第46話 特訓開始!
放課後。
俺と要と逆巻は、こないだの廃工場へ向かった。
「それにしても、なんで急に空木の特訓なんや?」
「対策だよ。こないだの一件で、エデンが素直を狙ってるのが分かった。これからも刺客が来るに違いない」
「エデンって、あの能力者だけで構成されたきな臭い連中か。まあ、あの営業マンが言うてたのがほんまやったら、間違いなく追っ手が来るやろなぁ」
「戦闘要員は多いに越したことないし、素直も自分で身を守れるようにしときたい……そうでしょ? 素直」
こいつ、俺の言いたいこと全部言いやがって。俺はムスッとしながら答えた。
「まあな。お前らに守られるばっかじゃ、癪だし」
腕を組んでそっぽを向くと、要が気遣うように俺の隣に立った。
俺達をちらちらと見て、逆巻は頭の後ろで腕を組み、「なるほどなぁ」とこぼした。
「素直、この鉄骨に触ってみて」
そう言って要が隅に積んである鉄骨を指さす。言われた通り触ると、要の手が俺の手に重なる。
「壊す力を手のひらに集めて、鉄骨に流し込むイメージをするんだ。強くイメージできれば、力もそれに応える」
「壊す力を、流し込む……」
こないだの湊さんとの戦闘の時の感覚を思い出す。
手のひらが熱くなり、触れた部分が、バキンとへこんだ。
「うおっ!?」
「今の感覚、わかった?」
「お、おう……」
「じゃあもう一回。次は──これを壊して」
要は大きなコンクリートの固まりを指さした。
こんなん出来るのか? とさすがに不安になる。とりあえずしゃがんで触れてみて、さっきと同じようにイメージする。
すると亀裂が入り、バキンと真っ二つに割れた。
「ほ~ん、空木、けっこー筋がええやん?」
「そ、そうなのか……?」
「能力のコントロールはそれなりにできてそうだね。じゃあ次は……逆巻」
「あいよ」
逆巻が俺の前に立つ。俺はそれを疑問符を浮かべて見上げた。
「? なんだよ?」
「何って実戦や。さっさと立たんかい」
「えっもうかよ!?」
「当たり前やろ。物壊せたって戦われへんかったら何の意味もないやんけ」
「で、でもなぁ~……」
ちらりと要を見る。
「大丈夫だよ素直。痛い思いはさせないから。そんなことしたら、俺が逆巻をボコボコにする」
「お前はあいっかわらずやなぁ~。文句あるんやったら自分が空木の相手せえや」
「打たれ強いのはお前のほうだろ。こういうのは逆巻が適任だ」
「どーせ自分が空木を傷つけんのが嫌なだけやろ」
「なんか言ったか?」
「へーへー。神宮寺様のおうせのままに~」
「なあ、逆巻……マジでやるの?」
「大丈夫だいじょーぶ。俺はお前に攻撃せえへん。その証拠にほら、バット出してへんやろ?」
逆巻は空いた両手をこちらに見せてくる。
確かにそうだけど、ダチに殴り掛かるってのは気が引けるな。
「ほら、遠慮せずさっさと来いや。お前の戦闘能力見たる」
「……じゃあ、遠慮なく」
つっても、どーやって戦えばいいのかなんて、分かんねーよ。
とりあえず左拳を握りしめ、逆巻へと助走をつけて殴りかかった。
だが──。
「おわっ!?」
当然と言えば当然だけど、逆巻は身を翻し、それを避ける。
勢いつけて殴りかかった俺は、そのままコンクリートにべしゃりと倒れ込んだ。
逆巻が呆れたような顔で見下ろし、ため息をついた。
「なんやそれ、へっぴり腰やし体幹も終わっとる。能力以前の問題やなぁ」
「だから言ってんだろ。俺、運動はからっきしだって……」
「神宮寺」
逆巻が振り返り、要を呼ぶ。要は腕を組んだまま逆巻を見た。
「こいつ、完全に俺に任せてくれるんか?」
「……ある程度は」
「あっそ。ほな空木、行くで」
「え?」
腕をぐいと引かれ、立ち上がる。
「今のお前じゃ話にならん。まずは身体づくりからや」
「身体づくりって?」
「ランニング10キロ、腹筋100回、スクワット100回、腕立て100回、今からやるで」
「え…………はぁ!?」
「はぁっはぁっ……」
「おい空木! ペース落ちてんで! ついてこんかい!」
「うっせーなぁっ! これっ……これでもっ……全力で走ってるわぁっ……!」
ぜえぜえ息を切らしながら、少し前を走る逆巻へと必死についていく。
心臓は破れるんじゃないかというくらいにドクドク鳴ったままで、身体はまるで重りが付いたみたいに、思ったように進まない。
いきなりランニング10キロ? ありえないだろ。俺帰宅部だぞ? せめて段階踏めよバカっ!
