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第44話 決意

俺達は旅館へと移動し、豪華な懐石料理で腹を満たしてから、部屋に備え付けの露天風呂に入ることにした。

かけ湯で身体を流してから、二人で湯船につかる。


「はぁ~……いい湯だね。素直」


要はリラックスした様子で頭にタオルを乗せ、ほっと目を閉じる。

檜の香りのする湯船は、男二人が入っても充分足を伸ばせる広さだ。

俺はその端っこにちょこんと体育座りして、要に問いかけた。


「なあ要」

「ん?」

「この宿、めちゃくちゃたけーんじゃねえの? 俺、あんま金ないんだけど……」

「あはは、なんだ素直、そんなの気にしてたの? いいよ。ここは俺が出すから」

「お前なぁ……」

「だって俺が来たかったんだもんここ。素直とだったら気兼ねしないしさ。要するに、付き合ってもらったってわけ」


要が俺に顔を近付け、にやりと意地悪っぽく笑う。

嘘つけ、と思いながら、俺はそっぽを向いた。


「あっそ。じゃあ遠慮なく」

「そーそー。ねえ、後で下の庭園散歩しない? 浴衣着てさ」


露天風呂からは、ライトアップされた庭園が一望できる。

石畳の小道や灯籠が並び、木々の隙間からは小さな池も見えた。

確かに、腹ごなしに散歩するのにちょうど良さそうだ。


「分かった。付き合ってやる」

「へへ、やった。素直の浴衣姿。いっぱい写真取っとかないと」

「浴衣は着ねえよ。着方わかんねーし」

「え~? 素直、浴衣着れないの? だったら俺が着付けてあげるよ~」

「くっ……この御曹司め」



露天風呂を出て、要に浴衣を着付けてもらう。浴衣をバサリと広げて背後に立った要が、ふと動きを止めた。


「素直」

「なに」

「これ……本当に治さなくていいの?」


指の腹が、背中の傷跡をそっとなぞる。

俺は顔だけで少し振り向く。要はまるで、自分が傷ついたみたいな顔をしていた。


「痛かったでしょ。素直に言われたから、応急処置程度にしか治してなかったし……」

「いいんだよ。これはこのままで」

「でも、結構目立つよこの跡。やっぱり、治したほうが──」

「ダメ」


遮ると、要の指先がぴくりと震え、傷跡から離れていく。


「これは俺の弱さと後悔の証なんだ。だから治さない。もう二度とあんな事、繰り返さないためにもな」


湊さんの顔が、ふと頭に浮かぶ。

死刑判決が確定したことは、嫌でも耳に入ってきた。

湊さんは今、何を考えているんだろう。冷たい独房の中で、何をしているんだろう。


「……わかった。でも、こういうのは、これで最後にしてね」


言葉とともに、背後から抱きすくめられる。振り向くと、要は俺の肩に顔を埋めていた。

俺の身体を抱き寄せる大きな手は、かすかに震えていた。


「かなめ?」

「たまに怖くなるんだ。素直は優しいから、いつか誰かのために……自分を差し出してしまうんじゃないかって」


耳元で響く頼りない声。俺は要の手に、自分の手をそっと重ねた。


「心配かけたよな、ごめん……でも俺、今回のことでわかったんだ。もっと強くならなきゃいけないって」

「……強く?」


要が顔を上げ、俺の顔を覗き込む。その目をしっかりと見つめ、俺は言った。


「要。俺、壊す力をちゃんと使えるようになりたい。だから──力の使い方。俺に教えてくれ」

更新遅くなってすみません! これからは週3投稿復活します!!!

本作は【火・木・土】更新です。


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