表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/45

第40話 全部見せて

「素直っ……すなおっ!!!」


霞む視界の向こうで、要が叫ぶ。

身体を引きずるようにして、俺の方へ手を伸ばしていた。


「っ……うつ、ぎ……!」


逆巻の声が耳の届く。

よかった。二人とも、まだ生きてる。


強烈な痛みと薄れゆく意識の中、俺は微かに安堵した。


「あ~もう動かないでよ二人とも。コントロールがずれるだろ? 君達にけっこう神経使ってるんだからさぁ」


湊さんがやれやれと言いたげにため息を吐き、二人の方へと手のひらを向けた。

要も逆巻も、糸が切れた人形みたいに動きを止め、沈黙する。


次の瞬間。


ドガッ!


肩に衝撃が走る。

俺はそのまま仰向けに倒れ込んだ。


「ぐっ!」


倒れ込んだ次の瞬間には、革靴が右肩を踏みつける。


霞む視界で見上げると、目が合う。

湊さんは穏やかな笑みを浮かべて、俺を見下ろしていた。


「残念、こんなに早く終わっちゃうなんてなぁ。最初の二人よりも手応えがなかったよ。つまんないなぁ……あぁそうだ。せっかくだからさ。今からここで、解体パーティでもしようか?」


ギラリと光るナイフを手に、湊さんは俺の前へしゃがみ込んだ。


「素直くんって痛いの好き? 今までの子はさ、みんな嫌いだったみたいなんだ。だからちゃんと痛覚を抜いてから心臓を抜き取ってあげたよ。優しいでしょ僕? ……でも、素直くんにはそういう配慮、してあげる気が無くなっちゃった」


トントン。

鋭利な刃先が、俺の胸元をつつく。

俺はそれを、ぼんやりと眺めた。


「安心してよ。死んだ子達の心臓は、僕らエデンの研究に使わせてもらう。ただの凡人の心臓でも、エデンでは貴重な資源だからね。無駄にはしないよ」


ナイフの切っ先が、胸元をなぞる。


「ねえ素直くん。僕は君の心臓が欲しいんだ。君と過ごした時間はね、その目的を果たすために積み重ねただけのものなんだ。何を勘違いしてるのか知らないけどさ、それ以上の意味なんか、ないんだよ?」


子どもに言い聞かせるように、湊さんは言う。

だから俺は、それに答えた。


「……ってください」


「なに? やっと命乞いの言葉? いいよ。もし友達になりたいって言葉を撤回するなら、楽に殺して──」


「俺と……友達になってください」


「……は?」


湊さんの目が、信じられないものを見るように開く。チャンスだと思った。

俺は力を振り絞り、両手で湊さんを突き飛ばした。


「っ!」


バランスを崩した湊さんの手からナイフが飛んでいく。

俺はそのまま湊さんを押し倒し、のしかかった。


「っ! なんでまだそんな力が……っ!?」


湊さんの目が俺の腹を見る。

さっきまで血を流していた傷口は、跡形もなく消えていた。


「その治癒のスピード……能力循環かっクソっ!」


暴れようとした湊さんの両手を地面へ押さえつけ、壊す感覚を両手へと一気に集約させる。


次の瞬間。


湊さんの腕から、すっと力が抜けた。

余裕の笑みが完全に消える。


焦ったようにこちらを睨む瞳をまっすぐ見下ろし、俺は再び言った。


「湊さん、俺と友達になってください」


「なるわけないだろっ……離せよクソっ!」


湊さんが俺の下で暴れる。それをどうにか押さえつけた。


「湊さん! 俺の話を聞いてくださいっ!」


「聞くわけないだろこのっ……離せっ!」


湊さんが激しく身をよじる。


ダメだ。力がブレるっ……思うようにコントロールできない!


押さえ込んでいたはずの腕が、少しずつ持ち上がっていく。


「っ……!」


気付いた時には、俺の背中が地面へ叩きつけられていた。


「ぐっ!」


肩を押さえつけられ、湊さんが落ちていたナイフを手にする。


まずい。

そう思ったその時には、ナイフが俺の身体へ振り下ろされるのが見えた。


「っ!」


とっさに腕を掴んで止める。壊す力を手のひらに込めた。

だけど、感覚が戻らない。

こんなことなら、要に力のコントロールの仕方を教わっておけばよかった!


腕力の差は圧倒的だ。刃先が、顔のスレスレまで近づいてきていた。


「手を離しなよ、素直くん」


「……いや、だっ」


至近距離で視線がぶつかる。


湊さんの口元が、ふ、と緩んだ。


それと同時にナイフが高く振り上がった。

振り上げられたナイフにつられ、俺の手も離れてしまう。


次の瞬間、そのナイフが振り下ろされた。


ざくり。

俺の右肩に、ナイフが深く突き立てられた。


「あっ……ぐぅっ!」


「あははっごめんごめん刺さっちゃったぁ~」


ぐりぐりと傷を抉るようにナイフが動く。

傷口から血が溢れ出し、強烈な痛みが走った。


「い゛っ……う゛うぅ~……っ!」


逃げようと身を捩る。だけど、のしかかった湊さんの身体はびくともしない。

ナイフを握る湊さんの手を必死に掴む。

それでも刃は止まらず、俺は痛みに耐えきれず、踵で地面を掻いた。


「素直くん、いい加減諦めなよ。無駄な抵抗ばっかりして……もう勝敗はついてるでしょ?」


ナイフが引き抜かれ、再び振り下ろされる。

今度は二の腕に突き刺さり、勢いよく血が飛び散った。


「ぐっ……あああぁっ!」


痛みに喚く俺を、湊さんは目を薄く開き、楽しそうに見下ろしていた。


「痛い? 痛いでしょ? 余計なこと言わず、大人しく殺されていれば、こんな痛い目に合わずに済んだのにね? あははっ無駄なことしたねぇ〜?」


「……無駄じゃ、ない」


左手でぐいとネクタイを引く。

鼻先が触れそうな距離まで、湊さんを引き寄せた。


驚いたように開かれた目を至近距離で見つめて、俺は言った。


「湊さん。俺はこんなの……こんなの全然、大丈夫です。だって……湊さんのほうが、ずっと痛そうな顔してるから」


「……は? 僕が?」


ナイフを握る手から、微かに力が抜ける。

湊さんの表情には、強い困惑の色が浮かんでいた。


ネクタイから手を離し、湊さんの頬を撫でる。

俺の血で、湊さんの顔が赤く汚れた。切れ長の目が、その手のひらを見た。


やっぱりそうだ。この人はずっと、何かに苦しんでる。

俺は知りたい。湊さんがいったい何にそんなに苦しんでいるのか。何を抱えているのかを。


「湊さん。貴方の全部……俺に見せてください」


頬をそっと引き寄せ、俺は湊さんの唇へと、キスをした。


バキ。


触れた唇の間から、心の壁が壊れる音がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