心のなかで悪態をついていると、
「あっ!?」
小石に躓き、そのままべしゃりとずっこけた。
逆巻が足を止め、こちらに歩いてくる。
「何やっとんねん。鈍くさいやっちゃなぁ~」
手を借りて立ち上がる。顔を打ち付けたせいで、ぼたぼたと鼻血が地面に落ちた。
「う゛っせーな、これでも全力でやってんだよ……」
「まっ今日はこんくらいで許したるわ。明日また同じメニューやるで」
「はぁ!? 明日も!?」
「当たり前やろ。お前今日腹筋10回、スクワット15回、腕立て0回、ついでにランニングは2キロしかできてへんやろ。ちゃんとこなせるようになるまで続けるで」
「ま……まじか」
翌日の放課後。
俺は逆巻に引っ張られ、体操着に無理矢理着替えさせられ、河川敷沿いを走っていた。
どうやら前を走る逆巻は、昨日よりペースを落としてくれているようだ。
だけど、しんどい。
昨日のトレーニングのせいで全身が筋肉痛だし、疲労も抜けきってない。
っていうか、こんなこと……ほんとに意味あんのか?
「なあっさかまきっ」
「なんや?」
「別にこんなことしなくたってっ、能力で肉体強化とかっ……できるんじゃねーの?」
逆巻が突然立ち止まる。ぶつかりそうになりながら、俺もどうにか止まった。
「なんだよ急に……っ」
逆巻の人差し指が伸びてきて、俺の胸を突く。驚いて顔を上げると、逆巻は俺の目を見て言った。
「空木、お前は車や」
「……は?」
「能力がエンジン、お前はそれを積んだ車。いくらエンジンに馬力があっても、ボディの剛性が弱けりゃパワーに耐えられへんで壊れるし、部品が貧弱なら、性能を出し切れんどころか、振り回されてまう。つまりな、お前の能力は、今のお前の身体にはオーバースペックなんや。だから身体の方を鍛えて合わせてやらんと、能力を使うって前提にすらたどり着けへんってわけ」
「でも、こないだ言ってただろ。俺、コントロールはできてるって」
「あんなもんやない」
「?」
「お前の力は異常や。異常に強い。それは一緒におる俺も、肌で感じてることや。お前が壊す力を、完全に自分のモンにできたら──」
「自分のもんにできたら?」
逆巻の指が俺の胸から離れる。
そしてぐっと親指を立て、びしっと自分を指さした。
「お前が壊す力使えるようなったらな……俺の次に強なるでっ! 間違いなくなっ!」
「……はぁ」
いまいち腑に落ちないまま、頷く。
「やめるか?」
「え?」
「別にええで。確かにお前の言う通り、能力使って肉体強化って方法はある。リスクはあるけどな」
俺は額の汗を乱暴に拭い、その提案に首を横に振った。
「いや、やる。俺はこの力を……誰かのために、使えるようになりたいから」
逆巻が驚いたように目を丸くする。そしてにやりと八重歯を見せた。
「ふーん。空木もちょっとは芯のある奴になったっちゅーことか。ほな再開や。行くでっ!」
「おう!」
俺は決意を胸に、走り出した逆巻の後を追った。
本作は【火・木・土】更新予定です。
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