第48話 一目惚れ
にこりとこちらに笑みを向けるギャルを、改めて見る。
手入れの行き届いた長い金髪は、毛先に向かうにつれてピンク色のグラデーションがかかっている。
白い肌、長い手足に小さな顔。画面越しでしか見たことがないくらいレベルで容姿が整っていた。
カラーコンタクトだろうか、瞳の色も毛先と同じようにピンク色だ。
着ている制服もこの辺では見かけない。茶色のブレザーにチェックのスカート。
一体このギャル……何者だ?
「あの。あなた……誰ですか」
問いかけると、ギャルはきょとんとした顔で首を傾げ、慌てたようにあわわと身体の前で手を振った。
「あっちがうの! あたしっ……全然怪しいものじゃないよ!?」
いや、めちゃくちゃ怪しいんですけど。
なんでこんな綺麗なギャルがこんな廃工場にいるんだよ。
それに、さっきの──。
「あんた、能力者か」
要が俺を降ろし、鋭く問いかける。
するとギャルはハッとしたような顔になり、小さく頷いた。
「何をしにきた。それにさっきの能りょ──」
「おい神宮寺! 命の恩人やぞ!? まずは礼が先やろ!!!」
突然のすさまじい横槍に逆巻を見る。目がハートになっていた。
こいつ、さては一目惚れしたな。
「あ、あのっ助けてくれてありがとう!! 俺は逆巻隼人言います! あなたは!?」
「え? あ、あたしはひより……姫川ひより」
「ひよりちゃん!? 名前までかっわええ~~~っ!!!」
逆巻はとろけた顔で両頬を押さえ、悶えるように身をよじる。
「……おい、逆巻」
「んあ? なんや神宮寺」
「お前、危機意識とかないのか? さっきの鉄骨があいつの自作自演って可能性だってあるだろ」
「はぁ!? んなわけないやろ! だって意味ないやんけ! やるんやったらあのまま助けず見とったらええだけやろっ!」
「それは……確かにそうだけど」
要がちらりと姫川さんを見る。
姫川さんはビクッと身を震わせ、怯えたように視線を逸らした。
「かなめ」
「……うん。わかってる」
俺に返事をし、要はさっきよりやわらかい声色で姫川さんに言った。
「あの……さっきは助けてくださって、ありがとうございました。姫川さんは、どうしてこんなところに」
「それは……あたしの能力のせいなの」
「能力のせい?」
姫川さんは自らの鼻先を指さした。
「あたし、能力のせいで鼻がすごく効くんだ。だから能力者かどうかも匂いで分かるの。今も能力者の匂いをたどって、たまたま君たちの所にたどり着いたって感じ」
「匂いで分かる? さっきの鉄骨の消失も、姫川さんの能力ってことですか」
姫川さんがこくりと頷く。
そして左手をぱっと開き、工場の隅に積んである鉄パイプへと向き直った。
「ぱくっ」
声とともに指先を閉じる。するとバグンと音を立て、鉄パイプが消失した。
俺達三人は、唖然とそれを見る。
そんな、あの質量を、一瞬で──。
息を呑んで姫川さんを見る。
何かを咀嚼するようにもごもごと口を動かし、ごくんと飲み込み、こちらを振り返った。
「これがあたしの能力──『食べる』だよ」
翌日の昼休み。
俺と要がいつも通り屋上裏で寛いでいると、バタバタと騒がしく逆巻がやってきた。
「空木! 見ろやこれ!」
と鼻息荒く手に持ったものを見せてくる。それは女性向けのファッション誌だった。
「え……なにそれ?」
「なにそれちゃうわ! 見ろやこの表紙っ!」
そう息巻いて顔面スレスレまで雑誌を押し付けてくる。
いや、それじゃ逆に見えねーよ。
うんざりしながら距離を空けて見る。そして「あ、」と声を上げた。
「これ……姫川さんじゃん」
「そうっ! ひよりちゃんモデルやってん! すごない!?」
雑誌が引っ込み、逆巻のキラキラした目が眼前に迫る。俺は思わず身を引いた。
それから逆巻は聞いてもないのに姫川さんの情報を嬉々として語りだした。
姫川さんは隣町の有名なお嬢様校に通っている高校2年生の現役モデル。
SNSのフォロワー数50万人超の人気インフルエンサーでもあるらしい。
雑誌やメディアにも出ていて、これからを期待されている有名人だとか。
「なあ空木! ひよりちゃんを仲間にできたらええと思わんか!? あの食べる能力めちゃくちゃ強いでっ! 間違いなくなっ!!」
「それはそうだけど……お前、どう考えても下心で言ってんだろ」
「はぁ!? んなわけないやろ! 俺は今後のこと考えて言うてるんやで!? エデンに立ち向かうためにはなぁ! 仲間は多けりゃ多いほどええんやっ!」
逆巻は鼻息荒く熱弁する。
俺は要を見る。やはり俺と同じ顔をしていた。
「何の話してんだお前ら~?」
「うわっ!?」
突然頭上から声。
見上げると、高槻先生が立ったまま俺達を覗きこんでいた。
「高槻先生……」
「まだ屋上で話し声がするな~と思って来てみれば。やっぱお前らかっ。仲いいのはけっこーなことだけどさあ。予鈴、とっくに鳴ってるぞ~」
「あ、すいません。話し込んでて、気づきませんでした……」
ふと高槻先生の視線が、逆巻が大事そうに抱えている雑誌へと落ちる。
「なんだ~? もしかしてその表紙の子、逆巻の推しってやつ~?」
「ちゃいます! 初恋の相手ですっ! 昨日偶然工場で会って、そんとき一目惚れ──」
「だーもういいからっ! いこうぜっ!」
バカっ! 余計なこと言いやがって!
逆巻の腕を引っ張り、俺達は逃げるように屋上を後にした。
本作は【火・木・土】更新予定です。
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