手が優しくて、心地よくて、眠気が深くなっていく。
「じゃあなんかあったら……起こして」
こんな時に呑気だと自分でも思う。
でも、三大欲求なのだ。
そうそうコントロール出来るもんじゃない。
それに、もし何かあっても、要がどうにかするだろう。
目を閉じる。
すぐ傍で、要の鼓動が響いた。
ドクン、ドクン。
俺の鼓動と要の鼓動の音が揃う。リンクしていく。
身体の境界線がぼやけて、溶けていくような感じだ。
気持ちいい。落ち着く。もっと、深いところまで──。
安心するはずなのに、まるで何かに掴まれるように、心臓がぎし、と軋んだ。
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